気づけばそこは、白い世界だった。いや、黒かもしれない。いや、7色の…そんな曖昧な世界だ。むしろ、そんな世界があるかも疑わしい。例えるならば、座学中の居眠りのような感じだろうか。自分では起きているつもりだが、周りから見れば寝ていた、そんな感じだ。
その曖昧な世界で声がした。誰かは分からない。いや、声はしていないかもしれない。だが、兎に角、意思の疎通をしている。
「コンニチハ」
「はい、こんにちは」
簡易な挨拶を交わし、数瞬の沈黙が訪れる。
「…あの、どこからいらしたのですか?」
「ワタシハ、ウミカラ、キタワ」
「同じですね。私も海から来たんですよ」
ふふふ、と笑い合い、またもや沈黙する。
「…何を海でされていたんですか?」
「ワタシハ…ソウ、タタカッテイタ」
「奇遇ですね。私もですよ」
相手はどこか驚いたような顔をした、気がした。
「デモ、ワタシハ、ウミニウカンデイタ」
「私もですよ!」
「ホントウニ?」
「ええ、凄いですね。ここまで似ているとは」
どこの鎮守府なのだろう。まさか、沈む直前に想像していた艦娘だろうか。それとも、仲間の艦娘が私以外にも沈んだのだろうか。
「ジャア、ワタシハ、カンサイキ…ヒコウキヲ、トバシテイタ」
「私も空母なんですよ」
そうなると、加賀かそれ以外の空母かの二択だ。
「私は、結構大食らいで、よくボーキがなくなりかけてました」
「ワタシモダ。ナカナカニ、キガアウナ」
二航戦や、軽空母の可能性は消えた。ただ、依然として加賀の可能性は残っている。
「…私は今日、沈みまして…宿敵を道連れにできたのは良かったのですが…」
「ワタシモ、ニタヨウナモノダ。ワタシノバアイハ、イマイマシイヤツ、ダガナ」
「ふふふ、そうですか」
どうやら、加賀の線は消えたようだ。ならば、もうこの世界にいる必要はない。
「イクノカ」
「ええ、私は帰らねばいけませんから」
「ソウカ。ワタシハ…ソウダナ。コノママ、アノヨ、ニデモイコウ」
「そう、ですか。では、さようなら」
名前を聞いておけばよかった。その考えを別れてから思ってしまった。だが、きっと、艦娘の時に出会えていれば、楽しいことを色々と話せたかもしれない。
そして、これで、またη提督に会えるだろう。別の鎮守府でも異動届けを出せば受理してくれるだろうし、私はη提督を忘れない。忘れなければ、絶対に会える。
そうして私は、深い後悔と哀しみと憎しみとの念に心が押しつぶされ、海の底深くから這い上がることに成功した。
目次を変えました。