あまり状況が飲み込めないままキリサキ中佐率いる大艦隊が出撃し、Wマスとよばれる地点へと急ぐ。一応軽く作戦内容だけは説明してもらったが、あまり理解できるものはなかった。
というのも、何やらこれ以上戦艦を積むと分岐して空襲2回来るから、これがベターなはず、だとか、高効率化のために、まだ解除してないL,Oマスのギミックを同時進行で解除するために第五艦隊と第六艦隊が必要、だとか言って、相変わらずキリサキだけ世界観が違う。
まぁ取り敢えず、俺が為すべきことは、道中の空襲マスでもしも中破が発生したときは伝えて、大破が出たときは即帰還命令を出すことらしい。空襲が来るとわかっているなら対策のしようがいくらでもあると思うのだが、そうでもないらしい。よく分からん。
概ねの戦闘は旗艦の判断に拠る手筈なので俺が指示を出す必要はないが、白露に危ないでしょと言われたため、一応通信機をつけておく。オカンかな?
因みに神州丸は、キリサキの艦娘と思われるスク水たちと戯れている。
「はっ!?スク水ッ!!?」
思わず綺麗な二度見をしましたね。白露に頭を叩かれ、作戦中、と短く叱られた。だから、オカンか!
そういえば、なんで白露だけ叩けるのか、答え出てなかったな。
「で、アレなに?キリサキのプレイ?」
「こら、失礼だよ」
キリサキに聞くと、キリサキはう〜ん、と考え込んでから、ブラック営業?と答えた。なんで疑問型なんだよ。
「いや、オリョクルなくなったし、今はそうでもないか」
「オリョクル?」
「あー、いや、何でもない。ま、えっと、あの娘たちは潜水艦だね」
なるほど、だからスク水か。って、納得するわけ(ノリツッコミ)。成長しすぎて、あそこなんかスク水を着ちゃいけなさそうなのが、ちらほらと見えるが。
「ありゃりゃ〜?もしかしてイクに興味津々なの〜?やっぱりトリプルテールは伊達じゃないのね!」
いや違う、そうじゃない。トリプルテールは見えてなかったし珍しいけど、それ以外にヤバいとところあるだろ。
というか、さっきから艦娘、デカいの多くないか?俺の目が胸に行きすぎなのか、ナイスバデーが多いのか。圧倒的後者だろう。白露もまぁまあ、うん、少し芋臭いけども美少女だし。
「イク、お前はもうちょっと自分を気にかけるでち」
おや、そんな水着を着て正論パンチを食らわせるなんて、どんなブーメランだ?
ゴーヤ、もしくはでっちと呼ばれる艦娘は俺にぺこりと頭を下げ、トリプルテールを3本まとめて鷲掴みにして引っ張っていった。丁稚奉公とかいじめられてるんか?
「ははは……。そういえば、神通さん大丈夫かなぁ」
神通といえばキリサキの第五艦隊に編入され、今Lマスに向かっている。途中までは第六艦隊と同行するようなので轟沈は万が一にも避けられると思うが、その先はどうなるかわからない。確かに心配だ。
元々、神通はキリサキの艦娘ではないから連携もまともに出来ないだろうし、十中八九練度も足りない。艦娘は一発では轟沈しないとはいえ、大破でもしようものなら足手まといにほかならない。
俺だったらキリサキのように他所属の低練度の艦娘を編入しないが、何か作戦でもあるのだろうか。
それを聞こうとしたら、基地航空隊をまだ決めてないからごめんね、と断られた。基地航空隊ってなんぞ。
「やっぱり即席の装備じゃ夜戦でも落とすの無理か……。というか、編成的にイベントの深海棲艦じゃないよね……。なのにルート分岐そのまんまとか、無理ゲーすぐるくん」
う〜ん、う〜ん、と唸った挙げ句、もうだめだーと机に突っ伏す。いやいや、だめだー、じゃないが。
「お前がやらねば誰がやる」
ちょっと低音にしてそう問いかける。別に特定のアニメや漫画のネタでもないが、ありがちな文句はやはり低音に限る。
それに真面目な話、キリサキの艦隊の練度は全提督中の上位層だとα大尉の書類に書いてあった。しかも艦娘の保有数だってNo.1である。だから、キリサキにできなければ、誰にもできないのだ。
「……教えてくれ、少尉。勇気はどこにあるんだい?」
ノリに乗ったようで、尊厳のある面構えでゲンドウポーズをとる。そのメガネどこから出したんですか?
しかしまぁ、ポーズと言葉が全く持って合ってないが、中々に哲学チックなことを聞くな。エモいじゃないですか。
「……その言葉に……、すべてを託されたのではないのかい?」
フッ……フッ……と互いに意味有り気に笑い合い、しはらく沈黙が続いた。いや、何の意味もないが。かっこいいから言ってみただけだし。
その沈黙の中、一人今何が起きたのか理解できずにオロオロとした白露が神州丸にどういうこと?と聞いたことで、このただ格好つけたいだけの雰囲気は消え、漣がキリサキにどうするんですか、と尋ねる。
「取り敢えずこれは総力戦。バケツが足りないこの基地じゃあサイクルは難しい。そうなると、ウチの全艦がいても足りない」
「ええ、そうですネ」
え、足りないん?というかサイクルってなんだよ。もしかしてあれか。バケツを使いまくって出撃させまくるとかいう感じか?
