台風っていうのは、本当に凄まじいエネルギーを秘めている。それこそ、車を吹き飛ばすほどに。
それが人間の体ではどうだろうか。それはもう、吹っ飛びまくるだろう。けれど、それは大型の台風だ。頻繁にそんな台風が起きるわけがない。
とはいっても、抵抗を感じる程度には風がある。だから落下しても、せいぜい3階ぐらいの高さであれば助かったりするものだ。
「グッ」
だが、命は助かるけども、体が平気であるわけがない。風に飛ばされ、着地したところは砂浜である。砂浜に着いた右手は、腕の部分がボコッと浮かんでいる。
それはもう、腕の形が見てわかるほどに変わっている。剥離骨折のレベルではない。
「あー、痛い」
何だろうな。骨折って痛いとは感覚が違う。気持ち悪いっていうか、どちらかというと違和感があるって感じだ。
もちろん、痛いことには痛いから、めっちゃ泣きそうなのを我慢している。
「剥離骨折しか経験ないんだけどなぁ」
剥離骨折であれば、ちょっとした添え木探して、服なんかでグルグルまきにすれば済むが、骨が出っ張っているとどう対処するべきなのかさっぱりだ。
「あれ?提督じゃん。大丈夫?」
驚いて振り返ってみれば、その声の主は川内だった。
先ほどとは違い怒った様子もなく、この場の雰囲気にはそぐわない声音だ。
「……怒らないのな」
「頭冷えたんだよ、物理的にも」
川内は薄暗い空を見上げながら、そう呟く。
そうか…頭の冷えた川内なら、もうアレを聞けるだろうか。
「なぁ、川内。……俺は提督らしくなっただろうか」
提督らしい、というのは、俺が散々嫌がっていたレッテルだ。そのレッテルによって、提督らしい言動、態度を強いられる。
そんな嫌なものを態々自分に貼ろうと思ったのは、俺の一般人としてのケジメと、生きるために最低限必要なものだからだ。
「あはっ、やっぱり?」
何処か嘲ているようで嬉しそうに快活に笑って見せ、ビシッと格好良く敬礼する。
「うん、提督は提督らしく、なったんじゃないかな。少なくとも私は、提督を提督だって認めてる。……けど、随分と回りくどいやり方したね。気づくの遅れちゃったじゃん」
「生憎、俺には承認欲求が少ないんだよ。……まぁ、その方法しか思いつかなかったのもあるが」
まぁ、あれだ。
俺としては、提督としての地位を確立するために、今回の敵艦隊はちょうど良かった。
まず空母を無力化するための黒い雲――台風を使って、地の利を活かして敵艦隊を撃退するつもりだったが、神通の暴露によってこの島に深海棲艦がいることが分かって、敵艦隊の迎撃を為しつつ駆逐艦を倒すには、被害状況的に神通のみで十分だと判断し、白露と川内に駆逐艦を倒してもらう、という構想をしてた。
だが、それもネ級によって破綻したが、元々過剰戦力の白露と川内なら十分に戦えると思う。
そして、川内の言ったように、俺は提督らしくならないと命令や指令といった類は出来ないため、川内には認めてもらう必要があった。
なんたって、川内はこの中で一番賢いからな。
「提督ってのはね、賢さだけじゃないんだよ。社交性やら資金やら腹黒いのも必要だけど、そういうのを全部集めても半分なんだ。あと半分は何が必要かって言うと、管理能力かなって私は思う。提督はそれを出来てると思うから、私は全然異論ないよ」