というか、意味が分からなくとも、ntrって連呼するのはセクハラか?最近のハラスメント事情は詳しくないが、セクシュアルというぐらいなので、性関係の話はやめておくべきだろう。
「――提督殿、気を引き締めてください。何か来ます」
お、マジか。
神州丸が見つめる方には黒い海が広がるばかりで、島の方の騒がしさとは真逆の静けさである。揺れる波はいつもと変わらず、予兆らしき予兆は一切感じられない。
今一度、12cmたんそーほーを握り直し、逃げる準備だけはしておく。
「あ、れ……ていと、く?」
掠れた声で息も絶え絶えに問いかけるのは、満足に航行もできないだろうと見受けられる川内だった。艤装の形は保っているが、内部でガラガラと音を立て、大きく破損していることが分かる。身体も火傷、皮下出血、内臓破裂、大きく削り取られた腹が直撃を意味している。
「通信、きれちゃ、って……戦艦の、棲姫と水鬼……ほかは、わからな」
ガフッ、ゲホッゲホッ、と血反吐を吐いて、川内は喋らなくなった。気絶って始めてみた……。
神州丸は川内を担いで、本艦は川内を曳航しますゆえ、提督殿は基地にいる他の提督に状況を伝達してください、と言い放って島へと一直線に走っていく。俺もあとに続く形で戻ることにする。
「戦艦の棲姫と水鬼が出たと伝えればいいのか?」
「えぇ、この地にはε大将殿が赴任していると聞いております。実力派ですので伝えればすぐに作戦を立てて頂けるでしょう」
ε大将の鎮守府は神州丸の元配属先だったため、信頼があるのだろう。そうでなくとも、大将にまで上り詰めるのだから、実力は言うまでもない。
神州丸と別れ港に到着し、防波堤を登って暗がりを走って行くと、近づくまで気が付かなかった人影を避けることができず、衝突してすっ転んだ。目を開けると高級そうな革の靴が見える。相手は転んでないようだ。
「あ、すいません」
「君は、θ中将の……奇遇だね。大丈夫だ、こちらに怪我はない」
「ホントにすいませんでした。では」
そう謝っていち早く基地に戻ろうとすると、おっと、と行く手を塞がれた。俺の十八番で躱せなかった……だと。ぼっちムーブに気づくとは、何奴!?
「特に海軍側ではないはずの君がそれほど急ぐということは、何かしらの脅威が出現したと考えられる。逃げるにせよ、戦うにせよ、君には対処しきれないから、助けを求めに来た……といったところかな。時間帯からしてもおかしくはない」
「え……」
何この人。俺のこと知り過ぎじゃない?ストーカー?そういえば、θ中将がなんとかと言ってた気がする。
「君はおそらくこのあと、結果的に死ぬか生きるかの窮地に立たされるだろう。その時には私が助けになれる。Mr.AKAGIという名を覚えておいてくれ給えよ」
それだけ言うと、口元に手を当てた男は去っていった。仮面を被っていたから口元かは定かじゃないけど。
さて、俺は先を急がなければならないので、少し心残りを覚えながら基地に行くと、一室だけ光の漏れた大部屋を見つけた。人がいればいるほどε大将のいる確率も高いので大部屋に飛び込むと、既にそこには海図を囲む男がずらりと並んでいた。とても既視感がある。
「貴様は、どこの艦娘だ。おい、誰か知らんが駆逐艦をこの部屋に連れ込むな」
「あ、申し訳ございません」
ちょっとちょっと、とα大尉は両手で押し出すような動作をして、俺が部屋の外に出るよう促した。
部屋を出て扉を半開きに閉めると、どうしたんですか、と少々大きな声で質問した。
「なんでそんな声……」
「まぁまぁ」
なんなのかよくわからないが、取り敢えず必要なことだけ伝える。戦艦の棲姫と水鬼が出現したこと。それを含む艦隊に哨戒班の一つが壊滅しかけてること。そして、通信が繋がらないこと。
