「そうかい、そうかい。君が賢い判断をできる人で良かったよ。ハッハッハ」
あれか?賢い判断をしなければ、素っ首を跳ね落とすぞ的な?怖い。この男、怖い。
そういえば、この男の名前を聞いていなかった。上機嫌な今なら聞き出せるだろうか。
「あの、俺は貴方をなんと呼べばいいでしょうか?」
「あぁ、δだ。δ少将でいい」
δ少将……確か、朝潮の提督の名前だ。ということは……え?なんで俺は拘束されてんの?朝潮を助けた張本人だよ?
ちょ、ちょっと待ってくれ。この状況が一気に複雑になったのだが…。
え?いや、マジで、え?何なの本当に。
「えーと。朝潮の提督で間違ってないでしょうか?」
「その通りだ、少尉」
うん?ちょっと待てよ。この男、少将とか言ったか?それで、俺は少尉。この差はおそらく6段階。……はぁ!?やばい人だ、この男!少なくとも、逆らっちゃいけない相手だ。
やべぇ、マジでやべぇ。少将に頭脳戦仕掛けるとか、命知らずだ。まずは、謝らないと……
そう思っていると、コンコンと後ろの方で音がして、ガチャッと何かが開かれた音がした。
その音と共に入ってきた足音は、少しだけ知っている声を発した。
「すみませんδ少将。少しお時間を……」
「なんだ」
後ろで俺に聞こえない程度に話したかと思えば、δ少将ともう一人はどこかに立ち去ってしまった。つまり、俺一人である。
そして、体が動かせないため血流が止まってきた頃、またもやガチャッという音と共に聞いたことのある声が入ってきた。
「やぁ、少尉くん。また会うことになるとはね」
「またか、α中尉」
α中尉はどこにでもいるな。まさか、分身でも使えるのか?それは羨ましいな。
だが、α中尉がいることによって、俺は少し親近感が湧き、安心感を得られたのも事実である。これはあれだ。大学に行って、偶々中学の友達と会えたのと似ている。まぁ、大学に行ったことないが。
「中尉は辞めてくれよ。僕は大尉になったんだ」
「そんな細かいことを気にしてるとモテないゾ」
俺の恋のレクチャーに、α大尉はヤレヤレと言いながら俺の目の前に来た。それはもう、目と鼻の先に。
「こうして見ると、随分と可愛いらしいじゃないか」
「サディストかよ。いや、ホモかよ。というか、足がそろそろ痛いというか、色んなとこが痒いので、これ取ってくれませんかね」
「僕にはその権利がないさ。それに、細かいことを気にしていてはモテないよ」
相変わらず鋭い目つきに反して、爽やかな雰囲気を醸し出している。
「それで、少尉くん。一つ忠告だ。δ少将の言うことには従ったほうがいい。というより、従ってくれ。僕のためにも」
「α中……大尉……いや中尉でいいか。のため云々は知らんが、従うつもりではある」
「そうか。その答えを聞けて安心したよ。なんせ、ようやく、ここまで来たのだからね」
ニィっと悪そうな笑みを浮かべる。鋭い目つきも相まって、魔王か何かだと錯覚してしまいそうになる。
ところで、ここまで来たとは何だろう。この場所まで来た、なのか、何かしらの計画が大詰めなのか、それとも、大尉にまで上ったからなのか。
まぁ、どれにせよ、俺の方向性は変わらないのでどうでもいい。俺は無事に日本に帰るだけだ。
「じゃあ、僕は失礼するよ」
そう言ってα大尉はドアか何かを開けて外に出てしまった。
……今更ながら、トイレ行きたい。