漂流物…人?
「今後の課題を言っていきます」
昼ごはん中に話題を持ってきたのは白露だ。課題と一言に言っても、この無人島もとい多妖精島でできることは限られている。
そろそろ歯を磨きたいなとか、風呂に入りたいなとかいろいろとあるが、どれを解決するのだろうか。
「まず、入渠施設だよ。回復をしないと戦えないからね。その次にあたしの練度上げかな。あっ練度っていうのはレベルのことね」
おいおいちょっと待て。わざわざレベル上げる必要ないだろ。あんなボス級に強いやつ早々出ることないだろ。それよりも
「いや、そのまえに歯磨きとか着替えとかやることあるだろ」
海水が飲めない分、喉の渇きは木のみで誤魔化してきたがそろそろ水が飲みたい。ただの一般人では3日も暮らせないのだから、旅を趣味とする人は凄すぎる。
「まあ確かにそれも大事だけど、ここ最近の遠征でわかったのが、ここって戦闘の最前線なんだよね。深海棲艦がよくいるから間違いないと思うよ」
最前線?!激戦区じゃん!θ中将はなぜそんなところに俺らを送った?この戦力からして戦わせるためではないだろう。
そうなると殺すためっていうのがほぼ確定か。有効的に捉えるなら和平交渉のための最低限となるが、流石にそれはありえない。
でもそれなら、わざわざ尉官を与える必要はなかったはずだし、艦娘もつける必要はないはずだ。現に「化け物」によって生き残っている。
じゃあ殺すためが違うのか…?それとも称号を与える必要があった…?海軍さんの考えることはわからない。これは一旦保留としておこう。
「じゃあ戦力拡大が必要だな。なんでも、艦娘が増えたほうができることも増えるしな」
歯磨きなど一般人の日常生活をするにも、一人あたりの負担を減らしたほうがいいだろう。そんなことを考えていると、青髪おさげの妖精が声をかけてきた。
『艦娘が流れてきた、早く来てっ』
珍しく慌てた声を出して何かと思えば、新しい大きな事を持ってきたようだ。深海棲艦と戦って半日も経たずにイベントが起こるとか、今日は濃度が高すぎるだろ。
とりあえず、案内されたところに行ってみると、左の頬はなくなり歯が見え、体は全体的に激しい火傷で血だらけになり右足が皮一枚で繋がっている、おそらく艦娘がいた。
艦娘といえば白露しか見たことのない俺だが、艤装をつけているところからして、俺でもない限り艦娘だろう。頭に天使の輪っかのようなものがついているが、死んでないのだろうか。
「前の鎮守府で見たことあるよ。この艤装ならたぶん特一型の叢雲ちゃんだね」
「バケツってのはもうないのか?」
「少なくとも今すぐには無理かな」
「…そうか」
治せないのか。艦娘なら一度は経験したはずの死。俺も経験したことのある死。自分のことや古いこととはまた違った感覚である。
「可哀想とか思わないでね、頑張って戦ってるんだから」
もとよりだ。理由は違うが、そう言う感覚は持ち合わせない。そうしようとしている。艦娘として、叢雲として、正しい事をしてほしい。
破けた頬から空気の通る音が聞こえる。
「勝手に、ころ、殺さないで、よ」