補給途絶鎮守府   作:フユガスキ

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リテイク

「分かったよ、提督」

 

 白露は耳に手を当て、通信を繋いだ。あとは白露が軽巡とその他とで分けて指示を出して、軽巡がこちらに合流したら戦闘開始となる。

 そのあとは総力戦だ。姫というのがどの程度かわからないが、キリサキが警戒するくらいなので、ネ級と同じくらいには精強を誇っているのだろう。十二分に注意する必要がある。

 やはり全艦隊への指示とあって、空気は張り詰め、やけに波や風の音が耳に残る。俺の分岐点となる点だからかもしれない。

 

『こちら2隻とも、緊急回避行動完了。これより作戦行動に戻る』

 

 ふと、俺の通信機に息を整えている自衛官からの通信が入った。船を見ると確かに、朝焼けに掠れて、揺らいで見える船影がある。

 了解、と伝え今一度右手に持つ12cm単装砲を握りしめる。

 

 

 

「……全艦隊、突撃開始!」

 

 不意に、聞き馴染みのない言葉が聞こえた。完璧なはずの作戦、高まった士気がボロボロと崩れ落ちる音が聞こえる気がする。

 

「――え?はぁ!?」

 

 え、まじ、イミワカンナインダケド。神州丸だって目見開いて脳の機能停止してるし、イムヤ達も白露と俺を交互に見てるし、俺だけが理解できてないわけではないだろう。

 トツゲキ?なにかの用語か?いやいや、突撃は突撃だろう。あれ?白露、作戦聞いてなかった?イムヤと俺で話してたの聞いてたよね?無理矢理突破しようとしても犬死するだけっていう前提を理解した上で、死ぬのを最小限に、っていう話だったよね?言葉の裏にはそんな意味があったと思うんだけど?

 

「それだと、轟沈艦が増えて……」

 

 思わず震える声を発するとその反応が分かっていたかのように、白露は少し自嘲気味に笑い俯いた。

 

「いやあんなもの、作戦じゃないし」

 

 自嘲ではなく、俺に対する嘲笑のようだ。

 

「なっ」

 

 大声を出して怒り、頬を張ってやろうかと思ったが、一旦冷静になる。

 俺が怒って白露に暴力を振るいたいのは、あくまで俺に重大な責任が――死者を出さないという任務において、必要以上の死者を出すことによる責任が――降り注ぐからであって、それの憂さ晴らしである。それで殴りかかるほど、自分を制御できないわけではない。

 

「殴らないんだね」

 

 は……?

 

「提督のことだから、殴るんだと思ってた」

 

 突然だが俺は、レッテルを貼られるのが嫌いだ。貼るのも嫌いだ。そして今、暴力の沸点が低いというレッテルが貼られた。望み通り殴るとしよう。

 そもそも、あの孤島にいたとき、一度殴られてるのだし、殴り返したって文句は言えないはずだ。

 

――殴るな

 

 沸々と湧き上がった怒りは急激に収まり、脳に響く青妖精らしき声で、殴りたい衝動はきれいさっぱりなくなった。怒りで自然に握りしめていた拳を緩め、揺れる波で湿った服がべったりと張り付く感覚を一際強く感じる。

 

「提督、やっぱり仲間を失うって怖くて辛いことなんだよ」

 

「……だから、なんだ」

 

「だから、私は提督に死んでほしくなかったから殴った」

 

 殴った、というのは孤島にいた頃に俺が白露に殴られたときのものだろう。だが、それは白露が無謀な指示を出していい理由にはならない。

 

「それとこれと、なんの関係がある」

 

「関係あるよ。大ありだよ。仲間に沈んでほしくなかったら、一緒に戦うしかないじゃん。一緒に戦うんなら、まともな作戦じゃないとイヤじゃん」

 

 じゃあ、なんだ。いい作戦なら死んでもいい、とそう言いたいのか。悪い作戦なら更に被害が増えようと、自分勝手に指示を出してもいいのか。

 

「んなわけ。そもそもこの作戦に悪いなんてとこないだろ」

 

「いやいや、どう考えても、ねぇ?」

 

 なぜか呆れたように白露はイムヤに視線をずらし意見を求めた。そういえば、発案はイムヤなのだし、同意を求めるような口調はおかしい。

 イムヤは、んー、そうねぇ、とどこかこちらを気遣うような視線で一瞥した。なんか歯切れが悪いな。

 

「まぁ、言いたいことは分かるわ。指示は不明瞭だし不適切だし、擁護のしようもないわね。……それに、はっきり言うけど、今回は白露提督さえ生き残って戦ってくれれば、追い返せるし、逆に白露提督がいなくなると止めようがないから、囮が増えるのは良いことよ」

