補給途絶鎮守府   作:フユガスキ

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ターニングポイント

 濃霧に隠れて内地を目指して船団は進んでいく。空に一滴の水色が垂れて染みていくように、大空は色を変容させて日の出を待っている。

 

「暇だ……」

 

 2隻の大型の客船を率いて約1時間。船を囲うように軽巡や駆逐艦で守りを固め、はじめは緊張して通信機に耳を凝らしていたが、霧の中でしかも慎重に進むため何も起きず、俺は飽き始めていた。異常が起きたら確認して、すぐに船内にいる自衛隊の人に伝える大役を担っているが、俺のような徹夜の高校生に集中力を求めるほうが酷だろう。多少のムリは利くが、体力と集中力は別物である。

 それに、霧というのも中々に俺の集中力を奪う一因になっている。はっきりと前が見えないというのは嫌なものである。

 

「ねぇ、提督。日本ってどんなところなの」

 

「うん?」

 

 隣を並走する白露もそろそろ飽きが来たようで、他愛のない質問を投げかけてくる。

 

「世界で7か11番目に大きい島に連なる島国」

 

「7番目ね」

 

 なんだ、博識だな。じゃあ、別に聞く必要なかったよね?

 

「そういうことじゃなくて、あたし達のいた時代から何が変わったのかなって」

 

「あー、20世紀からって、こと?」

 

「そうそう」

 

 んー、何だろうな。ゲームボーイがスイッチに変わったくらいか?(世代を○す一撃)いや、あれは1990年くらいのはずだから、もっと前だと、カラーテレビになったくらいか?(一部には更に重い一撃)ウォークマンとかもそれくらいのはず。

 いや、戦後ということはアニメ文化がちょうど黎明期くらいだし、アニメ文化が答えとして丁度いいだろう。俺のオタ知識が火を吹くぜ。

 

「戦後というと、アニメ、という絵を動かす映像が作られ始め、有名なものだと鉄腕ア○ムとか○厶とジェリーとかが放映されたのデスゾwww。正確に言えば、○ムとジェリーは米国で40年代に放映されてるから、知っているはずでござるwww」

 

「何その口調」

 

「オウフwwwコポォwww」

 

 おうふって何?こぽーって?とあまり気持ち悪いという反応もせずに聞いてくる。やめてくれ、その反応が一番効くんだ。

 この口調はネットの発達により生まれたものだと説明すると、そのネットはあたしの知ってるネットと違うみたい、と言ってキモがられた。ぐ、その反応も効くんだ。因みにこの話し方、アニメの話になると使う人は使うぞ、と教えると更に物理的に距離をとった。

 

「いや、新たなインターネットができるとか、スケール壮大すぎて草」

 

「どこから草生えてきたの?というか、何で目逸らしてんの?」

 

 すまない。汚れのない清潔な白露に不純物を混ぜてしまってすまない、という気持ちから目をそらさずを得なかった。まぁ、そこまで重くはないが。

 

「そして、戦後のアニメは日常的なものが多かったが、ここで日本アニメの転換点が訪れる」

 

「あ、続けるんだ」

 

「もち。それが、月に変わってお仕置きよ、で有名な」

 

「あ、いつの間にか霧が晴れたね」

 

 割り込むようにして白露が言うのに気づき見渡すと、確かに一面が真っ青な海が広がっているのが分かる。透き通るほど綺麗な色をしており、目を凝らせば魚が見えないこともない。

……いやいや、おかしい。魚が見えるわけない。きっとこれも青妖精の仕業だろう。

 

「そういえば、結構スムーズに動いてるね。練習でもした?」

 

「いや、何にも」

 

 これも青妖精の力か?孤島にいた頃は妖精たちのからくり人形のように動かされていたが、今では思い通りに動く。

 

「主砲も持ってきたんだね」

 

「ああ、一応な」

 

 少し重たいが一度撃つくらいならなんとかなる。流石に連続で撃てないけど、まぁ何かしらの牽制にはなるだろう。なってほしいところだ。

 

