補給途絶鎮守府   作:フユガスキ

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白露の進水日なので白露過去編です。私的には休憩回。長いです。


一番の始まり

「白露型の一番艦、白露です。はい、一番艦です!」

 

 執務室入室と共に元気よく挨拶をする。執務室前の廊下は、所々にカビが生えていたり、蛍光灯が光ってなかったりしているが、執務室内は華美な装飾に物々しい本棚が置いてあることが分かる。

 

 秘書艦はどうやら陸奥さんのようで、けれどもイメージにある大人の女性とは別だった。

 そして、目の前に座っているのは、提督である。きらびやかに着飾っており、対照的に眉間には皺が寄っている。

 

「……煩い」

 

 入室の際、大きな声での挨拶は、社交性や健康さを示す上で大事なことだ。白露型の長女として、あたしはしっかりしていなければならない。

 

「…ごめんなさい」

 

 けれども、そういうのを嫌う大人もいる。だから、謝るときには謝らなければいけない。

 

「…お前の今後については、おって連絡する。下がってよし」

 

 え、私の今後はいいとして、今はどうするの?執務室から出たあとは、どこに行けばいいのだろう。

 

「下がれと言っているんだ」

 

「は、はい」

 

 逃げるようにドアから出て、なるべく音を立てないように閉める。

 大きくため息をついて、幸先悪いなぁと俯いていると、後ろから声をかけられた。

 

「駆逐艦、白露だな?戦艦、長門だ。付いてこい」

 

「はいっ」

 

 どこに連れて行かれるんだろう、と思いながら、掃除したくなるほどではないけど微妙に汚い廊下を歩いて、鎮守府から少し離れた微妙に薄暗い部屋に案内される。

 そこには部屋が計六部屋あり、ドアには部屋の主であろう人の写真が飾ってある。

 

「あ、あの…写真、撮るんですか?」

 

「いや、一週間後だ。それまでは、適当に過ごしておいてくれ。…あ、ただ、部屋は綺麗にしておいたほうがいいぞ」

 

「は、はぁ」

 

 あたしは曖昧な返事をして、それを聞いた長門はスタスタと本館へと歩いていってしまった。

 ここにいても仕方がないので、取り敢えず一番左の空いている部屋の中に入ってみると、若干広めの玄関があり、横にある棚には大量のティッシュ箱が積まれている。

 

 艦娘にとっては、艤装が靴の代わりとなるので玄関は要らないが、形式美というものだろう。

 そう思って、玄関から伸びる廊下を歩き、まずは一番手前の左側にあるドアを開ける。そこには、二人でいても若干広い部屋に佇むトイレがあった。設計ミスだろうか。

 次の右側の部屋は寝室となっており、とても大きめのベッドが置いてある。あたしが二人分でちょうどいいサイズだ。それと、どうやらタンスも用意されているが、艦娘には必要ない。

 最後に突き当たりにある部屋はリビングとなっており、いままでの部屋とは対照的に狭めだ。けれど、一人で住むには十分である。それというのも、本館からここに来る途中、間宮食堂があったので、キッチンの設備が必要ない。おそらく、台所があれば、もう少し狭く感じていただろう。

 

 ちなみに、リビングから通じる部屋は風呂になっていて、これまた広い。

 

 けれど、なんでこの建物に連れてこられたのだろうか。そこにはきっと、本館に住む艦娘との相違点があるはずである。

 明らかに異質な設計。広すぎたり狭すぎたりと、住む機能には些か不適切だ。

 もし、艦娘が多すぎて部屋が足りないのであれば、この部屋は2,3人部屋になるだろう。そうでないとするならば、艦娘が多すぎるわけではない。

 

 いや、そう断定するのは早い。艦娘が多すぎるために解体が追いつかず、ここで一時待機なのかもしれない。

 そうか。解体される艦娘ならば、辻褄が通る。妙に広い寝室も戦艦の人ならちょっと大きめのサイズだ。風呂も同じ解釈でいいだろう。けれど、トイレだけは広すぎる。これだけは設計ミスだと思う。

 

 そして、長門の去り際の一言は、次に使う艦娘のために、ということだろう。去つ鳥後を濁さず、だ。

 

「はぁ」

 

 またもや溜息をつく。艦娘として現世に顕現したのに、海を見ることもなく解体をされてしまう。それぐらいだったら、近代化改修の素材にしてもらった方が、まだ自分の気持ちに納得できるというものだ。