「え?海域に戦艦棲姫と水鬼が!?」
わざとらしく驚いて、中に聞こえる程の大きな声をだす。なるほど、なんとなく俺も声量を大きくしたほうが良さそうだ。
「あぁ、ε大将ならばなんとかしてくれると聞いた」
「あ、それは言わなくて良かったんだけどね……」
チラッと部屋を確認すると、姫級だと?鬼もいるのか、などと大勢がどよめきたち、その中で、椅子に座り落ち着き払った態度で、周りとは異なる空気を醸し出す3人がいる。あのうちの誰かがε大将なのだろう。もしくは、どっかの海軍と同じく、赤青黄の大将なのかもしれない。
しかし、肩章を付けた本物の海軍が慌てふためき、立案した作戦を無に帰して一から考え直そうとするほどの敵とは、姫とか鬼とかというのはどれほどの危険度なのだろう。ネ級とは名付けが異なるため性質が違うのだろうと察せられるが、ネ級を超える脅威とは到底想像し難い。少なくとも単体の強さで言えば、ネ級はトップクラスだろう。名前から想像できるのは、姫は深海棲艦から守られるような存在で、鬼は……単純に強いのだろうか。というか、どちらも
さて、伝えることは伝えたし、神州丸のところに向かおうとしたところ、α大尉が、これよろしく、と囁いて俺に何かを握らせた。感触からして、紙切れのようだ。
手を開いて紙を開いてみると、小さい切れ端に更に小さい文字列が並んでいて、半開きの扉から差し込む光を頼りに読み取ろうとすると、α大尉が中に入って扉を閉めてしまった。この暗闇では読めないため、胸ポケットに入れて照明を探すことにする。
「っていうか、取り敢えず白露のとこに戻るか」
彼女らは今、3階の一番奥の部屋にいるはずだ。もしかしたら祭りの方に参加しているのかもしれないが、明るさのある場所も探しているので、白露たちが部屋にいれば一石二鳥である。
まぁ、照明だけならば、基地を出てすぐの灯りでどうとでもなるのだが、なんで、態々白露たちを探そうと思い立ったかというと、端的に述べれば川内の大破に起因する。
現状、予想され得るものの最悪は、海軍でも撃退しきれない程の戦力――それも物量に拠る攻め手だった場合である。島は八方塞がりになり、行く行くは消耗の末、逃避も許されず死に絶えることになるだろう。だから、さっさと逃げるのが吉だろう。では、最善の場合、哨戒班の艦娘の一隊を追い詰めた深海棲艦一個隊を、主戦力をもって撃滅することだろう。あの慌てようから、一個隊を迎撃するだけの艦娘を揃え難いと察せられるが、野放しともいかないはずなので何かしらの策を立てると考えられる。問題なのは、その作戦に川内程ではないとはいえ戦闘好きの神通が参加する可能性を有し、本当にしてしまったら目も当てられないということだ。木曽のときにも所在を確認されたことから、どこの艦娘なのかははっきりさせなければならず、勝手な行動をされると困るのだ。故に、どこに誰がいるのかの確認が必要なのである。
3Fと書かれた階まで階段で上がり、一定の間隔で置かれた窓から差す薄い月明かりを頼りに狭い廊下を歩いていき、行き止まりでドアを開けると、部屋の中にはキリサキ中佐と白露と神通が女子会を開いていた。女子会というにはあまりに空気が重いが。
スゥーっと音をたてずにドアを閉めようとすると、座っていたキリサキが必死の形相でドアに手をかけ、閉めようとする力に反発する様に万力の如くドアを止めた。そして、そのまま怯んだ俺の腕を掴み、中に引きずり込み、何故か若干枯れた声で言った。
「君、なんでTSの概念教えてないの……?」
「は?」
益々、この状況の意味が分からなくなった。