 

 おとり……?いや、意味は分かる。問題はなぜ必要なのか、だ。本来、囮なんて軽く口から出てしまうような言葉ではないはずだ。それこそどうしても必要なら、計画を練りに練って最小限の死をもって、最大限の成果を挙げなければならない。そうでなければ、そんな非人道的な作戦は遂行できるはずもない。

 だから囮が増えるのは全くもっていいものではない。だのに囮がたくさん必要というのは、それ相応の理由が必要である。理由があれば死ねるとはいえないが、理由なく死にたくはない。

 

――しかし、この感覚は人間らしい感覚であり、艦娘の感覚であることを忘れてはならない。

 

『前方第一護衛部隊、肉薄する!』

『第二護衛部隊、北上さんに続いて!』

『第三護衛部隊、死ぬ気で斬りかかるぜ!』

『後方部隊、阿武隈につづ、もぅ、みなさーんきいてくださーい』

 

 オオォ……!と腹の底を震わす声が俺たちの横から前へと通り過ぎていき、ワラワラと艦娘があの鯨へと一直線に進んで行く。

 艦娘とて馬鹿でも能無しでもないはずだ。それこそ、俺なんかより戦術は分かるだろう。だから、これが囮だというのは皆わかっているはずだ。なのに

 

「なんで……」

 

 自分でも気づかないほどに呟き、イムヤに目をやると、行くわよという一言で深い海へと潜っていった。続いて他の潜水艦も潜り、この場には白露と神州丸と俺が残った。

 

「提督」

 

 そう俺を呼んだ白露は、口を開いては閉じ、俺にかける言葉を探してるようだが見つからず、そのまま鯨の方へと向かい、神州丸も、何も言わずにフードを更に深く被って行ってしまった。

 はぁ、仕方ない。結局重要なのは俺であり、俺がいかなければ作戦の根幹が崩れる。つまり、俺はなるべく多くの艦娘を助けるために早くいかなければならない。死にたがりは死なせておけっていうのがポリシーだが、今回は仕方ないだろう。助けてくれと言われてしまったから。

 

 ちょっとづつスピードをあげて、砲撃の音がそこら中から聞こえるような場所まで近づくと、ジグザグに航行することにする。周りがそうしているし、そうしたほうがいいだろう。

 というか、なんか砲撃が聞こえる割には進みやすいなと思っていたが、どうやら潜水艦たちが魚雷で牽制してくれているようだ。俺の目の前には太平洋深海棲姫しかいない状態になっている。

 

「まずは一発!」

 

 構えて、標準を合わせて、妖精の声が聞こえたら撃つ。そうそれだけである。何度も頭の中で思い描いて、想像通りに構えて、大体の標準を合わせる。あとは妖精が調整して、OKが出たら引き金を引くだけだ。

 そう妖精が教えてくれるはずなのだ。前にイ級を仕留めたときだってそうだった。

 

「……え、あれ?」

 

 な、なんで。なんで妖精がここにいないんだ……?そういえば、最近、妖精をどこにも見かけたことがない。いなくなったというより、もしかして、俺が見えなくなったのか?そうだ、確かにここ最近はずっと妖精がいない。いつからだ?祭りの前?それとも榛名とここに来る前?キリサキに会う前?……どこだ?

 

 いや、そんなことより、今どうするか、である。妖精が見えないと言うことは、弾が撃てないということだ。え、やばくね?

 

 それに気づいた瞬間、目と鼻の先、いや、まつげに触れるくらいの距離に真っ黒な弾が飛来してきたのが目に映った。認識までには至らなかったが、同時に発生した爆発により、そもそも頭諸共吹き飛んだ。

 

―――――――――

分岐:作戦前大演習

――――――

 

 すっかり夜も深まり、いつもなら夕飯時な頃合いにスクリーンに映る戦闘は終わった。

 一日かけての戦闘。これを毎日やるというのだから、本当にどうかしていると思う。まぁ、ここまでしないと勝てないのかもしれないが。

 

「失礼するよ」

 

 ノックとともにノータイムで入ってきたのはα大尉だ。相変わらずの強面を少し渋くしている。つまりこわいかおである。

 

「え、なになになに、どうしたん、話聞こか?」

 

「あぁ、少々厄介でね。キリサキ中佐にはできる限りの戦力を揃えてほしい」

 

「え、そんなに?まぁ、分かったよ。1/2くらいならすぐに用意できると思うよ」

 

「すまない、感謝する」

 

 それだけ早口に伝えて、足早に去ってしまった。

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