 

 取り敢えず、殺風景なリビングから狭い通路を歩き、寝室に入りベッドにダイブする。

 非常に柔らかく弾まないベッド。おそらく安いものだろう。けれど、ベッドで寝れるのだから文句は言えない。

 

「……そういえば…挨拶しないと…」

 

 暗くなる気持ちを押し戻し、他の部屋に挨拶に行くことにした。

 広い玄関からドアを開け外に出て、まずは隣から挨拶をしようとする。だが、手土産もなしに伺うのは如何なものだろう。

 

 だとすると、何か丁度良いものを用意せねばなるまい。そういう時、万屋というのは便利なのだが、ここにある似たようなものと言ったら酒保だ。

 ここから本館まで歩いていき、誰にもすれ違わないまま酒保までやってきた。

 

 酒保は意外にも綺麗に整っており、掃除も行き届いているようだ。

 酒保を見渡し、商品の並ぶ棚を眺めていると奥から誰かが声を掛けてきた。

 

「貴方、別棟にいる娘でしょ?なら、だいたいのものはただであげるよ」

 

「ホントに!?」

 

 聞き返してしまってから手を口に当てる。

 他の艦娘はいないものの、なんとなくこういう場所で声を上げるのは憚られる。

 少し口角を上げて愛想笑いをし、ヘコヘコと頭を下げて場を和ませる。そして、棚に並んでいる商品を見比べて、どれか最も適当な手土産かを決める。きっと、安っぽくなくすぐに消費できて見栄えのいいものが良いはずだ。例えばお饅頭とかお煎餅とか。

 

 それで、探し回った結果、見つかったのはカステラとビスケットだ。この2つならカステラだろうか。

 

 ふと視界に入ってきたものに目をやると、そこには青黒い暖簾がかかっていた。もしかすると、暖簾の奥には他の物を取り扱っているのかもしれないと思い、ピンク髪でスカートと袴を合わせたような服を着る人に話しかけてみた。

 

「あの、そっちには何があるんですか?」

 

 青黒い暖簾を指差すと、彼女は一度そちらを向いてから、あ〜そっちね、と言ったきり押し黙ってしまった。どうやら、言葉を選んでいるようだ。

 

「ええとね……そこは〜…男の人が、そう男の人が使うから、私達は使っちゃ駄目よ」

 

 男の人……?提督とは違うのだろうか。

 まぁ、今回の目的とは関係なさそうなので暖簾から目を逸らし、カステラを手に取る。あの別館には部屋が6部屋あるので、カステラ4個入りの小袋を6つ用意する。

 自分も食べたいしね。

 

 その6つを持ってピンクの髪の人のところに行き、会計を頼む。

 

「はーい、じゃあ、レシート渡すからちょっと待ってね。ええと……はいはいっと」

 

 赤外線でバーコードを読み取り、機械に映し出された金額を数える。そして、その金額を払ったことにして、機械から吐き出されたレシートを渡される。

 あたしはレシートを受け取り、その金額を見る。値段は4804円である。

 

「あの、本当に良かったんですか?」

 

「いいのいいの。むしろ、あの6人……じゃなくて今は5人か……に、渡すんでしょ、それ?その5人に私達は感謝してるからね。これぐらいじゃ、安いぐらい」

 

 あたし達が解体されることの皮肉だろうか。感じ悪いが、買ったものが高すぎたのだろう。調子に乗らなければ良かった。

 取り敢えず、今度来るときには高いものをお金で買おうと決意し、やがて訪れるであろう解体までに金を稼げるものかと肩を落とす。

 

 一喜一憂しつつ別館まで歩き、自分の部屋の玄関にカステラの束5つを置き、その足で隣の部屋へと向かう。

 ドアを軽い音でノックして、返事を待つ。なるべく笑顔にして待機していると、中からドアが開き緑髪の艦娘が顔を見せた。

 

「な、なんだ、いつもの野郎じゃないのか。見かけない顔だが、新入りか?」

 

「はい!隣に住んでいる白露です!」

 

「そうか……お前が奴の代わりか…。ふむ……」

 

 品定めされるかのように下から順に凝視され、丁度お腹の辺りで視線が止まる。

 

「そいつは?」

 

「あ、ここに来たので、挨拶にと……」

 

