いやしかし、頼みの綱が一本しかないというのは些か不安だな。などと未来について考えていると、最も端にあるこの場に近づいてくる声が聞こえた。
「〜〜、はい、大丈夫です!」
「ハハハ、〜〜、〜〜〜〜………」
海を眺めていた目を声のする方向へと向けると、そこには改造巫女装飾を着た少女と俺と同じ服を着た男性がいた。明らかに艦娘と提督であろう。
相手もこちらに気づいたのか、艦娘の方は丁寧に頭を下げ、提督の方はおはようとにこやかに手を振った。
俺はおはようございますと言って会釈をし、また海を眺めることにした。いやぁ、今更だが、この格好は良くないか?美少女が船に揺られながら海を眺めているって、中々絵になると思う。一応言っておくが、ナルシストではない。いや、本当に。
「その見た目から察するに、君は駆逐艦白露だな?」
「ぅぇ、な、何ですか?」
何で話しかけてきたんだ、この提督。中々ラフに接してくるじゃあないか。こっちには軍神と呼ばれる予定のあるらしいキリサキ中佐がいるんだぞ。
「確かこの部屋は、α大尉の部屋だったと思うが、秘書艦である君が何故提督服を着ているのかな?」
「ぁ」
ヤバい。この提督、陽のオーラを持っている。だってこの提督、いきなり腕の服を掴んで持ち上げているのだ。ハラスメントで訴えるぞ、マジで。
とはいえ、δ少将の忠告やらα大尉の事情やらで、俺が白露を演じなければならないというのは知っている。白露の黒髪の妹のときのように、ヘマをしてはいけない。
「ι提督。白露ちゃんが困ってますよ。…ごめんなさいね、白露ちゃん。でも、貴方にちょっとだけ伺いたいことがあるの」
「はぁ、何でしょう」
俺がそう答えるとι提督と呼ばれた男は咳払いをし、俺たちの部屋に目を向ける。
「α大尉は君に酷い虐めをしてないだろうか?それか、仲間の娘が暴力を振るわれているのを見ていないだろうか?」
「は?」
α大尉って見た目は暴力的だが、そういう噂は立ちそうにないと思っていたが……。
えーと、まず、俺は酷い虐めを受けていない。白露達に暴力を振るわれていない。うん。
「ないです」
「やはり、か。彼は消去派だと言われているが、実のところは……よし、白露。α大尉はいつ頃の予定が空いているか分かるか?」
うーん。知らないが、別に忙しそうではないので、いつでも空いているのではなかろうか。と思っていると、部屋のドアが開き、背の高い男――α大尉が出てきた。
「おや、しょ…白露だけかと思ったら、ι少尉までいましたか。どうかしましたか?」
「あ、お早いですねα大尉。して、お時間はあるでしょうか」
「ふむ。そんなに急ぎの要件ですか?僕はそろそろ食事に向かいたいのですが。それとも、一緒に食事にしますか?食事に仕事の話を持ち込むのは好きではありませんが、それでいいなら聞きますよ」
「―――ッ」
α大尉はその背の高さと鋭い目を活かし、いつも以上の迫力を作り出し、俺ですら背中に冷や汗が垂れるほど威圧している。
いや、怖すぎかよぉ。武装色の覇気かよ。マジで死ぬかと思った。
「で、では、後ほどお話の時間を……」
「ええ、今度は正式な約束を取ってから来るといい。まぁ、もっとも、時間があるかは分からないが」
「は、はい、失礼します」
ι少尉は若干足早に去っていき、艦娘の方は丁寧にお辞儀をしてから走ってι少尉を追いかけた。
あの艦娘、凄い図太いな。肝が座っていらっしゃる。