補給途絶鎮守府   作:フユガスキ

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打ち克つ為に

 さて、では、誰も不満を感じない答えを出すとしてよう。

 

「確かに、神通の言っていることは正しい。だから川内は間違っているだろう。だけれど、川内の言っていることは正しいし、神通は間違えている」

 

「?」

 

 正しい、という言葉は、似たような意味として、合っている、が該当する。

 その正しさは、問い、若しくは課題に対する答えとして一番相応しいものだ。

 

 つまり、川内のものと神通のものとを比べた場合、俺にとっては正しさが同じだった、ということだ。

 

「神通、よく考えてみろ。この場において、最も優先すべきものは生き残ることだ」

 

 神通の言うように、その深海棲艦を残せば、襲撃されるのが100%として、いつか交渉が成立すればほぼ0%になる。期待値は0.5つまり50%だ。

 川内の言うように、その深海棲艦を殺せば、毎日襲撃されるだろう100%の戦闘率が、6回(戦闘回)/12日(経過日)の50%となる。これでは命がいくつあっても足りない。

 

「俺にとっては神通の言い分も川内の言い分も、間違ってないがあってもない」

 

「それは、些か言葉遊びが過ぎませんか? そんな言い方で納得するのは、10歳までです」

 

 神通は嘲るように笑い、肩を揺らした。

 神通…小学生じゃなかったのか。……じゃなかった、早く神通に戦闘に向かわせなければならなかった。

 

「社会は正しさでいっぱいだからな」

 

 まぁ、どちらかというと、間違っていないもの、だが。

 

「例えば、参考書でも、挨拶の定型文でもいいけど、そういう"定形"ってのは正しいように作られているものだ。ただ、実践においては、自分の頭で考えて使い分けなければならない。同じように、神通と川内が言ったものは、ある程度"定形"のもので、定形だから正しい。だから、何度も言うように"言っていることは"正しい」

 

 簡易的に纏めるならば、使用者の判断が間違えているのだ。バカもハサミも使いよう、ということだ。

 

「では、提督はその目標のために、駆逐艦はどうすべきだと思いますか?」

 

 もちろんその答えは用意してある。けれど、どうやら白露達がそろそろやばいようだ。

 

《提督、ごめん、足やられた!もう、川内さんも中破――たぉと、――ガサッザザッザー――提督ー、聞こえるー?》

 

《どうした、川内》

 

《後、軽空母ヌ級と、軽巡へ級なんだけどさ。私も白露も流石に無理を通しすぎたかなって。取り敢えず私はここで止めるから、神通と一緒に逃げてくんない?》

 

《…》

 

 は?何言ってんだ。逃げれるわけがない。そう決着をつけたじゃないか。

 

《いや、川内達がいて、逃げられな――》

 

《逃げろって言ってんの、分かんないの!?今しか逃げるチャンスないんだよ!絶好の機会何だって!》

 

 川内は怒気を孕んで、叫ぶように言う。

 

《川内達が生きられない》

 

《――馬鹿じゃない!?こっちは無理して戦ってんのに、こちらの言うことは聞かないで…!ちょっとぐらいその偽善的な考え方を抑えて、今回は言うこと聞けよ!!》

 

 偽善…偽善ねぇ。

 利己的と言えばそうかもしれないが、善い行為をしている自覚はない。

 

「姉さん…?」

 

「ん?聞こえてたか」

 

「姉さんは何と?」

 

「逃げろだってさ」

 

「逃げろ、ですか」

 

 神通はまた俯いてしまった。これは…そのまま川内の言葉を伝えないほうが良かっただろうか。


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