 どうぞ、とお腹あたりに持っていたカステラを差し出すと、一拍子挟んでから受け取った。

 

「そういえば、オレの名前は木曽だ。別に、覚えなくていい。使うこともないからな」

 

 不敵な笑みとともに哀愁漂う言葉を口にする。あたしは木曽の自虐のようなものに対してどう反応していいのか分からず、あはは……と曖昧な笑みを浮かべた。

 木曽はカステラを片手に持ち左右に踊らせながら、それはそうと、と話を切り出した。

 

「なんというか……お前、他の奴らにもこれを渡すんだろう?だったら、やめておいたほうがいい。オレならまだしも、他……特にオレの隣の隣にいる奴は話しかけるな。それと、どうしてももう一人ぐらい訪ねたいのなら、一番端の奴にしとけ。オレからはそれだけだ」

 

 口早に説明をし、扉を閉める。あたしは感謝ぐらい伝えたかったのだが、これでは仕方ないだろう。

 誰もいない扉に向って礼をしてから自分の部屋に戻り、もう一つカステラの袋を取る。これはあたしの反対側の端っこの艦娘用である。何で木曽の隣の艦娘ではないかというと、木曽に注意されてしまったからである。とはいえ、木曽が嫌っているだけなのかもしれないので、他者の意見も聞いておきたい。そうすると、必然的に木曽に紹介された艦娘のところに足を運ぶことになる。

 

 カステラを左手に持って、右手でドアを叩くと、はぁいという声とともにドアが開けられた。

 

「どうも、一番端っこに新たに来ました。白露です。よろしくお願いします」

 

 今度の会話はいい切り出しで、カステラをズイっと差し出す。

 薄い緑髪の艦娘は少し驚いたような様子を見せ、すぐさまにこやかにカステラを受け取った。ここには緑の髪しかいないのだろうか。

 

「おお!ズーヤさんも今日のおやつを悩んでたから丁度いいじゃん!軽巡の娘、ナイスゥ!」

 

「あ、軽巡じゃなくて、駆逐艦です。白露型の一番艦」

 

「え?あー、ごめんごめん。最近の駆逐艦は育ってるじゃん??まぁ、鈴谷のには負けるけどね!」

 

 そう言って、鈴谷は胸の部分を持ち上げる。若干、距離感を間違えている気もするが、いい人そうで良かった。

 

「あ、そうだ!鈴谷、割と長い方だから、ごみ捨てとかよく分からなかったら、相談に乗ってあげないこともないじゃん!あんま陰口とか言いたくないけど、他の4隻はだいぶ頭やられてるからねー」

 

 鈴谷も木曽と同じことを言っている。むしろ、鈴谷からしてみれば、木曽も関わり合いたくないようだ。

 

 けれども、木曽はちゃんと話せていたので、鈴谷が話を盛っている可能性がある。そのため、どのような印象を抱かれているのか訊いたほうがいいだろう。

 まずは、木曽の挙げていた要注意艦娘について尋ねてみる。

 

「あー、あそこね。あの駆逐艦は絶対に出てこないよ。この鈴谷さんよりも前、むしろ、最初期からいたらしいからね。私でも最初の頃しか会ったことはないよ」

 

 絶対に出てこない?ということはカステラを差しあげるのは無理なのだろうか。だとすると、ドアについているポケットのような部分に手紙を同封して入れておこう。

 

「では、隣の方は…」

 

 言ってて気づいたが、だいぶ失礼なやり取りではなかろうか。本人に会わずに情報収集なんて、本人も周りの人も良く思わないだろう。

 

「隣?えっと、あー、あの重巡ね。あー、何か、パンパカパンな感じで部屋に連れ込まれるからやめといたほうが良いんじゃね?まあ、鈴谷的にはもう慣れたけど」

 

 鈴谷の隣の部屋のドアに掛けてある写真を見ると、目を引くのは胸のサイズだ。金髪なのが気にならないほどに大きい。

 

「……あ、教えていただきありがとうございました。これからもよろしくお願いします」

 

「ん?それはいいけど、あそこの二部屋はいいん?」

 

 鈴谷が指し示すのは木曽ともう一人の艦娘の部屋だ。

 

「木曽さんにはもう挨拶したので……」

 

「それじゃ、あっちはまだじゃん?」

 

「ええ、まぁはい」

 

「あの練巡は最近だから一番イカれてないし、話しやすいんじゃね?」

 

