『あっ起きたんだね』
そう言って近づいてくるのは、青髪おさげの作業服を着た人形だ。まるで、この声の主と同じ動作をしているような動きをする。
「なあ妖精。ここに人形がいるんだが、俺が寝ている間に何が起きた?」
『人形とはひどいな。私は妖精だよ』
怒ったポーズを取る人形がいる。何故かどこかで見た気のする形だ。ここ二日間の記憶を探る。
「あっ思い出した」
そう言ってブルーシートの近くを見渡す。確か、妖精の言葉が聞こえなかったときに、模写してもらった絵があったはずだ。
ようやく見つけ、人形と見比べる。なるほど、よく似ている。というより、完全一致だ。つまり、この人形が妖精ということか。なんとなく羽の生えたものと想像していたが違ったようだ。
妖精だと思うと、人形の束の中ではしゃいでいる白露も微笑ましい。そして誰も予想していなかった突然の雨。白露はブルーシートの下に潜ってきた。
「提督も起きたんだね。あたしもついさっき起きたばかりなんだよ」
水を払いながらブルーシートに座る。そして、同じ方向を向いていた。木に当たる雨が、海に入る雨が、次々と水しぶきを上げる。
あー、なんかこういうタイプのしんみりした時間は好きだ。こうなんて言うんだろ、とにかく落ち着いていられる。
『ちょうどいいから今、話していいかな』
その空気を遮るのは青髪おさげの妖精である。言わずもがな、言いたい話題はわかる。妖精の過去だろう。そして、あの夢で見た人形と似ている点からして、あの夢が妖精の過去だろう。
「妖精のいた鎮守府って、艦娘を三種類に分けるか?」
『!』
さも驚いたような顔をする。どうやら、予想的中のようだ。考えればわかることだった。艦娘を建造できるものがいて、それを使わない理由はない。
無限に生成される戦力を為すことのできる妖精。ただの人間が見てもどんどんと轟沈、解体される艦娘には人権がなく見える。
『そう、それが私の記憶。ずっと頭に乗っていたのは心地よかったのもあるけど、脳の開発も兼ねていたんだ。ついでにそれが見えたのなら、間がいい』
流石にそれはわからねぇよ。なんだよ、親愛と勘違いして意味もわからず嫌われたと思った俺の心を返せ。いえ、何でもないです。
『私はあそこで艦娘と人間の扱いの違いを知った。それで、私は、私達はあの鎮守府を抜け出して、ここに来たんだ。…だから、君たちが来たときには、ついにここも人間の支配下になると、覚悟したんだ』
『でも違った。君たちも人間に連れてこられたのだろう?それが分かったから、この人たちとは仲良くできそうだと思ったよ。まさか提督が人間だとは思わなかったからね』
それで今に至る、と締めくくり妖精は話すのをやめる。そうか、妖精は人間が嫌いだったのか。それはまた、艦娘とは相対する関係になる。好きを取るか嫌いを取るかの違いである。
「あたし、そのニュース知ってるよ。一夜にして妖精さんがいなくなったから、その鎮守府の調査が行われてね。艦娘と提督との関係が改善されたって話。でも、それ随分前じゃない?」
『うん、多分3年前かな』
『でも、良くなったんだ。それは良かった』