『ツキとは運の付きかな。いや、尽きかな』
何処からか声が聞こえる。幻想的で神秘的で、それでいて殺気立っているような声色。
瞬間、視界が反転した。同時にくる左足の締め付けられた感覚。
そして、逆さまの状態で空中を勢いよく飛び、森の中へと入る。
地面に体をこすり、泥に頭を浸け、枝に軍服を切り刻まれ、草で体中を切る。痛みに口を開ければそこから土や草が入り、悲鳴すら上げることは叶わない。
時間にしておそらくほんの十秒。何だ、何が起きた。
途端に怒りがこみ上げてくる。国から賜ったこの軍服を汚し、国の宝である私をこれ程にまで踏みにじった。この罪は重い。
きっと、この犯罪を犯したものは、あの声の主であろう。
『ああ、いたいた。全く、この人間の身の程知らずには困ったものだよ』
その声と共に、自分の右手の小指が切られた感触がした。
実際に、コロコロと転がるそれは、確かに私のものだ。
頭から血がなくなる感覚がした。視界が悪くなり、その小指から目が離せない。
『あらら、この程度で音を上げてもらっちゃ困るな。いや、人間には毛ほどの興味もないんだ。勘違いしても良いが、それは助けにならない』
次に同じく右手のくすり指が千切れる。どちらかというと、引っ張って抜けた感じだ。
私の、私の身体が、おかしい。
「――――」
声を出そうとした。この島には少尉がいるはずだから。しかし、声は出なかった。出せなかった。
『私の興味があるものは艦娘だ。だから、艦娘の為にも音を上げてもらっちゃ困る』
中指からは面倒になったのか、あらぬ方向に同時に折れた。
左手は手首から千切られ、次には足が一本外れて、もう片方は光の粒子となって消えていく。
外れた足は、丁寧に足の構造を教えるかのように肉が剥ぎ取られていく。
湧き上がってくるのは吐き気と恐怖。しかしまだ、諦めてはいない。この状況を凌ぎ、この犯人を殺す。ただ殺すのでは足らない。これよりも残虐性をもって、
『そうそう、艦娘は人間より下等ではない。むしろ超常の存在と言えるだろう。人間よりも自然に対応できている。それがどれほど素晴らしいことか、わかる人間は少ない』
光の粒子は腰の部分でなくなり、私の体は上半身を残すのみとなる。
その上半身には、可動域を超えないように動く腕と現状普通の腹が見える。
「――――」
再度訪れる悲鳴を上げたい痛み。腹を一部焼かれ、そこには文字が浮かび上がる。
憎い。クズ。忘れるな。しね。愚かね。恨むぞ。哀れだ。思い出せ。消えろ。……
全面に書かれた文字。その度肉体的に痛めつけられ、それでも悲鳴は上げられない。
『君程度の人間に艦娘から贈られている言葉だ。ありがたく受け取るといい。さて、これ以上やると提督に怒られそうだから、開放してあげよう』
提督…少尉のことか。少尉も関わっているとなると、これは一旦引き返したほうが……ボートがないのだった。
ならば、説得する他ない、か。少尉のため大佐である私には逆らうことは出来ない。この辱めの代償は高くつく。
気がつくと私は普段の体であり、木にもたれかかっていた。ふと、見上げれば、丘の上には半壊の家が見える。あそこに少尉がいるのだろう。
怒りを飲み込んで演じきってやろう。艦娘は道具ではないと、そういえば問題ない。