「ありがとうございます。後で伺います」

 

「んじゃ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 鈴谷が扉を閉めるのを確認して、また部屋に戻る。ふぅとため息を吐き、大きく伸びをする。

 いやぁ、鈴谷さん話しやすい人で良かった!気軽に話せそうな人がいるだけで安心する。木曽さんはうん。気軽に、とはいかない雰囲気だった。

 

 気を取り直してもう一袋を持って練巡の部屋へと足を運んでみるものの、どうやらいないようだ。明日に伺うことにする。

 そうなると次は重巡の部屋となるのだが、鈴谷曰く部屋に連れ込まれるらしい。流石に初対面でそれは怖いので、丁重に断る理由を作っておこう。

 

 コンコンとノックして艦娘が出てくるのを待とうとすると、0秒でドアが開き、目にも止まらぬ速さで中に引きずり込まれた。

 

「あらぁ、こんな可愛らしい娘がなんでこんなところにいるのかしらぁ?」

 

「……?……?」

 

 どうなっているのだろうか。あたしは部屋の外に立っていたはずなのに、いつの間にか金髪の艦娘の前に立たされている。

 ま、まぁ、それだけならここまで混乱しない。一応先に聞いていたので、ある程度の心構えはあった。

 

 問題なのは、その艦娘の服がはだけて、胸が丸見えであり、尚かつ下半身裸の男が立っていることだ。

 この男性は提督ではない。つまり部外者か海軍内の関係者がこの鎮守府の風紀を乱している。あたしは結構な一大事であると思う。

 

 それにも関わらず、この艦娘は怯えていない――むしろ了承の上で事に至っているように見える。

 これらから考え得るに、あたしは良い所で邪魔をしたということだ。

 

 怒られる前に立ち去らなければ…!

 

「す、すみませんでした!失礼します!」

 

 そう言って部屋から出ようとするものの、その男性に腕を掴まれてしまった。

 

「おいおい、嬢ちゃん。それはないべ。キチンと落とし前を着けねぇと、なぁ?」

 

「ごめんなさい…!あの、離してください!」

 

 カステラを床に落として、腕を引っ張るがビクともしない。そろそろ、艦娘としての力を使って、無理にでも解くべきだろうか。

 

「謝るんでなくて、何かで払ってもらわんと」

 

「あたし、何も持ってなくて……ごめんなさい」

 

「いやいや、良い体持ってるべ。ここは体で――」

 

「はぁい、そこまぁでっ」

 

 艦娘としての力を使ってしまおうかと思った矢先、重巡の艦娘が男の人の腕を掴んだ。胸で。

 

「お姉さん、さみしいー」

 

「ちゃんと相手するだ。だでども、こいつを――」

 

「やぁん、その娘はまだダーメ。そういう契約……でしょ?」

 

「チッ、分かったべ。さっさと帰るだ」

 

 男はあたしの拘束を解き寝室へと潜り込んでいった。それを見届けて重巡の人は床に落ちたカステラを拾い上げ、棚に無造作に置いた。

 

「1号室の艦娘わよね?どうせ、初日で挨拶に来たんでしょ?」

 

「はい。えっと、あちらの人は……?」

 

「たぶん、一週間後に教えられると思うけど……私達6隻は所謂天井のシミを数えるのが仕事なの。だから3号室のように、病んでしまう艦娘もいるし、1号室のように壊れたら解体される艦娘もいる」

 

「……」

 

「だから、あなたも早々に他人なんか気にしないことをお勧めするわ。まぁ、きっとすぐに自分のことしか考えられなくなると思うけど」

 

「はい」

 

「じゃ、もう来ちゃだめよ。お姉さんとの約束」

 

 そう言って妖艶に笑い、部屋の外へと出される。

 あたしは外の景色を見て、何とはなしに全てがつながったように思えた。

 

 木曽の言う、名前を使わない理由は、艦娘がすぐに代わるから。

 ここの艦娘が全員イカれているのは、艦娘としての仕事が出来ていないから。

 部屋の前に写真が飾られているのは、誰が中に入っているのか知るため。

 酒保で優しげな顔をされたのは、この鎮守府がこういう仕事を公認しているため。

 酒保に男性用に分かれた商品があるのは、この仕事のため。

 

 あたしは足早に本館の執務室へと足を運び、ノックもなしにドアを開く。

 中にいる提督は驚いたようにこちらを一瞥するが、すぐに納得したように書類の文字へと視線を落とした。

 

