そんなことを思っていると、食堂の利用可能時間が来て、利用客が一気に雪崩込んだ。やはり15分という短い時間で食べ終わらなければならないため、少しでも早く食べたいらしい。
「じゃ、僕は中のトイレを使うことにするよ」
そう言ってα大尉は中へと消えていき、男子トイレの前には俺のみが残った。
「ま、入るか」
これでトイレが使用できるので、中に入って個室で小便をする。女子の体だからね。仕方ないね。
ただ、座って小さい方をする感覚は、男の頃とは違って中々慣れない。
適度に尻を拭いて、手を洗いに行くと丁度誰かが入ってきたようだ。
「え、あ、すみません!間違えました……え、あれ?え?」
その男――ι少尉は俺の顔を見るや否や飛び退いて外に出て、けれどもまた入って近づいてきた。なにがしたいんだ?
「あの、白露。ここは男子便所だが?」
「そうですね」
それがどうかしたのだろうか。男が男子トイレを使う。別に普通……あ、そっか。ι少尉には艦娘だと思われていたのだった。
やばいなぁ。一応、α大尉の艦娘として演じなければならないのに、どう言えば言いくるめられるのだろうか。
「取り敢えず、出ていってくれ」
「はい」
おぉ、良かった。話さなければバレることもないだろうし、一件落着である。
男子トイレの出入り口から出ると、そこにはι少尉の近くにいた艦娘が立っていた。
あぁ、これはもう読めた。先の流れが読めてしまう。これぞ、一難去ってまた一難。
「ι提督、お早いで――ぇ、白露ちゃん?」
その艦娘は俺を見た途端、目を大きく見開き口をパクパクさせながら固まってしまった。きっと、漫画ならカチコチになっているだろう。
「ぁ」
そういえば、この艦娘の名前は何というのだろうか。……そうだな。カチコチなのだし、クリスタルのお嬢とでも呼ぼうか。って、本人に言えるわけ無いだろ。
というか、あだ名で呼べるほどの仲じゃないので、あちらから話しかけてもらうことでしか会話ができない。決して、俺の会話デッキが皆無だから、とかそういう理由ではない。
………話しかけてこいよぉ!なんだよ!こっちは気まずいんだよ!
いや、待て。冷静に考えれば、話す必要無くないか?むしろ、マイナスではなかろうか。
うん、そうだな。よし、適当に挨拶をしてここを去ろう。いや、挨拶をしなくてもいいかもしれない。適度に頭を下げるだけで問題ないはずだ。
頭を少し下げてクリスタルのお嬢の前を通り過ぎ、食堂に入る。よし、よし。我ながら完璧なムーブだった。足音を立てずに相手の視界の端へと消えていく。うむ、完璧すぎる。まぁ、何回も使ってきたので、今回も成功しただけなのだが。……あれ、何か涙が。ペロッ。これは精神的ダメージを負ったときの味ッ。
元ネタは汗を舐めてる方。青酸カリじゃない。