補給途絶鎮守府   作:フユガスキ

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参照【夢が叶うかも】
2年も前の話なので補足をば。
δ少将の朝潮が提督に睡眠薬を盛り、しばらくして目を覚ました提督は船の上で椅子に縛られている、といった状況です。前回は、その後に朝潮が解体されたり、深海棲艦を避けるため航路を反らしたり、しばらく港で休憩となった際にキリサキ中佐と出会ったり、また船に乗った後には榛名に拉致されて島に連れて行かれたりしました。


朝潮生存ルート

「やぁ、少尉くん、久しいね」

 

「おい、お前はまだ後だろう」

 

 椅子に座る俺の背面にいる男は入ってきた誰か――声からしてα中尉と予想される――を窘めた。何やら数度、会話を交えた後、男の方が退出したようだ。

 

「さて、早速で申し訳ないのだが、君には大変な役割を果たしてもらいたい」

 

 俺の背面から対面へと移動したα中尉は椅子の拘束を外して、俺の脇下を掴み上げて立たせた。

 

「流石に軽いね」

 

「いや、少なくとも30はあるぞ」

 

 栄養関係で同年代の平均よりかは軽いかもしれないが……って、そんなことはどうでもいいのだ。大変な役割って、え?なに?拉致監禁的な状況下でその言葉は、悪い予感しかしないのだが。

 

「君はこれから来る佐世保鎮守府の面々の指揮官補佐を任せたい。実務としては、彼女らがこの船の航路上に位置する深海棲艦隊の掃討にかかるから、その連絡係だ」

 

「佐世保……えっと、指揮官補佐ってことは指揮官はα中尉ということでいいのか?」

 

「いや、佐世保のところのλ大佐が執る。ちなみに、僕は中尉から大尉へと昇格したから、α大尉と呼んでくれないかい」

 

 大佐、というと俺は少尉だから5階級の差がある。佐世保の名を冠するということは、相当エリートな指揮官なのだろう。歴史的に有名な場所であるし。

 

「でもなんで、態々俺が指揮官補佐なんか……」

 

「不服かい?少尉という階級ならこれ以上ないほど重大な役割だと思うけど?」

 

「いや逆。裏の意味なしに大役過ぎるって話。どう見ても釣り合ってなさすぎるだろ」

 

 俺の肩書が一介の提督から佐世保鎮守府指揮官補佐に変わるということだ。字面からして只者じゃない。最早、キャリア積みまくってエリート街道まっしぐらのスタートラインまである。

 

「まぁ、連絡係としてどこにどういう形で配属されるかは、λ大佐から指示されるはずだから、そこで聞くといい。優しい人だけど、戦略を少しでも違えると元々ない信用をさらに地の底に落とすことになるから、気をつけたほうがいいだろう」

 

「言ってることはごく当たり前なのに、優しさがねぇ」

 

 右に舵を取れと指示されたのに左に舵を取れば、すなわち何かしらの危険とぶつかるわけで、戦略をこなすというのは、それ以外は危険であるという意味で前提なのだ。しかし、優しい人なら信用に値する人を起用するはずである。信用のない者が十中八九失敗して、最悪、艦隊全体を危険にさらして失墜するなど、意地が悪いと言わずして何だろうか。

 

「無論、結果を残せば正当に評価する人だし、もしかしたら、佐世保鎮守府末端の末端として採用されるかもしれない。君にとってはメリットのみだが、受けてくれるかい?」

 

 確かに、これ以下に下がるところはないためデメリットはゼロ。受けたほうがメリットが多いだろう。それに、見ず知らずの俺に仕事を任せるということは、失敗したところで大きな痛手にはならない仕事だということだ。気軽に受けていい役割だろう。

 

 任せろ、と伝えると、連絡を取るから艤装の準備をしてほしい、と頼まれた。どうやら、任命するのは決定事項だったようだ。ここを右に出て奥の突き当りを左に行くと甲板に出るから、そこに白露の艤装がおいてある、とのことだ。δ少将の指示に従って途中まで航路を選択し、佐世保艦隊と合流し次第、λ大佐へと指揮権限が移るらしい。

 α大尉と別れ右に進むとトイレがあったので手洗い済まし、言われた通りに甲板へと出る。

 

 甲板には朝潮と、顔を知らない2名の艦娘が既に艤装を準備していて、近くに白露の艤装が置いてある。

 

「ん、む?白露か?そろそろ出撃だ、気を引き締めろよ」

 

 ポニテの艦娘に、その服装どうした?提督服を着ているから提督が到着されたのかと思ったよ、と問われたので、えーまぁはい、そうっすね、と返答する。基本的に人見知りなので初対面の、特に異性ともなると会話ができない。もしかしてこれ、連絡係向いてないんじゃ?

