補給途絶鎮守府   作:フユガスキ

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θ中将視点です。白露がトラックとぶつかる少し前の話になります。


いっちばーん(5)

「…どういうことだ」

 

 最近少なくなってきた書類の束を上から一枚ずつ処理していると、少しばかり異様なものを発見した。

 その紙はη少将からであり、それ自体は変ではない。ただ、その内容が精神科医にでも連れて行こうかと思えるほどの奇妙な文章だったのである。

 

 内容は演習についてだった。兄貴――ζ大将の百箇日のついでに紹介された男、α少尉、いや中尉の艦隊との昼夜込みの戦闘の申請。そこにも疑問符はつくが、さほど奇妙ではない。

 奇妙なのは、PS.B勝利だった。の一文である。正式な書類に何をしているのか、と呆れたいがそうじゃない。B勝利だったのである。

 

 η少将は海軍内でも空母の戦術に通じていると評判である。その彼がたった一年の特例提督にB勝利しか取れなかったのだ。

 

 特例提督、それは一般的な司令官並の活躍が期待できるから故の措置である。その基準は妖精さんが知覚できるかどうか、である。

 妖精さんという存在は大きい。知覚できなければ建造すらまともにできず、その結果3年前の妖精事件のような反乱すら起こり得る。

 つまり、妖精さんを知覚できるだけで即戦力なのである。

 

 しかしそれは、戦術を知らない者が、質を量で補った結果である。だから特例提督――α中尉は、質も量も持ち合わせる者――η少将には敵わないはずのである。

 

 そこで今回のB勝利だ。η少将たる者がα中尉との演習で勝てないはずがなく、むしろS勝利が普通であろう。百歩譲ってもA勝利だのにB勝利。明らかにおかしい。

 

「オウっ、てーとくぅ、手がおっそーい」

 

 そう言って、事務処理のスピード勝負を仕掛けてきた島風がこちらの紙を覗き込んでくる。

 そして、その紙に了承の判子を押して自分の作業に戻っていった。まぁ、良いか。もしかしたら、η少将が何かを起こすためのきっかけ程度なのかもしれない。きっと、この判断は間違っていないはずだ。

 

 残りの書類も決済し、時間は22時丁度。遠征部隊の結果報告書と出撃部隊の戦果報告書を受け取り、消費と増加分を纏め一息つき、島風の入れた麦茶を取る。

 

――カスっ

 

 手は空振り、麦茶を取ることは叶わなかった。代わりのように手の中には三枚の書類があり、横目に見れば島風が麦茶を飲んでいる。

 

「ゴクッ、ぷはぁ。あ、今日の業務終了の手続きと、残業分のお金に、インスタント食品と麦茶の在庫が少なくなったので追加、お願いしますね。早めにね」

 

 そう言い残して、おっおー、と言いながら執務室から出ていく。彼女は花瓶を割ったことを、ここで反省するのが目的だと分かっているのだろうか。

 もう数え切れないほど物を壊しているが、いつの間にか執務室にはインスタント食品用の棚ができている。最早、ここに来るのが当然のように捉えてる節がある。

 

……α中尉との演習時に艦隊に加えるか。

 

◇◇◇たまに三人称、主に電視点です

 

 電なのです。先日、η少将と演習したと思ったら、今度はθ中将との演習を予定に入れる、という身の程を知らないバカなα司令官さんをぶっ飛ばし、言い訳をし出したので頭突きをかましてやりました。電なのです。

 

「お初にお目にかかります。η島付近のγ島のα中尉です」

 

「η少将から聞いている。早速、開始しようではないか」

 

 その合図と共に10機の艦載機が飛んでいった。

 あれは何なのだろうか。そう思って艦娘がいるであろう方向を見ると、そこには日向がいた。

 

「お、特別なずいう」

 

「貴様が旗艦か。よろしく頼むぞ」

 

 幅の広いコートを羽織った艦娘が話しかけてきた。見上げて顔を確認すれば、どの艦娘も驚くだろう。戦艦長門と、後ろにいるのは戦艦大和である。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。なのです」

 

