補給途絶鎮守府   作:フユガスキ

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リメンバー

『全艦退避ーッ!』

 

 疾風迅雷に恐怖が駆け抜け、乗客の悲鳴が聞こえた。自衛官のカチカチと噛み合わない歯の音も通信機から漏れている。

 件の鯨は妖精に親しいため、乗客のほとんどはクジラが見えず、赤い海に目を向けているが、数人は鯨を見上げスマホで撮ろうとしている。

 

「提督殿……っ、これはいったい何事でしょうか?」

 

 船尾の方を担当していた神州丸がフードを手で抑えながら俺らの近くまでやってきた。

 取り敢えず、船が旋回するようなので少し船から離れながら神州丸に何が起こったのかを話す。どうやら、船の陰に隠れて何も見えなかったらしい。

 

「つまり、船団がここを脱するまで、時間を稼ぐということですね」

 

 あー、そっか。普通に怖いし逃げようと思っていたけど、今の俺は護衛の一人だから守らないといけないのか。

 うわっ、逃げたい。何とか理由を付けて逃げたい……が、同じように4体目が出てきたら、それこそ絶体絶命のピンチとなる。つまり、逃げるよりここに残ったほうが俺の生存率は若干高い…はず。

 というか、なんで自衛官が指揮せずに、俺に指揮権委ねてんの?無理なんだが?

 

 白露に若干助けてほしい気持ちも含めつつ目を向けると、頑張れみたいな目で見つめ返してくる。そんなご無体な。

 神州丸に同じように目を向けると、敵前逃亡は断固拒否、全速前進あるのみ、みたいな圧がフードの下から送られてきた。君フード被ってるのに、大概熱血系だね。

 

「けど、無理なものは無理なんだよな」

 

 キリサキには余裕だろ的なことを言ったが、実際にこれほどの規模の敵と戦うとなると、やっぱり何もアイデアは浮かび上がらない。何か策を思いついたキリサキが異常である。

 

「えー、もっと頑張ろうよ」

 

 白露さん、あなた状況分かってる?もしや勝てるとお思いで?

 

 そんなことを思っていると、ふと、足元の赤い海面に泡がブクブクと漏れてきた。警戒して少し距離を離すと、水着姿の艦娘たちが海から顔を出した。

 

「ばあ!」

 

「ありゃりゃ、お久しぶりなの」

 

「イク、ちゃんと作戦を聞くでち」

 

 キリサキのところの潜水艦たちだ。大変仲が良さそうである。しかし、何か用があるのだろうか。

 しばらく注意して見ていると、いそいそと浮き輪に乗っかって淡い赤髪の潜水艦が近づいてきた。

 

「えーと、白露司令官と神州丸さん、ちょっとついてきてくれる?」

 

「え、どこに?」

 

「見えるでしょ。あのデカイのを撃ち抜くのよ」

 

 撃ち抜く……って、えぇ?俺と神州丸で太平洋深海棲姫を撃沈しろと?無理だろ。

 何言ってんだ、という顔でその艦娘に目を向けていると、何か思い出したかのようにポンと手を合わせた。

 

「あ、私はキリサキ司令官のとこの伊168、言いづらかったらイムヤで良いわ」

 

 今更のように名乗った淡い赤髪の少女は、浮き輪の上に仁王立ちして俺と目線を合わせる。体幹どうなってんだこいつ。

 

「そしてこっちがゴーヤ、イク、ハチ、ヒトミ、イヨ」

 

 でち……、と小さく会釈をするピンク髪の小さい艦娘がゴーヤ。先程も会った青髪トリプルテールのエロゲにいそうな艦娘がイク。グーテンタークと独語を話す赤メガネをかけた黄髪の小柄な艦娘がハチ。瓜二つな容姿でこの中であれば高身長の艦娘がヒトミとイヨ。

 

「私含めこの5隻で白露司令官をデカイのの近くまで運ぶわ。で、あなたには深海棲艦に目にもの見せて欲しいの」

 

「え、あはぃ」

 

 ん?いつの間にか指揮権が俺でなくイムヤに……。まぁ、いいか。そちらの方が経験量からして良い作戦ができるはず。

 

