補給途絶鎮守府   作:フユガスキ

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天照らす大光

「艦これ…ね」

 

 私――霧崎 咲は、ようつべやニコニコなどを利用し動画視聴し暇をつぶす。時折漏れる笑い声が、締め切った部屋に消えてゆく。

 

 スマホを使い、ツイ○ターに流れてくるものを読み、小説投稿サイトで無双及び異世界転生·転移している主人公の作品を読み、AIの選ぶニュースを読み、時間を消してゆく。

 

 そんな普遍的な生活に、ある異物が混入する。その名も「艦隊これくしょん-艦これ-」である。

 もう8年も前だろうか。高校生の私からすれば小学校中学年ぐらいの時期に、大人気ブラウザゲームとして街中の所々にぶら下がる広告を見たことを薄く覚えている。

 

 あのときの私はヲタクという単語も知らない少女であったが、今となれば家族から嫌がられる程度にはそういった類にどっぷりと浸かっている。

 まあ、これに関しては父の所為もあるのだが、そのことで父が母に叱られていようと知ったことではない。

 

 さて、その艦これというゲームを、私はやったことはない。

 正直、8周年ともなると遅い気がするが、たまには新しいものを取り入れるのも一興だと思い、艦これをプレイすることにした。

 

 予備知識は二次創作のみ。私はどちらかというと攻略ガイド本を読まずに適当にプレイするタイプだが、艦これにおいては別である。ウィキでも見ないとやってられないだろう。

 

 そして、どの二次創作でも話題に上がるのが、資源と呼ばれる4種のアイテムである。もちろん他にもバケツやら間宮やらあるので、そういうのを含めて、艦これは基本的に兵站ゲームと言えるだろう。

 

 つまり、時間と精神と幸運と運営がどうにかなれば、どうにかなるゲームである。少し心配になってきた。

 

 とはいえ、私の知っている二次創作の情報は多くが古いので、現状はもう少し別の要素があるのかもしれない。

 そんな淡い希望とともにPCで艦これを立ち上げ、初期艦選択画面に来る。

 

「吹雪…?あぁ、アニメの。叢雲は、たまに見るよね。おお、漣ちゃんは知ってる。電ちゃんは天使。でもさっきプラズマを見てしまいまして…。えーと、五月雨ちゃんは天使!…う〜ん、悩ましいねぇ」

 

 どうしよっかな。二次創作でよく見る艦にしてもいいし、あまり知らない艦もありだ。

 

 駆逐艦というのは全員が天使である訳で、選ぶのにも時間がかかる。小悪魔っ娘属性も嫌いじゃない。むしろいいと思います。

 

 うんうんと悩み、出た結論は

 

「やっぱ、真ん中って、大事だと思うんだ」

 

 ということで、私が選んだのは駆逐艦漣である。

 改二の実装されている吹雪や叢雲でもいいのだが、改二に改装できる頃には初期艦は揃っているらしいので、何となくである。

 

 そして、チュートリアルを適当にこなす。

 まずは建造らしい。任務から[はじめての「建造」]を選び、オール30で建造する。

 

 高速建造材はまだ少ないため、18分ほど待つことにする。確か、18分は睦月型だったか。

 

 この隙に資源の集め方を調べたり、建造時間を調べたりしていると、あっという間に完了していた。

 

「さって、誰が最古参勢の仲間入りかなぁ」

 

 デデン!という効果音を頭の中で流し、GETをクリックする。こういう派手さのない演出、とてもいいと思います。

 

 そして、画面の前に現れたのは、けだる気な様子で挨拶をする駆逐艦望月である。睦月型の十一番艦が初の建造艦となった。

 

 確か、睦月型は他の駆逐艦より燃料の消費が少ないらしい。だが、まあ、あまり序盤には関係のないことだろう。どちらかというと、火力を出してくれたほうが嬉しかった。

 