 周りを見れば相手の艦隊は、長門、大和、伊勢、大淀、島風、響、だそうだ。それに対して電達は、電、吹雪、叢雲、漣、五月雨、である。戦力差は圧倒的である。

 

「ふむ、潜水艦がいると思ったが、そうでもないのか。α中尉、もう一隻はどこだ」

 

「いえ、我が艦隊はこの5人のみです」

 

 一瞬、θ中将は目を見開き、深く目を閉じる。何かを考えているのか、電には分からない。

 

「…演習開始は一四〇〇からだ。総員、持ち場につけ」

 

 号令がかかり、一斉に海へと出ていく。去り際に長門さんが、我々は常に全力だ。エンジェル…駆逐艦と言えど、手加減はないと思え。と言っていた。

 

 そして、海に出てから分かったが、どうやら先の10機はこの演習の映像を撮るためのもののようだ。

 

《まあ、いつも通り頼むよ》

 

《まともな指示をお願いしてやるのです》

 

《高度な柔軟性をもって、的確かつ効率的に、臨機応変な行動をして欲しい》

 

 α司令官さんはまともの意味が分からないようだ。知っていたが。

 

「ふー、……電の本気をみるのです!」

 

 作戦開始です。

 電探によりθ艦隊を探しつつ、航行する。相手の艦隊には航空戦艦伊勢がおり、偵察機に見つかり次第、攻撃を開始してくるだろう。

 しかしながら、θ中将は大の戦艦好き。艦載機の開発は少ないと聞く。つまり、艦載機を全てうち落とせれば、相手は砲でしか攻撃手段がない。

 

「電、来たわ!」

 

 いち早く敵偵察機に気づいたのは叢雲である。ここでα司令官さんが電達に積ませた機銃や高角砲が活躍できる。

 叢雲の10cm高角砲×2と高射装置により、奇跡的なまでに瑞雲12型を落とす。どうやら、だいぶ少ないみたいだ。すべての爆撃を避けきり、瑞雲をすべて撃墜する。

 

「作戦A、なのです」

 

 作戦A――取り敢えず逃げるが勝ち作戦を実行に移す。そもそも駆逐艦というのは昼に大したダメージは期待できない。しかし、夜になるとそれなりに活躍できる。

 また、演習の勝利条件はこちらが無傷で、相手を一隻でも轟沈判定にすれば最低限勝利できる。つまり、航空機に攻撃されなければ、夜戦まで逃げて勝ちである。

 

 とかいう、バカげた作戦だ。α司令官さんの命令なので従わざるを得ない。

 

◇◇◇急に長門視点

 

「なぜ逃げている!」

 

「長門がエンジェルとか言うからよ!」

 

 かれこれ三時間程鬼ごっこをしている。最初は可愛らしいので素直に追いかけていたが、流石に長過ぎる。

 

「二手に分かれるか。低速な私、大和、伊勢はこのまま追いかけ、大淀、島風ちゃ…島風、響「ヴェールヌイ」…ヴェールヌイは周り込め」

 

「それは二時間前にこの大和が言いました。…大淀さん、島風ちゃん、響ちゃ「ヴェールヌイ」、ヴェールヌイちゃん、よろしくお願いします」

 

「分かりました。では」

 

 そう言って大淀とエンジェルスは私共より速く進んでいく。

 

「フフフ、あの5人のエンジェルたちとも後で一緒に風呂に入ろう。こういう焦らしもまた一興だ。勝つのが楽しみだなぁ!」

 

「最後だけ切り抜ければ、まだいいんだけどね」

 

◇◇◇戻ります

 

「さて、そろそろでしょう」

 

 吹雪がふと、言葉を発する。確かにそろそろだ。

 

「おそらく、そろそろ敵艦隊は二手に分かれているのです。なので、思惑通り、片方に突っ込むのです」

 

 そう、おそらく分けるのだとしたら、戦艦とその他である。つまり、その他の軽巡と駆逐艦が回り込むなどしているはずなので、電達は攻撃を仕掛けると戦力的にも丁度いい。そう、戦艦のほうに。

 

「おぉ、不敵な笑みを浮かべていらしゃる」

 

「電ちゃん、その笑い方やめてよぉ!」

 

「進行方向反転なのです。その後、単縦陣を組み、長門さん達に攻撃しにいくのです」

 

 電探の範囲内に3隻を感じとった。おそらくこれが電達に回り込む艦隊だろう。電探で捉えられるかられないかの際の部分を航行している。

 

 充分に引きつけて……今!