「でも、それだと1隻足りなくないか?」

 

「ゴーヤだけは別行動なのよ」

 

 どうやら作戦内容は、ボスを倒して即帰還、らしい。

 敵編成は太平洋深海棲姫、集積地棲姫×2、砲台小鬼×2、駆逐古姫。対潜能力はほぼ皆無な艦隊なので潜水艦隊ならば圧倒的有利だが、足止めできるというわけではない。そこで、俺が太平洋深海棲姫にそこそこのダメージを与え、神州丸が集積地棲姫を撃沈すれば、相手は撤退を余儀なくされる、らしい。そもそも神州丸にそんな攻撃力があるのか、俺がそこそこのダメージを与えられるか、甚だ疑問ではある。

 

「それって、どうやって撃ち抜くんだ?」

 

「あれ?キリサキ司令官から聞いてないの?」

 

「え、あぁ、聞いてないな」

 

「ま、いいわ。普通に妖精さんの言うとおりにしておけば、なんとかなるわ」

 

 なんとか、ね。まぁ、青妖精もなんとかしてくれたし、なんとかなるかもしれないが、それと恐怖を克服できるかは別問題である。だって、俺ははっきり言って勝てない戦いだと思っているのだから。流石にキリサキだからといって命を預けられるような存在ではない。

 

 だが、これまでもそうだったように、俺は理性で昂ぶる恐怖を押さえつけ、冷静に戦ってきた。無論、知識なんてものはないため、何がどうなっているのか意味不明すぎててんてこ舞いだったし、ギリギリまで白露や川内や神通を追い込んでしまった。そこはキリサキの姿を見て反省している。猛省だ。

 だから今度も冷静になれば生き残れるはずである。例え今は酷い指揮でも、白露との初めての戦闘のあと言っていたように、「暁が水平線を超える頃に生き残っていれば、勝利なんだ」。まぁ、今は超えたばかりで次に太陽が昇るのには一日かかるが、つまりは生き残っていれば勝利である、ということだ。

 

「ふぅ……」

 

 とはいえ、気張っても失敗するだけで、少しのリラックスと客観性が必要だ。客観性といえば、俺が思い浮かべるのは神通に伝えた言葉だろう。あの時は正直恥ずかしかったが、俺に客観性を与えてくれる言葉である。偏屈とも言う。

 上を見ろ、上を見なければ蔑み虐げる本人を見つけ出せない。下を見ろ、這いつくばっている雑魚を嘲笑えない。前を見ろ、追いつく背中なんてものは無い。周りを見ろ、いつ攻撃が来ても守れるように、手を伸ばせ。その手に掴むものは、一緒に戦う仲間だ。

 

「白露は俺とでいいか?」

 

 まぁ、なんだかんだ、今一番頼れるのって白露だし、近くに置いておきたい。何か起きたあとでは意味ないからね。

 

「えぇ、良いわよ。他の軽巡さん達は神州丸さんと行動してもらうわね。それで残りは護衛でいいかしら?」

 

「いいんじゃないか?……あ、やでも自衛官に報告するのはどうするんだ?なんか、俺じゃないと提督じゃないから問題があるんじゃないのか?」

 

「じゃないじゃない、言い過ぎじゃない?まぁでも、問題はないわ。あと少しで安全区域に着くし」

 

 え、じゃあ、ここで俺が戦う必要なくね?俺も安全区域に行きたいんだけど。

 

頑張れー!!負けるなー!!

 

 遠くから聞こえた多くの声に振り返ると、甲板に集まった人々が目一杯に広げた手を振って応援しているのが見えた。なるほど、後ろには退かせてくれないと。いよいよこれは、腹を括るしかないか。

 

「……白露、全艦隊に指示を飛ばしてくれ」

 

……さて。これで俺も戦わなければならない。全艦隊の提督は俺であり、全艦隊の責任は俺にある。年端も行かない俺に負わせ過ぎなんだよ、世の海軍さんは。もっと若者を哀れんでほしいね。(愚痴)

 まぁ、愚痴を言っても仕方がない。とか何とか言ってると、なろう系主人公みたいにチートなパワーが溢れてこないかなぁ。

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