俺は色々と頭の中で纏めた後、トイレのドアノブに手を掛け、もう一度鏡を見てから部屋を出る。本人には言えないが本当に可愛い顔をしている。顔の好みではストライクだ。
「司令官、朝潮、お待ちしておりました!」
「あ、うん」
ドアの前にいるのは止めてね?びっくりするから。
このドアは中に引くドアなので、俺が鏡を見たままだったら朝潮にぶつかっていた可能性がある。そうすると事案発生だ。
「あの…もうちょい離れてもらっていい?」
「そうすると、逃げたときの対処が遅れるため、この距離が適切かと思います!」
はっきり言うなぁ。というか、俺は逃げる可能性がある人物なのか。知らなかった。
なるほど、それで拘束されていたのか。ふむふむ……え?何で朝潮は俺の拘束を外したし。というか、俺が逃げて誰が得するし。
「えっと、朝潮は間違っていたでしょうか…?」
俺が黙っているのを否定と捉えたのか、朝潮は怯えた口調で質問してきた。
いや、そんなもの俺が分かるわけ無いでしょうに。
「大丈夫だ。世の中、正しいことばかりだからな」
「お言葉ですが、司令官!そんなことは、ないと思います!」
なん…だと…!
大抵の人は流すのに、反論するとは……もしや、真面目か?
「ふむ。君の意見を聞こう」
そう言いながら歩きだし、元居た会議室のような部屋に向かう。
「何故なら、正しさとは人それぞれだからです!どうやっても、分かり会えない人だっています!」
「中々、捻くれてるな!どんな生活したら、その歳でそんなに捻くれられるんだよ!」
やばいな、この娘は。親でも殺されたのか?
「まあ、それはいいとして……朝潮ちゃんは何故、正しさが人それぞれだと思った?経験から思ったのか、誰かの受け売りなのか、どっち?」
会議室のドアを開け中に入り、適当な椅子に座る。対面には朝潮が座り、如何にも議論する雰囲気だ。
「この朝潮は深海棲艦を滅ぼすことが正しいことだと思っています。けれど、δ司令官はこの国を平和にすることを正しいことだと仰っています」
「どっちも良いことだと思うけど?」
「突き詰めて言えば、δ司令官は他国がどうなろうと、日本さえ安全であればそれでいいとしています」
「あぁー」
なるほど…なるほどね。きっとそこには、少将という立場の政治的理由や、深海棲艦を滅ぼすことの現実味のあるなしなどが関わっていて、δ少将からしてみれば、朝潮の言うことは非現実的だし、朝潮からしてみれば、愚直ではないと思うのだろう。