 最大限の時間を確保し、最大速度で戦艦に突っ込む。

 

……発見!

 射程はあちらが長いので、α司令官さんによりで培った回避で肉薄していく。

 

 そもそも、電たちの脅威となるのは主砲による攻撃である。当たり前に思うかもしれないが、考える過程が違う。

 電たちはα司令官さんにより、大破していても時間があれば回復できるような、想像力がある。そのため、戦場で戦艦のような一撃大破の砲撃を受けると、回復が時間的に出来ない。

 

 しかし、機銃など火力の低いものは違う。圧倒的な衝撃がなければ、電たちは想像力により瞬時に回復出来る。まあ、行く行くは主砲でさえ怪我をしない、というのをα司令官さんは求めているらしいが。

 

 そんなわけで、電たちは必然的に砲撃を避けなければならない。そこで、これまたα司令官さんにより、回避力を強制的に上げさせられた。

 大破の状態で夜にイ級の砲撃を避けることから始まり、…本当にあれだけは辛かった。

 

 右に左に弾を避け、ついに戦艦の懐へと入る。

 

「チィッ!」

 

 大和と伊勢を手前側に出し、長門だけ後ろに下がり距離を取る。

 漣と五月雨に目配せし長門を追いかけさせる。何とか進路妨害と誘導を混ぜて3隻が固まる状態に戻す。

 

「おっそーい!」

 

 吹雪が砲撃に撃たれる。

 

「叢雲ちゃん!」

 

「分かったわ!」

 

 2隻を戦線から遠ざける。もちろんそこに砲撃が飛ぶことが予想されるので、魚雷で牽制しながら下がり、追ってこれないようにしている。

 待ってましたとばかりに戦艦らが砲撃を開始するので電と漣と五月雨で大淀らの方に行く。

 

「五月雨ちゃんは島風ちゃんを、漣ちゃんは響ちゃんをお願いするのです!」

 

「はい!」

 

「ほいさっさー!」

 

 島風は速いが故に少しばかり突出しているので、一対一に持ち込みやすい。響と大淀は無理やり引き剥がせば良い。最悪、二対二である。

 だが、おそらく簡単に離れる。理由は――

 

「電さん、よく分かりましたね、私らが対潜装備を積んでいるということに」

 

 そう、対潜である。θ中将は、潜水艦がいない、と言っていた。つまり、潜水艦がいる想定だったということだ。

 そして、戦艦は対潜が出来ず、航空戦艦も水上爆撃機を数機しか積んでないとなると、潜水艦には手も足も出ない。

 よって、考えられるのは駆逐艦と軽巡に潜水艦を攻撃させるということ。そして、第6駆逐隊の中でも対潜値の高い響を起用しているということは、潜水艦を攻撃するためだろう。

 また、大淀の4スロットを活かして、対潜のサポートをしているのだろう。

 

 したがって、彼女らには対水上艦の攻撃力がいつもより低い。けれども、いつもより低いだけであって、電たちに負けるわけではない。

 相手からすれば、本来は連携を取るべきである電たちが、自らその選択肢を手放したのだ。それは一対一では絶対の自信があるであろう彼女らへの煽りである。

 

「けれど、とはいっても練度の差はひっくり返らないのですよ。その選択が間違いであったことを次に活かしてくださいね」

 

 それはα司令官さん次第である。

 

◇◇◇ひび…ヴェールヌイだ。

 

 なんだ。何なのだ、この漣は。

 

 装甲値には自信がある私が、小破に追い込まれて尚、漣は無傷である。

 状況は私が有利なはずだ。戦艦の人たちの砲撃もあるし、練度では勝ってるはずだし、第一、彼女らは実質3隻しか残っていない。

 

 2隻は戦線を離脱し、たった半数。だというのに、相手は無傷。

 戦艦の砲撃は避け、私達の砲撃も避け、偶に当たったと思っても、何故か当たっていない。

 

