補給途絶鎮守府   作:フユガスキ

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心を読むもの

 そういえば、艦の性別が女性だって話だが、神州丸はどうなのだろう。昨今、名前の性別らしさは薄れつつあるが、昔にあった概念からするとこの名前は女性らしくはない。

 

「それは、本艦には分かりません。色々な名前があったもので」

 

「あー、あの島にいたときそんなこと言ってたな。神州丸の提督がつけた偽名じゃなかったんだ」

 

「えぇ、まあ……」

 

 気のない返事が返される。神州丸の顔は見えないが、どこか遠くを見ている感じがする。まぁ、彼女が本当に生きた時代は随分と前のことなので思い出に耽っているのだろう。俺も懐かしく思う過去はあるにはあるが、思い出したくもないものである。

 

「提督殿の過去ですか」

 

「あっ」

 

 そっか、これも聞こえてるのか。いや、別に俺の過去と比べるまでもなく、神州丸の見てきたものの方が、人の数の分だけ経験があるわけで、辛い過去が多いに決まってる。小中学生のイジメなんて、一個一個取り上げたら他愛もないものばかりで、積み重ねの痛みである。

 

「って、これもか。もはや話す必要ないまであるな」

 

「……提督殿は嫌いですか」

 

「いや別に。便利だなぁとは思う」

 

「便利、ですか」

 

「あー、もっと利便性高めるなら、脳内に直接語りかけられるのか興味はあるな。喋らないで意思疎通って青妖精もやってたけど、まぁ便利だったし」

 

 小さいのが、ナイス太腿の意味深フード美少女に変わっただけだ。むしろ、上位互換まである。ただ、ntrされそうな見た目であるのが些か不安ではあるが。

 

「ntrですか……」

 

「それは知ってるっていう反応?どちらにせよ、割と失礼なこと言ってたから、そこは、本当に最低ですね、とかでいいんだぞ」

 

「はぁ……?」

 

 うーん、神州丸って性を知らないのか、それともntr程度では話にすらならない、ということなのか。

 というか、ntrって昔からある言葉なのか?概念自体はありそうだけど。もしくは前の鎮守府で知った説もあるな。

 

 などと不毛な思考をしていると、遠くに光が飛び上がるのが見えた。

 

「なんだあれ?」

 

「っ!!あれは照明弾。ということは、交戦中ですか」

 

 照明弾?あの光ってるやつって弾丸だったのか。って、そんなことより、交戦中だって?深海棲艦と艦娘が?

 

「ってことは、木曾達呼びに行ったほうがいいんじゃないか?」

 

「いえ、ここで戦ってるということは哨戒班の艦娘らです。それならすでに、島にいる彼の艦娘らの提督に通信が行き、あちらで判断していることでしょう。そこで本艦と提督殿がすべきことは――」

 

 話している途中で神州丸は話を止めて、耳に手を当て耳を澄ました。何事かと思って俺も静かにしていると、島の方が少し騒がしいのが分かる。

 

「これは……おそらく祭り、作戦前の景気づけの前夜祭といったところです」

 

「へぇ、そんなものが」

 

「はい、この祭りのために、普段より哨戒班が少ないのでしょう。ならば、無用の混乱を避けるために、適度に離れて機を伺うべきです」

 

 機って、何の機だろうか?もしかして、援護しに行くのか?機なんてそれぐらいしかないよな?

