補給途絶鎮守府   作:フユガスキ

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色々とする⑤

 未だに寝息が聞こえる部屋に入り、俺は何をしようか迷っていた。

 

 それというのも、朝の空気を吸って適当にお喋りをしたら、完全に目が覚めてしまったのだ。この状態では寝れないため、何をして時間を潰そうか。

 

 現時間はおおよそ5:15。時間割の食堂は6:00から15分間利用可能なので、あと30分程暇である。これくらいなら、海でも眺めていようか。

 

 思い立ったら即実行の精神で外へと向かおうとすると、小声で漣に声をかけられた。

 

「どこ行くんです?」

 

「ちょっと外出る」

 

 咄嗟にそう答えてしまったが、これは答えになってないのではなかろうか。いや、まぁ、訂正するのも面倒くさいので、言いなおさないが。

 

 外に出てすぐに、落下防止の柵が建てられており、そこに肘をつこうとするが肘をつくには微妙に高いので、所謂学校の机に伏せるときのような感じに腕を組んだ。

 

 なんというか、こうして海を見ていると感慨深くなる。どうして海ってのは飽きるほど見ても飽きないのだろうか。いや、違うな。別に海の中から見ればすぐ飽きるので、海を見てるようで見ていないのだろう。

 

「すげぇ、……詩的だな」

 

 自分で言ってて恥ずかしくなってきた。

 

 何というか、これはあれだ。旅行が終わった後の特有のあれである。

 実際、俺が日本を離れあの島で過ごしたのは二週間程度だ。ちょい長めの旅行のようなものである。

 

 旅行に行くとある程度の思い出ができるもので、俺の場合は、初日に未知の超生物にあったり不思議な小人にあったりと濃い一日を過ごし、二日目に超生物っていうのが白露っていう艦娘だと知り、その夜に深海棲艦とかいう恐怖の塊みたいなのを相手取り、三日目に叢雲とかいう超再生能力を持った艦娘に出会って………………………いや、思い出、濃すぎかよ!

 俺はいつから異世界系の主人公になったんだ?その主人公でも物語が動くのには一ヶ月とか掛かるんだぞ。それがどうして、こんなにも濃ゆいのだ……。

 

 俺は普通の高校生のはず。というか、トラックに轢かれる前に「俺は普通の高校生で云々」と自己紹介とかしてないはずだ。だのにこんな非日常を味わうとか、この世界はイカれてるんじゃ?

 

 それに、冷静に考えてみれば、TS物って元の性別に戻ることが最終目標であるのが王道だが、俺の場合は元の体が死んでいるので戻れない。

 というか、そもそも俺は日本で自由に暮らせるようになっても、どう生きればいいのだろうか。

 

 戸籍も金もないのだ。住まいは買えないので最初はバイトか何かをするのだろうが、高卒――むしろ中卒のような見た目の俺がまともに給料を貰えるわけがない。

 となると、日本社会で暮らせないので、海軍内に残るのが逃げ道として残るのだが、それはそれで怖そうである。

 

「やっぱり、漣についていくのがいいのか」

 

 結局のところ、それが一番良いだろう。誠心誠意を持ってキリサキ中佐に雇ってもらえれば、食いっぱぐれることはないだろう。


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