 そんな調子で延々と戦っていると、大破したはずの吹雪が無傷で戦闘に参加し始め、混乱した私達は一旦離れることにした。

 

「吹雪さんは大破だったと思いますが、皆さんはどうでしたか?」

 

「私もそのように見えた」

 

 皆同意見であり間違ってはない。

 どういうことだ。

 

「なぁ、時雨と夕立の話は知っているな?」

 

 時雨と夕立の話。噂程度に流される奇跡の話。

 時雨がある池を入渠ドックだと言い、夕立を騙し、夕立がそこに浸かると、たちまち傷は全て消えた、というものだ。

 

「一応、このビックセブンも同じ艦隊だったのでな。…この話は本当だ」

 

 皆一様に驚きを表している。あの長門が認めたのだ。

 

「他言するなよ」

 

 周りを見れば、戦艦の方は大丈夫だろう。大淀さんは艦隊司令部と行き来していたぐらいには信頼できる人だ。

 私も口は硬いほうだと思っているし、島風はよく執務室にいるので問題ない。流石長門さんだ。ハラショー。

 

「ある研究があってな。それによると想像によりこの体は作られているらしいのだ。それを逆手に取り、怪我を治したのではないか、と思うのだ」

 

「それは大破であっても、ですか?」

 

「ああ、そうだろうな」

 

 皆、黙り込んでしまう。それはそうだ。これではいくら私達が攻撃しようとも、全てなかったことにしてしまうのだ。勝てるわけがない。

 

「…いや、忘れてくれ。そもそも、簡単に治せるのなら、逃げたり、近づいてきたり、しないだろう。つまり、一撃必殺で攻撃すれば、勝ち筋はある。現に、あれだけ攻撃されていても、島風も響「ヴェールヌイ」、ヴェールヌイも小破だ。攻撃力はないものと思っていいだろう」

 

 日が沈み、夜になる。作戦…とは言えないが、やるべきことは決まった。いこう。

 

◇◇◇電なのです

 

 夜戦というものは少し見えづらいため当たりどころが悪ければすぐに大破してしまう。

 そのため少し苦手だが、出来るだけやってみようと思う。

 

 泥沼のようにただ撃って躱して、絶対に怪我などしていないという意思を持ち、自分の体は怪我などない。……α司令官さんのせいでよく鏡の前に立たないといけなくなった為、若干ナルシスト気味になっているのは、腹いせに後で殴っておこう。

 

 さてさて、戦艦の砲撃による水柱を左に右に避けていき、駆逐艦を狙っていく。電たちの攻撃が通用するのは駆逐艦ぐらいである。

 

 おっと、左腕に衝撃が…。いや、衝撃などない。現に電の腕は見えなくなって、肩から血が出ているに過ぎない。

 電の腕、電の腕…。右腕を見て、それと似たような物を左腕に生成する。すると、指から骨まですべて逆なので、それらを人間の仕組みと合わせていき、自然な電の左腕が完成した。

 

 漣に続いて砲撃をし、響に当たる。予想外だったのか、ちゃんとした対処もせずにそれを喰らい、中破へとなる。

 

「不死鳥じゃない…。まるで、ゾンビだ…!」

 

 響が独り言のように、そう呟いたのを聞こえた。

 その発言により、後に不死身(ゾンビ)艦隊と呼ばれるようになるのを、彼女たちはまだ知らない。

 

「フッ!」

 

 それは夜戦まで誰一人欠けることなく参加してるが故の発言だろう。粘り強く夜戦に持ち込み、一本の勝ち筋を掴み取る。

 

 駆逐艦ばかり狙っていると、戦艦が庇ってしまう恐れがあるので、偶に戦艦の方に行き、すれ違いざまに魚雷を投げる。

 低速で大きな戦艦は、どんなに上手く動こうと一本は当たってしまうだろう。

 

 長門に向かって投げた魚雷は予想通りに水柱を上げ、命中したことを知らせる。

 すると、弾が飛んでくるので、爆発の影響を受けないように、なるべく躱していく。

 

 全て躱しきり島風に向かって砲撃をする。

 ふと、何だか躱しやすくなっている気がした。やはり空母との演習で避けることに専念していたのが活きたのだろうか。

 

