俺は疲れた身体に無理を言わせ、腕を地面について声の主を見上げた。確か、いや絶対にこの声は川内のものである。
けれども、やはり無理なものは無理で、腕には微塵も力が入らず、虚しくもその人物を確認することは叶わなかった。
俺は挨拶の返事すら言えず、無言で気まずい空間が広がるが、川内が大きく溜め息を吐いて俺の近くに寄り、うつ伏せに寝ている俺の目の前に川内は屈み込んだので、俺は唯一動く目を上に上げて川内の顔を見上げた。
すると彼女は快活な笑顔を見せて一言
「提督、もう何日も休んでるから、今夜は夜戦だよ!」
ハハッ、何だよそれ。言葉にこそ疲れて出なかったものの、思わず口角が上がってしまう。特別面白かったわけでも何でもないが、心の底から笑みが溢れた。
どこからどう見ても俺は疲れているように見えるだろうし、正直、今夜を徹夜できるほど体力が残っていない。だから、川内の提案自体は断るしかない。
けれども、別に川内は勝手に夜戦ができるので、態々口に出す必要はない。そんなことは川内も分かって言っているのだろう。
じゃあなんで笑ったのかというと、恐らくそれが最も川内らしい発言だったからだ。あるいは、〇〇らしい、という決めつけを嫌う俺が川内らしいと思ったことに対する嘲笑も含まれる。
「じゃ、提督をお風呂にでも入れようか。ι提督はその後でもいーい?」
「嗚呼、構わないよ。むしろこの手法しか見出せなかったこちらの失態だから、出来る限り要望には答えたい」
うわっ、これはかなり印象操作しに来てるな。
まあ、言っていることは正しいので、一々噛みつきはしないが、どんな無茶振りをされるか覚悟したほうがいいかもしれない。
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所変わって風呂の中。大きいが簡易的で機能重視の建物に取り付けられた風呂――というより温泉である。硫黄のキツイ匂いと「健康な肌に必要な天然の栄養がたっぷり!」みたいなキャッチフレーズの書かれる看板があるため、ほぼ間違いないだろう。
取り敢えず、そんな看板を横目に服を脱いで暖簾をくぐり、蒸れた空気の中、湿った石畳の上を歩いて近くのシャワーの前に座る。俺個人の感想だが、木と石しかない温泉にシャワーって不相応な気がしてならない。
「そうは思わんか、川内?」
「え?私と夜戦したい?えっと、どっちの?」
どっちのとは何だ?というか、夜戦したいなんて一言も言ってないのだが……。
川内には何でもないと言って、俺は髪を洗うためにシャンプーを手に取る。ちなみに無料だ。
……え?川内がなんでいるかって?これについては深い事情があるのだ。
まず、俺は男湯に入ろうとして、見た目で断られた。因みに女湯でも同じ理由で断られている。やはり、見た目が艦娘だとダメならしい。
それで泣く泣く俺は、所謂ドックに入る羽目になってしまい、川内と一緒に入っているのだ。