 夕立とか長波とか綾波とかは、二次創作で駆逐艦としては高火力だ、とよく言われている。でも、それは改二の話であり、新米提督には重巡とか軽巡とかのが良い。

 

「あっそうだ」

 

 どっかに重巡や軽巡の建造レシピが載っているだろうと思い、スマホで、建造レシピを検索する。検索結果の一番上にあったページに行き、そこの解説に目を通す。

 

 レア駆逐艦レシピ、戦艦·重巡レシピ、空母レシピ、どれもまだ資源的に手をつけられないものばかりだ。

 

 仕方ないので、艦これ初心者 やるべきことを検索する。

 そして、出てきたものを見ていくと不思議なものを見つけた。

 

 サーバー選択とゲーム名入力である。

 

 そういえば、そんな画面が現れなかったな、と思いPCの艦これの画面でその2つが出来そうなところを探す。

 

 設定?戦績表示?どこにもない。

 

「そりゃ、そうだよね。サーバーないと、これ、遊べないし」

 

 何らかのバグだろうか。垢バンされないうちに直してほしい。

 

 取り敢えず、艦これを閉じてもう一度DMMのログインからやり直す。こんなことに意味があるのかわからないが、まあ一応、ね。

 

 スマホで似たような事例がないのか検索しつつ、艦これのスタート画面にまで来る。かんこれ!という声が流れて、GAME START(艦隊司令部へようこそ!)のボタンが青く光る。

 

「この画面でも、ないかぁ」

 

 運営にでも相談しておこうかな。でも面倒くさいなぁ。学校に行った時に隙を見てオタク連中にでも聞いてみることにしよう。

 

 まぁ、現状どうする事もできないし、このまま垢バン食らうのも癪なので、艦これを続行することにする。

 

 青く光るボタンをクリックし、次は何しようかと机の上においたスマホに手を伸ばす。

 

「―――ッ」

 

 一瞬視界が白くなって、すぐに暗くなったように感じた。

 思い当たる節は昨日は徹夜したぐらいか。たった一度だけなのに……少し仮眠でも取ろうかな。

 

 伸ばした手で何も掴まずに、ベッドへと向かう。

 両親は仕事の関係で2日間いないと言っていたし、明日は休みなので今寝ても特に問題はない。

 

「ねむ…」

 

 私は布団に潜り込み、即寝落ちした。

 

――――――――――――

―――――――――

 

 空に夕陽が浮かんでいる。

 私は、普通に覚醒し、その夕陽を見る。お昼食べ損ねたなぁとか、みかん食べたいなぁとか、そういう感想だ。

 

「あっ」

 

 しまった。画面つけっぱなしだった。

 そう思ってPCのディスプレイを見ると、未だにローディングの画面で固まっていた。

 

 やはりサーバー選ばないと駄目でしたか。

 

 ブラウザを閉じようとしてマウスを動かすも、画面上のものは動かない。

 キーボードも効かないのでモニターの端にあるディスプレイの電源ボタンを押すが全く動く気配がない。画面が消えないとかどうなってるし。

 

 これはいよいよパソコン自体に問題があるのかと思い、強制再起動を決意する。これをするのはあんまり好きではない。

 

 いやいやながらディスプレイの隣にある本体の電源ボタンを押す。

 

 するとなぜだか目眩を覚え、近くの椅子に倒れるように座る。

 電源ボタンを押したら、自分の電源が切れました。オモシロイオモシロイ。

 

 頭を手で抑えて目眩が収まるのを待っていると、急に、提督が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮を執ります。の音声が流れる。

 

 びっくりして画面の方を向くとそこには漣がいた。

 それも、無表情な望月と一緒に部屋の片隅にいる泣き目の漣が。

 

「ご、ご主人、様?」

 

 その部屋は私の部屋とは打って変わって、ダンボールの山が焦げ茶の床の上にあり、赤カーテンの窓が塞がりかけている。

 

 まだ二度しか見ていない風景。いや、初めて来るところを二度も見ている方がオカシイか。

 