 取り敢えず、混戦になりかけているので、指示を出して一旦離脱する。夜戦において混戦状態というのは好ましくないからだ。

 

「全員、いるのですか?」

 

「大丈夫よ。私と吹雪は、ね」

 

「漣とサミーも、異常なーし」

 

 どうやら航行不能になっていた人はいなかったようだ。夜戦となると、どうしても助けるのは難しいので、安堵する。

 そして、気持ちを切り替えて敵情報を問うと、

 

「島風ちゃんは轟沈判定をだしたよ」

 

「ええ、ちょっと速かったけど、何とか仕留めたわ」

 

 なるほど、じゃあ残り5隻。

 

「はい!響ちゃんも轟沈判定です!」

 

「うん、サミーがちびっこにぶつかりかけてたけど、一応その前に轟沈させてたぜぇ」

 

 おっと、4隻のようだ。だいぶ減っている。このまま逃げきれば、戦術的勝利だろう。

 

――ドクンッ

 

「カハッ」

 

 血反吐を吐いて、体中が痛みに悲鳴を上げる。

 

 そう、轟沈だったり、大破だったりそういうものの怪我を回復させるのが想像である。

 逆に言えば、大破姿を想像してしまえば、大破になってしまうということだ。

 

 2隻の轟沈の結果収集で少し生々しく想像してしまったため、一種の発作のように気絶するような痛みに襲われる。

 

「ああもう、ちょっと休んでなさいよ。あと4隻ぐらいなら何とかなるから」

 

 叢雲にそう催促される。確かに、これを治すのには少し時間がいる。

 仕方ない。ちょっとだけ休むとしよう。

 

◇◇◇胸が熱いな!

 

 完全に掌の上で戦っている感覚だ。

 響の言ったように、まるでゾンビかのように無限に戦うその様は、狂気と言える。

 

 その上、私達は本来の戦い方が通用せず。戦艦の火力は全くと言っていいほど活かしていない。

 そして、こちらはエンジェルスが轟沈してしまった。作戦とはいえ、守りきれなかったことは悔やみきれない。

 

「もうすぐ、終了の時間です。長門さん、せめて旗艦だけでも轟沈させないと、勝利にはなりませんよ」

 

「分かっているつもりだ。しかし、あのエンジェルたちは旗艦と離れていても、各艦が完璧な連携をしている。あれでは指揮系統をダウンさせても、意味がない」

 

 そうだ。彼女らは練度という枠組みで劣っていても、強さにおいては互角に近しい。そう思って相手をしなければならないだろう。

 けれども、通常じゃあり得ない戦術だ。その対処にどれほどの時間を要するのか、未知数である。時間の余裕もなく、この戦況もひっくり返せない。

 

「――来ました!」

 

 4隻の駆逐艦が姿を現し、こちらに向かっている。

 

「艦隊ッこの長門に続け!斉射、ッてー!」

 

 予想通りに当たらず、全ての弾丸の雨を避けきり、こちらに突進してくる。

 

「右舷に進め!」

 

 号令を下し、右舷に進路変換する。できる限りの距離を取りたいところだ。

 

「む、大和!何をしている!」

 

 単縦陣で進んでいるかと思えば、大和のみ艦隊から落伍していた。もう、敵艦隊との距離も近い。

 

 大和は何故か砲も向けておらず、完全に戦意を喪失している。

 異常時だと思ったのか、駆逐艦のエンジェルたちも砲を下ろして、大和に近づいた。

 

「あの、何か合ったんですか?」

 

「……」

 

 大和は無言のままそのエンジェルたちを見つめている。いつもの私なら大和を張り倒してでも場所を交換したいところだが、今はその光景を見つめることしかできない。

 

 不意に、大和の副砲が動き出し、上を向く。

 その角度の先にあるのは、日向の出していた観戦用の瑞雲である。

 爆発とともに弾は飛び出し、瑞雲を撃墜する。

 

「…さて、今は誰の目にもここは映りません」

 

 腰の前に手を重ね、ボソボソと喋り始める。

 

