次段階としては、神通が凹んでいる理由を探し当てることだ。
こういう子どもっぽいのは基本的に、自分が何かを正しいと思っている事が多い。その何かに関連することを俺が見つければ、後は楽だ。
「…おそらく神通の言い分は正しい」
神通は少しだけピクッ体を揺らしと反応を示した。
ええ、まじか。結構簡単な仕事じゃないか。こんな軽い言葉で反応しちゃって……小学生かよ。
「ただし、俺は神通が正しいと信じているわけじゃない。神通の言っていることが正しいと思っているだけだ」
意外とこの言い方は小学生に効いたりする。
私は君を信じている、という常套句は受け流されやすいが、相手の意見を尊重した上で常套句から外れた言い方の方がよく聞く。
「……提督は、本当に正しいと思ってくれますか?」
お、早くも神通が話し始めた。
「もちろんだ。世の中の大体は正しいからな」
「……話しても怒りませんか?」
いやそれ、怒らないと言っても怒ると言ってもダメなパターンじゃん。
「それは、神通が怒られていると感じるかどうかだな。俺には分からん」
俺の108の秘技の一つ、感情とかいうよく分からないものに任せる戦法。これは、その名の通り、未だに研究·実験の進まない感情というものに責任をすべて託す技だ…!
「実は、二日前のことです。夜に勝手に海に出たことを覚えていますか?」
……あぁ、思い出した。何か妙に焦って隠し事をしていた日だ。結局あれは、勝手に夜に出撃したことを謝って終わったはずだ。
「その日、私達は一隻の駆逐艦、いえ、深海棲艦を鹵獲しました」
は?…えぇ!?マジか…いや、マジか!!
神通によると、その駆逐艦を使って深海棲艦と接触を図り、この島への侵略を止めるように交渉しようとしたらしい。
だが、それが逆に空母の偵察機を引き寄せ、さらなる脅威を呼び寄せたのだとか…。
「そして、川内姉さんはその駆逐艦を殺そうって言うんですよ」
それはそうだろう。完全に裏目に出たわけだし、殺して何が悪いのだろうか。
「でも私は、まだ生かしておきたくて……やっぱり、姉さんが間違えてますよね?」
間違えてねぇよ!むしろ、間違ってるの神通だよ!!
バカなのか? 神通って、もしかしなくてもバカなのか!?
けれど、先に正しいと言っているため、俺が神通に間違えている、とは言えない。
となると、川内が正しい、かつ神通も正しい、という答えを出さなければならない。
《ザー、ザザー…とく、提督!敵艦載機を一番に発見!どうする?》
ナイスタイミング…じゃなかった。空母が出てきたようだ。
《きゃぁー!痛いってぇ!》
白露の悲鳴が聞こえ、額から頬にかけて冷や汗が垂れる。空母は聞く限りでは、ネ級と比べ物にならないぐらい強いらしい。
《被害は?》
《ちょっと待って……》
主砲とはまた違った音が連続して鳴り響く。他にも、少し遠くで爆撃の音が聞こえたり、川内が叫ぶ声も聞こえる。
《…よし、取り敢えず、第一波は何とかなったかな。川内さんが小破、私が小破だよ》
小破?比較的被害が少ないように思える。とはいえ、攻撃を受けたことには変わらない。
《じゃあ、敵艦隊と会敵しだい、白露は川内を守りつつ戦ってくれ。白露は積極的に攻撃しなくていい》
《分かったよ》
《あと、川内にはこれについて伝えないでくれ。代わりに、川内には、簡単に倒せるものから攻撃するように伝えてくれ》
《ん?まぁ、分かったよ》
俺は、川内がまともに戦えるとは思っていない。むしろ、俺に神通を任せている分、いつもより攻撃的になる可能性が高い。
それを案じた結果がこの指令だ。
「姉さん達が会敵したんですか?」
「その通りだ」
神通はまた俯いてしまう。これは…まだ、戦いに行けないな。