 異世界転生系のラノベを読んでいた私だからこそ、ラノベの主人公のような理解力が身につく。

 そう私は完全に理解した。ここは艦これの鎮守府である。なぜか、艦娘が泣いているという不可解を除けば。

 

「え、えと、な、なんで泣いていらっひゃるのでしょうか」

 

 噛んだ、死にたい。

 

「ゆ、ゆゆゆ、幽霊がしゃべったあー!」

 

 よく見ると望月の目がグルグルしている。あれって漫画的表現ではなかったのか。

 というか望月ちゃんよ。今どきの幽霊は結構活発だから、どちらかというと、その反応は飽和状態なんだよね。

 

「いや、艦娘も幽霊みたいなものでしょ?」

 

 私の発言に二人はキョトンとしている。

 いやほら、二次創作でもよく言われてるし。むしろ、ここまでがテンプレである。

 

「つ、つまり、ご主人様はユーレイ!?」

 

「いやいや、幽霊じゃないから」

 

 自分で言っておいて心配になってきた。

 これ、異世界転移だと思ってるけど、神様会ってないし、割と理不尽系の異世界転移だったりするかも?

 

 異世界転生とかだったら救いようがない。

 そうだとしたら、たぶん艦これであるこの世界で、建造レシピも、開発レシピも、ルート固定も、制空権諸々の計算式も、無知の状態でやらなければならない。

 

 あっでも、艦これの設定と完全に同じでなければ、どちらにせよ、か。転移であれば帰れる可能性あっても、帰る意義がなくなってしまうわけだし。

 

 まあ、そもそも、こんな機会が滅多にあるものでもないので、帰る気などさらさらないが。

 

 と、私が思考の海に潜っていると、漣と望月が互いに見合い、こくっと頷き話し始める。

 

「まーいいや、司令官は司令官ということだねぇ」

 

「漣の第六感がそう言ってますっ」

 

 何というか、切り替え早いですね。先までの泣き顔は何処へ行ったのか、ケロッとした顔で部屋の隅から私のところへ近づいてくる。

 

「ということで、改めて、第一艦隊旗艦、特型駆逐艦の漣です。本日より、この鎮守府に配属しました」

 

「睦月型駆逐艦望月でーす。よろしくー」

 

 何だか、挨拶に格差がある。この二人は割とくだけたイメージだったが、こんなにも違うものなのか。、

 若しくは艦これの設定と違うということなのか、分からない。

 

「私は……何なんだろうね。きっと貴方達の提督だと思うよ。あっ名前は霧崎 咲ね」

 

「キリサキ サキ?不思議な名前、キタコレ!」

 

 不思議?そうだろうか。キラキラネームだと言われたのは初めてだ。

 まあ船には姓がないからだろう。

 

「咲でいいよ」

 

「サキ司令官か。ん、分かった」

 

◇◇◇

 

 漣はなんでこんなヘンテコなご主人様の最初期艦娘なのだろうか。

 

 漣達初期艦は初期艦育成校と呼ばれる場所で卒業までの三ヶ月に、ある程度の執務補佐をする能力を培わされる。

 漣はそこの特型駆逐艦十二番艦部門を首席で、その代の総合能力試験でも一位、この校の歴史に残る第一期卒業生となった。

 

 故に漣は特例中の特例の提督の補佐に回された。

 

 元々この校はテートクカッコカリの為に作られたものであり、漣が優秀な特例提督の補佐をするのは当たり前だった。

 

 しかし、そこで漣でも想像し得なかった提督がいた。その人はテートクカッコカリでありながら、少尉という階級でなく、少佐から始まるという、いい意味でバカげた人だ。

 

 優秀な少尉ではなくただの少佐の方が何倍もの権力も、能力もある。

 漣はその時は素直に嬉しかった。その少佐に釣り合う能力が漣にはある、と言っているようなものだ。

 

 そして、鼻歌を口ずさみながらその泊地に向かい、到着して大きな建物の中に入ってみれば、そこにはまだ誰もいなかった。

 