 なんてことを思いつつ艤装を取り付けると、中から妖精が出てきて敬礼されたので、それっぽく敬礼してみて返すとまた艤装の中へと潜っていった。

 

「ね、あなたはどこの白露?私たちはδ提督だから、あなただけ所属が違うんだよね」

 

「あー、それは……」

 

 さっきの黒髪ポニテとは別の、白髮サイドテールに声をかけられた。

 しょ、所属?俺はどこ所属なのだろうか。提督ということは艦娘ではないので、どこの提督所属というわけでもない。俺を含め提督を統べる役職が存在するなら、そこになるだろう。だが、そんなものは知らされていないので、判らない。

 

「あ、由良さん。その方は白露なんですけど、白露じゃなくてですね」

 

 俺が困っていると、朝潮が助け舟を出してくれた。見た目はそうなんですけど、違くってですね、えーと、どこから説明すれば……となんとか説明しようと頑張っているが、うまく説明できず困っているようだ。説明できずに困惑する2名と、事情が分からず困惑する2名の図。うーん、地獄絵図。

 

「出撃準備が整ったようだな」

 

「あ、δ提督。全員敬礼!」

 

 黒ポニテの娘が号令を出すと、皆ビシッと寸分違わず敬礼をした。俺も一応敬礼しておくことにする。

 δ少将は手をかざすようにして黒ポニテの娘に合図をだすと、黒ポニテの娘が休んでよし、と言って敬礼を下げたので俺もそれに倣う。

 

 δ少将は、知っての通り、と前置きしてから、航路について悉に解説し始めた。といっても、内容は殆どわからず、取り敢えず、途中に一つ島があるから、そこまで北上したら真西に進んでほしいとのことだった。合流ポイントはその先にある泊地で、そこからはλ大佐が司令官となって指揮するらしい。

 

「では、ご武運を、少尉」

 

「あ、はい」

 

 急に話を振ってきたδ少将に驚きつつ、返事をする。すると、黒ポニテと白サイドテールこと由良は、δ少将の前ということもあって体裁は保ったものの、えっ、と声が漏れ出た。

 

「なんだ、知らなかったのか」

 

「えぇ、はい」

 

「水雷戦隊の旗艦は白露こと少尉の彼に任された。矢矧、サポートしてやれ」

 

「はっ」

 

 黒ポニテこと矢矧はこちらを一瞥して若干不満な面持ちを残しつつ、甲板から海へと飛び降りた。続いて由良、朝潮と順に飛び降りるので、俺も続く。

 

 海に着水すると、妖精が何やら点と線が刻まれた紙を差し出した。おそらくモールス信号というものだが、読めはしない。

 矢矧に紙を渡して解読を頼むと、数秒もかからず難なく読み取った矢矧はδ少将からの伝言だと言った。

 

「水雷戦隊、出撃せよ、とのことです」

 

「なるほど?返信したほうがいいのか?それ」

 

 多分それ、甲板から飛び降りる前にかっこ良くキメるべき言葉だと思うんだけど、矢矧が颯爽と飛び降りたせいで言う機会を逃したのだろう。だからといって、紙媒体で伝える意味は大してないはずだが、態々伝えてきたということは、なにか理由があるのだろう。おそらく、通信に不備がないかの確認だと思われる。

 

「というか、正直この機能初耳なんだけど、どう返信するんだ?妖精に頼めば送ってくれるのか?」

 

「勿論、送る際は妖精さんが翻訳してくださるので、普段通りに話すだけでよろしいかと」

 

 なるほど、と頷いて、妖精に、承知しましたと伝えてくれ、と頼むと敬礼して艤装の中へと潜っていった。了解したということでいいのだろうか。

 

「では、そろそろ行きましょうか」

 

「あ、はい。すみません」

 

 どうやら待たせてしまったらしい。いつもなら矢矧たちはもう少し円滑に確認作業を済ましているのだろう。謝ってすぐに出発する。目指すは北である。

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