「話が、あるんですけど…!」

 

「こちらは持ち合わせていない。下がれ」

 

「別館での仕事。あれは、提督がやったんですか」

 

 ほぼ確信している。鎮守府内のことを提督以外が弄れる訳がない。だったら、この男性向けの嗜好は提督が関わっているはずだ。

 

「……そうだ」

 

「否定は、しないんですか」

 

「する必要性を感じないのでな」

 

「憲兵に言ったら、ただでは済みませんよ」

 

「言ってみろ。出来るならな。ただ、アドバイスをやるとするなら、このシステムは、もう三年も続いている。この意味をよく噛みしめるんだな」

 

 その言葉を最後に執務室を出て、憲兵隊の内で一番近い隊に接触する。

 

 だが、そこで事の顛末を伝えるが、言葉を濁されてしまった。まさか、憲兵すらも買収したのだろうか。秩序を守るはずが、そんな……。

 

――――――――――――

1号室:白露、2号室:木曽、3号室:鹿島、4号室:島風、5号室:愛宕、6号室:鈴谷

―――――――――

 

 一週間が経った。今日は写真を撮り、仕事を開始する日だ。

 

 この一週間で嫌と言うほどこの仕事の内容を知った。夜になれば割と分厚い壁を抜けてくる嬌声が睡眠を妨げ、煩わしい。けれども、毎日聞いていれば、あたしとて女である。自慰の一つもしたくなる。

 

 そして、あたしも遂に地獄の日々を迎えることになる。好きでもない男と絡み合う日々…はぁ……。

 

 これが本当にあたしの護るべき人達だったのだろうか。いや、艦の時代からそういうのは知っていたが、それをあたし達に向けられるとは微塵も思っていなかった。

 

「どうも、白露というのは君か?駆逐艦と聞いていたが、期待外れだよ」

 

「はぁ、そうですか」

 

 長い夜が始まる。最初から提督にとって期待外れのあたしが、この場でも期待外れと言われ、気が沈みそうになるが、そんなことはさせない。

 

 沈むならあたしも一緒にしてほしい。

 

――――――――――――

ええ、まあ、カットです。

―――――――――

 

 2ヶ月が経った。言うには易いが、あまりに濃い日々だ。そのせいで、あたしはこの状況を壊す気力はなくなっている。

 

 打開するための情報として、まずはまわりに伝えるべきだと判断したあたしは、憲兵、視察官、演習相手等に伝えてみるも、これまた丁寧に提督の息のかかった人だった。

 

 しかし、一つの打開策として、この仕事の相手の男を攻撃するというのがあったが、それは解体一直線だろう。

 

 そもそも、あたし達艦娘は提督に攻撃できないが、他の人なら攻撃できる。それが、性行為にも反映され、提督に性行為は出来ない。

 だから、別の鎮守府の提督にこの鎮守府の艦娘が攻撃することは出来る。そのため、この仕事は成立している。

 

 だが、それも今日までである。

 

 今日の視察団は提督の息の掛かっていない、むしろ、息をかけたら仇になって返ってくるような団体だ。

 

 ことの発端は妖精消失事件。色々と呼び名があるが、兎も角、この事件により全ての鎮守府がキリサキ元帥直属の艦娘により視察されることになった。

 賄賂も効かない、媚も売れない。

 

「助かった……たすかっ……!」

 

 不意に涙が溢れる。いなくなった5号室と2号室には悪いが、喜びが勝る。どうしようもなく、救われた。たった2ヶ月、されど2ヶ月。一年以上この仕事に勤しんだであろう彼女らより、救われた。

 救われることは、どうしようもなく、嬉しい、幸せだ、喜ばしい。一言では表現しきれないような、そんな気持ちだ。

 

「我々、人間のために、いや、何でもいい、深海棲艦と戦ってくれるか」

 

 あたしは、救われたから救いたい、と思った。いや、違う。それでは語弊がある。もっと、根本を捉えるならば、救われる気持ちを知ってほしいから救う、だろう。

 だから、あたしはここで出来なかった分、θ中将の元で働くことにする。

 

――――――――――――

鹿島は解体。鈴谷、島風、白露はθ中将に保護

―――――――――

 

 夜に三日月が天に輝く頃、車道に飛び出した青年を呼び止め、あたしはその青年を救った。

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