 漣も興奮して早く来てしまったと思っていたので、仕方ないと思いダンボールを開けていると、執務室に一枚の紙が降ってきた。

 

 自分でも恥ずかしいぐらい大きな声で「はにゃ!!?」と叫んでいた。

 恐る恐る紙を拾い上げると、何処からか金属を叩く音やボオォォという音が聞こえた。

 

 ここは無人島のはずだ。わざわざ海軍が呼びかけて避難させた場所だ。誰も居るはずがない。

 

 その紙には[はじめての「建造」]と書かれた見出しと詳細が細かい字で打ち込まれているのが見て取れた。

 

 急にキイィィという音がして「ふわあぁ!!」と叫ぶと、その方向にいた誰かも「うわぁ!」と叫んだ。

 キッとそちらを向くと、ドアの横で尻もちをついている望月がいた。

 

 「も、もっちぃー」と、泣きそうになりがらも名前を呼び、望月の近くに寄る。

 

 けれど、望月はもちろん漣の体験など知らないので、いくら説明をしても「まさか、まさか」と信じてくれない。

 

 しかし、漣は知っています。

 こういう幽霊現象のとき、最初にやられるのは「もう、こんなところに居られねぇ。俺は帰らせてもらうぜ」とか言う奴です。

 

 何とか頼み込み、この部屋にいてもらうようにして、ついでにダンボールを片付けるのを手伝ってもらった。

 

 その後は何も起きず、勝手に建造された不可解を除けば、他は正常だ。

 

 夕陽が見えるぐらいになってきて、流石に提督の着任が遅いと大本営に連絡を入れようとしたところ、突然執務机の近くが光りだした。

 

 また、何かが起きるのだと望月に伝え、今度は分かってくれたらしく、どんどんと人型に変形するその光を、互いに近くで震えながら見守る。

 

 それで出てきたのは、軍装を着ていないご主人様だった。

 

 そうして今、キリサキ サキと名乗ったご主人様は、明らかに漣の想像とはかけ離れていた。

 

 寡黙で鋭い目、落ち着いた物腰で、端正に軍服を着こなす。そんなものを想像していた。

 一般人から少佐へとなるのだ、そのくらいあってもいいだろう。

 

 だが、ご主人様はどうか。

 深海棲艦の脅威、いや、この一世代前の生活すら体験していないような、平和ボケした顔。できる人オーラと勝手に呼んでいる実力派の威圧感もなく。七光でもない。

 

 海軍は何故、こんな人を少佐へと選んだのだろうか。今の光のような不思議能力を何個も持っているならば、提督でなくヒーローのほうが活躍は出来るだろう。

 

 と、そんなヘンテコなご主人様は名前も変だし、服も変だし少なくともよそ行き用ではない。

 

 そして、極めつけは今行おうとしていることだ。

 海に向かって叫んでいる。

 

「ナニコレ!艦これ!キタコレ!!」

 

……どうやら、ご主人様は頭も変なようだ。

 

 そして、次にやることは何かと様子をうかがっていると、こちらに近づいて無遠慮にジロジロと漣や望月を見ている。

 

「あんまり見つめると、ぶっとばすぞ♪」

 

「いやいや、ブラック鎮守府お馴染みの、提督攻撃されない設定は割と有効なはずでしょ。そうじゃなくても、艤装をつけないと強くないとか、どう転んでも提督が有利なように出来てたりするものですぞ。ほら、もっちーのほっぺもっちもちー、なんてね」

 

 望月は完全に為されるがままだ。

 というか、艤装をつけないと普通の女児と同程度しか力がないと、どこで知ったのだろうか。

 それに頭脳系とおふざけ系でキャラが被っている。これは一刻も早く何とかしなければならない。

 

 それにしても、男性が多いこの社会で、珍しく女性の提督の部下となったのにこのセリフを使うことになるとは…。

 

 先が思いやられる今日この頃でござる。


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