「―――以上の事に注意して、決して勝手に動かないように。いいね?」
「はい」
α大尉の長い話も終わり、数々の注意事項を頭に詰め込んで疲れ切った声で返事をする。
それというのも時間は遡り約二時間程前、忽然と消えたキリサキ中佐と残された紙切れを見てα大尉はこの船の主――船長ではなくδ少将に何かを話したらしく、進路変更のアナウンスやら、荷詰めの指令やらが鳴り響き、その最中にα大尉から諸々の説明を受けていたのだ。
曰く、軍法会議は延期となった。曰く、沢山の提督がいるから規定の位置、もしくはキリサキ中佐と一緒にいて欲しい。曰く、軍神は神出鬼没である。……等等。
そういえばキリサキ中佐は神じゃないのに軍神とか呼ばれていたな、と思い出しつつ、詰まるところ、作戦基地なるものの中で大人しくしろ、とのことだった。
いや、それよりさ。キリサキ中佐は?
α大尉との会話で言及されなかったが、キリサキ中佐ってどうやって比島方面に向かったんだ?
ここは海にど真ん中であり、脱出はほぼほぼ不可能だ。数多くの推理物がそう言っていたので間違いないだろう。
けれど、この場面を見る限りその理論は正面から壊されている。つまり、その理論が間違っているか、キリサキ中佐が船の中にいるかのどちらかだろう。
「で、キリサキ中佐は?」
まぁ、これに関しては考えても答えが出るように思えないので、一番情報を持っていそうなα大尉に聞くに限るだろう。
「だから、比島方面沖に向かったと言ったじゃないか」
「いや、そうなんだけど、そうじゃなくて、どうやって向かったのか、って話」
「だから言ったろう、軍神は神出鬼没である、と。僕だって方法を知っていれば上手く対処出来るのだけど、何せ足取りが掴みづらいから、こういう紙切れだけで彼女の場所を探さないといけないから大変だよ」
ハハハ、と笑いつつ愚痴をこぼして、僕にはまだやることがあるから、と言って再び部屋を出ていってしまった。
何かアレだな。好きなアイドルを追いかけるファン的な、そんな雰囲気と似ている気がする。
そう、昔の俺も突発とか緊急とかの開始数時間前の発表の多い推しの生配信を渡り歩いたなぁ。
「………そっか」
昔……と言うには最近すぎるが、少し前の俺はそんな予告もないような戦場で、無力なのに生きるために艦娘を使う提督だったのだ。
それが、今となっては戦場を間近に戦わなくていい環境にいる。それがなぜか少しばかり虚しさと焦燥感を駆き立てる。
たった二週間のあの島での生活が虚しさを感じるほどに自分の中で特別な体験になるとは思わなかった。そのせいか、出来れば今の提督でない俺と、硝煙の匂いの届かない、そして潮の香りの漂うような場所で、適当にふざけ合える仲間でいたいと憧れる。
そんな大切な仲間だと思える彼女らが、今度の海戦で沈んでしまわないか、不安で心配で焦燥を覚えて仕方がないが、結局俺が口出ししたところでより悪い結果になるとは分かりきっているので、自分にはこの、知らぬ間に守られる立場、にしか立っていられないのだと、納得してしまった。