「しかも、分岐もあるし渦潮もあるから、資源も限られる。基地航空隊もあまり高性能なものはないし、武器だって改修されきってないものが多い」
「そうデス」
渦潮ってなに?いや、普通の意味なら分かるけど、なんかの業界用語だろ、絶対。だって、機動性の高い艦娘が渦潮に引っかかるとか、ありえないし。
「もし、私の鎮守府から支援しようとしても、距離が遠すぎてサイクルには不適。資源は半分程もう次の作戦基地に輸送しちゃったから、どちらを落とされても大損害になる。ここまでは完全に無理ゲー」
「その通りデスネ。攻略不可能デス」
最後のは意味がわかった。確かにそれは大損害である。俺が島で有していた資材の何千倍という数だ。量の次元が違いすぎる。
「ここで、キリサキちゃん考えました。基地を襲わせず、島民をすべて逃して、深海棲艦を一網打尽にする策が」
「漣には思いつきませんが、いつもの奇策には乗ってあげますヨ」
「言ったね?じゃあ、発表します。その作戦は……ダラダラダラダラダダン!私は勇者だ、英雄だ作戦!」
「はあ……?」
はぁ?
「この作戦は、島のギリギリまで深海棲艦を集めて攻撃を当たりやすくして、一斉斉射で一気に突破するというもの」
「いえ、それでは無理デス。あまりにも敵の数が多ぎマス」
「そう、そこで私よ!私が出る!」
「出るって、出撃って事ですカ?」
「そう!!」
「それ、最悪――」
「――あーあー!うるさいうるさい!そーいうのは言わなくていいの!」
何を言おうとしたがわからないが、何かしらのリスクがあるようだ。きっと、俺の思っているような、深海棲艦に対する恐怖とかそういうのではなく、もっと別の……おっと、これ以上はフラグになりかねない。
「……ご主人様と一緒に家に帰れば、ご主人様も漣もみんなも絶対に助かるのに、いいんですカ?」
「うん、ここは漣達がいてなんぼでしょ?」
なんか急に世界観が違うシリアスストーリーになったが、何かを決めたような面構えで、漣によろしく頼むよ、と伝えた。何かいい案が浮かんだようだ。
漣が万年筆を持って扉の方に向かうと、同じタイミングで扉を開ける者たちがいた。
「キリサキ中佐!貴様、何をしているっ!?」
怒鳴り散らして入ってきたのは、きらびやかな金属類を肩にかけ鳴らし、一見して海軍将校のトップ層であるだろうと分かる人々だ。肩章、と言ったか、それの多さはθ中将より少ないくらいだろう。
「上官の指示も待たず出撃とは、処罰対象だぞ」
「いんや、んだことより、あの数の船を保有している中佐がいるだんで、情報は上がってきてねぇべな」
「こりゃ、作戦を練り直す必要があるわな」
扉の近くにいた漣を弾き飛ばし、執務机に座って警戒しているキリサキ中佐の両腕を逃げられないように持ち上げ、そのまま連行しようとしたところ、遅れて来たα大尉が待ったをかけた。
α大尉は、憲兵と呼ばれる警察的な組織にしかその権利は所有していないのだから、然るべき手順で裁くべきだ、と主張している。
「なるほど、これがα大尉の隠し玉か……」
「んな生真面目がこれから先で通用するわけではないだろう。規則違反は糺されるべき違反である」
ちょ、離してください!と喚くキリサキは気にも止めず、無理矢理に腕を引っ張る。ここは、どうすべきか。俺が止めに入っても力が足りないし、何より意味がない。結局、連れていかれる未来は変わりそうにない。
いや、艦娘ならば、話が違うか。白露が止めに入れば……入ってどうする?そこから逃げるわけにもいかないし、からといって暴れるわけにはいかない。
白露の方にちらっと目を向けると、なぜか、端に寄って神州丸と一緒に縮こまっていた。ゑ?
漣なら、漣ならば何とかできるかもしれない、と目を向けると、漣は既にこの部屋から消え、どこかに行ってしまっていた。いつの間に?
「おやおや?こーんなところで奇遇だね、α大尉」
デケェ、と思わず呟いてしまいそうなほどの巨漢、といえど細身な男性が同じぐらいの背のα大尉に手を降っている。なぜか、仮面をつけて。
しかも、今までキリサキの腕を握っていた提督たちはその手を離し、その人にビシッと敬礼を決めている。
「η司令官……」
「α大尉、敬礼なんて水臭いじゃあないか」
ハハハと笑ってα大尉の背中を叩き、それで、と仮面の男はこちらに目を向ける。
「可憐な少女に手をかけるなんて、君たちはその子の彼氏さんかな?」
いやいや、どういう状況を見たらその結論にたどり着くんだよ。というか、彼氏なら手をかけてもいいのかよ。
η少将は、君たち邪魔だから消えてくれる?と何にも隠さずに単刀直入に伝え、そこにいた3人の提督を部屋の外に追い出した。怖ぇ。
3人が出ていくのを見送ったあと、η少将は俺にも邪魔だよ的な視線を送ってきた。あ、はい、今すぐ退きますね。
しかし、白露と神州丸に目配せをして外に出ようとすると、やっぱり君は残っていい、と抑えられた。え?
「そうか、君がθの言っていた白露か」
θってたぶんθ中将のことだよな?あの、俺を島に送って、裁判にかけられてるとかいう。
「ふむ、いつか因果が応報すると思っていたが、そうかそうか……」
何かに納得したようにη少将はうんうんと頷いて、目線をキリサキの方に向けた。たぶん、おそらく。いやだって、仮面で目が隠れてるし。
「それで、α大尉。私は納得したからもう戻るけども、何か面白いことでもするのかい?」
「……η司令官、貴方の身柄はこちらで保護させてもらいます。すぐに港まで送る者が来ますので、しばらくお休みください」
え?え?どゆこと?意味がわからん。何この状況。
η少将はもうこの仮面は要らないね、と言って仮面を外し、キリサキに向かって一言、よろしく、と言って去っていった。