 またアニメの話を盛返そうとして白露に止められたり、しりとりをしたりして暇を潰していると、何やら船の上の方が騒がしくなってきた。何だろうか、と見上げると、船の陰が盛り出てその中で光が点滅しているように見えた。

 

「なんだ、あれ?」

 

「ん〜、何だろうね」

 

 目を凝らしてみると、どうやら人が密集してスマホで何か撮っているようだった。スマホの向きからして、明らかに俺らを撮っているのだろう。船の近くのため波の音で上の会話は遮られるが、なんとなく珍しがられてる気がする。動物園のパンダのようだ。

 まぁ、白露は普通に可愛いし、そうすると結果的に俺も可愛いということになるし、その二人が海の上に立っているのだから、見栄えもするし珍しいことこの上ないだろう。

 

「けどなぁ、俺が日本にいたとき、艦娘なんて都市伝説扱いだったんだよなぁ」

 

「そうなんだ。え、じゃあ、あたし達始めて撮られたってこと?」

 

 呑気だな、という呆れた視線を送ってみるも、白露はいまいちピンとこないようで首を傾げた。

 いや、どう考えたって艦娘は軍事機密だろう。海の上を立つなんて前代未聞だし、深海棲艦とかいう化け物と戦うなんてSFが過ぎている。そんなものを世界に公表してしまえば混乱にもなるだろうし、何より艦娘への批判が殺到する。子どもが戦っていたらおかしいと思うのは当たり前なので、この批判は避けられないだろう。まぁ、本来は戦うこと自体が忌避されるべき存在だが。

 だから、俺らではなく、例えば加賀さんとか赤城さんとかであれば、最悪の自体は免れるが、撮られてしまったのが俺らなので非常にマズい状況である。

 

 けれど、俺にはどうする術もないので、無視する他あるまい。それに、写真撮影をしているということは、甲板が客に開放されたということだから、あの写真撮影は自衛隊の許可が降りたということだ。それなら、別に問題あるまい。

 あ、そうか、普通に問題ないじゃん。そういう判断ならちょっと良い顔しようか、と乗客に向かって手を振ると心なしかフラッシュが多くなった気がする。

 

「というか、スマホって知ってるんだな」

 

「うん、θ提督のところにいたとき、触ったことがあるよ。すごいよね、あんなに小さくなるなんて」

 

「まぁ、それだけならもっと小さく――」

 

『前方第一護衛部隊、十時の方向に敵水雷戦隊を確認。このままでは進路に交差します!』

 

 通信を聞いた俺と白露は挙げていた手を下ろし、白露は他の護衛部隊情報を伝え、俺は船の中にいる自衛官に連絡を取る。

 

「前方第一護衛部隊が十時の方向に敵艦隊を確認しました」

 

『了解。船を一時停止させる』

 

 白露に一時停止の旨を伝えると、それを全艦娘通達し、俺らも船に合わせて停止した。

 

「でも、おかしいね。赤い海からはだいぶ離れたのにこんなところに深海棲艦がいるなんて。斥候、にしては遠いから、野良の深海棲艦かな」

 

「あ、それフラグ」

 

「え、何、フラグ?」

 

「そう、フラグってのは、やったか!?って言ったときに大抵死んでない、みたいな、それをしなければ思い通りになっていることが多いのに、それをしてしまうせいで思い通りにならない確率が高いものに建つもの。どこが最初かは知らない」

 

 ん?ちょっと待てよ。こういう解説をする時も割とフラグ建ちがちだった気が……。

 

 そう思った瞬間、渦潮のようなものが目に映るぎりぎりくらいに出来始め、乗客の人たちが俺たちではなく渦潮に目を向けて写真を撮り始めるくらいになると、その渦潮は渦潮と呼ぶには深すぎるくらい下に伸びていき、海に穴ができたと思うほどになると、ズッと勢いよく大きく白い化け物が出てきた。その刹那、海を血塗られたような赤に染め、白い化け物は海に着水し、その全貌を明らかにさせた。

 

「太平洋深海棲姫……」

 

 白露が呟くのを他所に、俺は眉間に手を押し当てた。一体俺が何したってんだよ。

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