 いや待て待て、よく考えろ。まさか割って入って交戦するなんてありえないだろう。そうだ、そもそも組織的に動いている哨戒班に、どこの馬の骨だか分からない二人が紛れ込んだら、多少なりとも混乱するはずだ。交戦中なら尚更。

 だから、機ってのは援護のタイミングじゃないだろう。しかし、それ以外には考えられないしなぁ。逃げるなら今すぐ行けばいいし。

 

「戦闘は、避けるつもりです。ですが、敵戦力が判断つかない以上、無闇矢鱈に逃げるのは危険です。他の敵艦隊がいないともわからず、味方の作戦も知らず、通信が基地に届いているのかさえ不確定。動くにはリスクが高すぎます」

 

「お、おう」

 

「ですので、少々離れて、戦況を見てから動くのが吉だと、進言いたします」

 

 つまり、臨機応変ということか。まぁ、臨機応変なんて言われても俺には判断材料がないのでなんにも出来ないが、きっと神州丸が何とかしてくれるのだろう。

 おそらくこれも神州丸には聞こえているので、よろしく!という意を込めてサムズアップをして見せると、承知いたしました、と返事が返ってくる。便利だなぁ。

 

 しかし、判断材料が少ないのは不便だ。あの小島でもここでも、判断材料の少なさが、俺の状況把握を狭めている。島の方では状況が分からなすぎて、割と勝手に判断して、白露達艦娘の定石から外れた行動をしたため、俺にとっては正しいと思っていた考えと白露の行動が噛み合わなかった場面はとても多かった。と、今から思い返せば言えるが、あの頃は流石に生死がかかっていたので、自己判断が先行するのは仕方がないだろう。自分の身を最終的に守れるのは、自分だけなのだから。それに、俺の死と白露の死はほぼほぼ一致していたのも勝手な行動の原因かもしれない。

 対して、ここでは、小島のとき程の緊迫感はないが、小島と違って人数が多いため逆に組織としてのルールがある。ここでは、俺の行動がルールに抵触してしまった場合の混乱および招かれる犠牲が予測できないため、あまり目立つ行動は避けるべきである。触らぬ神に祟りなしだ。

 つまるところ、自分で判断できず他人に聞かなければ分からないのは、効率が悪いし的確かも判別できないので、好ましくはない。

 

「……幾ばくか疑問に思っていましたが、提督殿は聞き及んでいたものより思慮深いのですね」

 

「どこ情報か知らないが、分からないことだらけだから仕方ないな」

 

 流石に自分の死と直結する課題を怠けようとする者はいないだろう。楽観主義者ではあっても、それを理由にした横着者ではないのだ。

 

「あ、もしかして皮肉か?お前考えすぎてうるさいんだけど、みたいな。読心術ってのはこういう思考もノイズになるとすると、少々不便だな」

 

「いえ、皮肉なんてそんな……。提督殿の求めるものを即座に差し出すことが、艦娘としての務めですから」

 

「えぇ……、いつの間に俺、お坊ちゃまになったんだ?そんなに我儘なつもりないんだけどな……」

 

「あ、いえ、我儘と言いたいわけではないのです、決して。それは言葉の綾でして、えぇと……」

 

 あぁ、神州丸って、口下手なんだな。あと思い悩んでしまう性質もありそうだ。言い換えれば、言葉を真摯に受け止めているとも言えるが。

 しかし、心を読めるなら、俺は特に貶されたと思ってるわけでもなければ、意味もなく怒ってるわけでもないことぐらいわかると思うが、なんで言い訳を……いや、これ以上は俺のポリシーに反するか。

 俺のポリシー、まぁ、ポリシーと言えるほど固いものでもないが、相手の行動や性格に対して先入観を抱き、思い込みというレッテルを貼り、縛り付ける行為は、俺の嫌う行いである。かといって、何でもできるとか何にもできないとかのように、極端な考え方も結局、相手を縛り付けるレッテルにすぎない。そうではなく、なるべく、自身も他人も、自由であるべきなため、自分の思考の中に不自由な存在は入れるべきではない、ということである。

 つまり、神州丸が何を思おうと――何も思わないとしても――結果として、俺にその思いが伝わってしまったなら、それ以上は深読みである。

 

「お、おおお、想いなんて……!」

 

「わかりやすく狼狽えるなよ」

 

 ntrで狼狽しなかったのに……。もしかして、ntrになんの反応も示さなかったのは、知らなかったからか?

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