「私達はθ中将の艦隊です。だから、貴方がたに負けるわけには参りません。ですから、私達は全力でこの戦いに臨みました。そして、今は私達は貴方がたよりも弱いことを実感しました。私達が勝つことは出来ないでしょう」

 

 まさか…

 

「けれど、私達は負けるわけにはいきません。…虫のいい話なのは承知の上で、勝ちを譲って頂けないでしょうか」

 

 そう言って、大和は頭を下げようとしている。

 

「止めろ、大和」

 

 手を出して、頭を下げることを止める。私に気づいたのか、驚いた様子を一瞬だけ見せて、反抗の目を向けてくる。

 

「しかし、こうでもしなければッ――」

 

「違うッ。お前の頭はそんなに簡単に下げていいものではない。下げるのならば、先に私の頭だ。…そういう訳で、私からも言いたい。どうか、勝ちを譲ってくれないだろうか」

 

 そう言って、勢いよく頭を下げる。

 まさか、このビックセブンが誰かに頭を下げる日が来るとは思ってもいなかった。

 

「いや、その、頭を上げてください。……まぁ、ちょっとスミマセン」

 

 頭を上げて、声の主を見れば、そこには少し距離をとった漣がいた。

 主砲を体の前で構えて、私がそれを視界に入れた瞬間に、撃った。

 

「!…ん?」

 

 撃たれた感触はあった。けれども、怪我を負っていない。

 

「この通り、漣達の攻撃では傷一つ、つけることも出来マセン。それに、旗艦も轟沈判定なので、実質負け確何ですヨネ」

 

 ご、轟沈?いつ、轟沈していたのだ。

 そう思っていると、遠くの方から旗艦が無傷の状態でやってきた。

 

「あ、あの、何かあったのですか?」

 

「ちょ、末妹〜。今、いい感じだったんよ。もうちょい空気読もうゾ」

 

「え、何でそんな塩対応なのですか!?スパイス付け過ぎて、言葉のキャッチボールが一方的に手荒れしちゃうのです!」

 

「落ち着きなさいよ。全く。電は何言ってるかわからないのよ。普通は内角低めのフォークボールは取れないわ」

 

「酷いのDEATH」

 

「WA☆O、160km/h級の死球は漣には耐えられないのです」

 

 そんなやり取りをしているエンジェルたち。可愛らしい…?

 

 そして、空に演習終了を示す合図が光り、私達は武装を解除する。

 

「ふふ…私達の負けですね」

 

「あ、ちょっと待ってください、なのです」

 

 そう言うと電は轟沈判定程の怪我に豹変する。これには流石のビックセブンも驚きを禁じ得ない。

 

「…感謝する」

 

「ええ、では帰投するのです」

 

――――――――――――

―――――――――

 

「ふむ、B勝利といったところか」

 

「ええ、負けました、流石ですね」

 

 結果を報告して、ついでにカメラも破壊してしまったことを詫びる。ただ、演習の大部分は見れたので問題なかったようだ。

 

「我々もこれまで以上に練度を上げなければならないな」

 

 独り言が溢れていたのに気づき、慌てて口を塞ぐ。

 この後は、α中尉は少しだけ滞在し、その後帰る予定だそうだ。

 エンジェルたちと風呂に入ったり、買い物に行ったり、…あ、運動をするのも忘れてはならないな。あの流れる汗は…フフフ、胸が熱いな!

 

「長門と大和、少し来い」

 

 挨拶を済ませたθ中将に呼ばれて、θ中将に近づく。

 

「何故、B勝利だった?」

 

「私達の努力は足りなかったようです」

 

 大和の言うとおりだ。このB勝利はお情けと言える。本来であれば、D敗北すらあり得たのだ。

 

「それは貴様らの火力を持ってしてもか?」

 

「ああ、奴らは我々の砲撃に怯えることもなく、勇敢なタフネスを持っていた。名付けるのならば、そうだな…〈不死身(ゾンビ)艦隊〉だろうか」




長門とながもんを足して2で割った長門でした。あと島の名前が分かりづらいと思いますが、今のところ、α中尉→γ島、β大佐→なし、γ大佐→なし、η少将→η島、θ中将→θ島(日本近海)です。
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