俺達は第一到達ポイントに到着した後、なんやかんやあって第二到達ポイントを目指し出航した。
なんやかんやというのは、島で小休憩をしていた際に、同じ方向に行くから同行するとかいう時雨という艦娘が、艦隊に加わったとか、少し話したとか特筆することのないものである。強いて言えば、矢矧と妙に仲がいいので、旧知の仲なのだろう。
時雨とはトイレから出た時に初顔合わせをしたのだが、時雨は何やら俺を白露だと勘違いしていたようで、男子トイレから出てきたことに驚いていた。肉体の機能的には、どちらのトイレでも構わないのだが、今度からは女子トイレに入ることにしよう。
まぁ、トイレから出てきたにしてはファーストインプレッションはそこそこ良好で、先までの無言の矢矧たちとは打って変わって、話題に尽きない。
「いやまさか、黒露が提督だったとは……」
「くろつゆ?」
「あ、いや?なんでもないよ」
出撃から今まで、懇切丁寧に俺が白露でないことを説明して、逆に作戦内容について説明されて、今に至る。説明によると、前回のように急に置いてけぼりにされることはなく、時雨の後ろにぴったりついて行くことで戦闘に参加することになるらしい。
「でもその形式でやるには、俺の練度不足が否めないというか、正直ついて行ける気がしないけど……」
「そうだね。艦娘だと思っていたから問題なかったけど、提督となると、ちょっとね」
時雨もそこは懸念点らしい。一人にするよりは、というだけで時雨の戦力を大きく下げることには変わりない。
ただ、予定では残り2戦のどちらも空母が含まれておらず、制空権を取られることもないため、多分大丈夫と言われた。
「それに僕は海軍唯一の第三改装に到達した艦娘だ。護って、みせるさ……」
そう言って拳を固める。もしかして何か因縁があるのだろうか。知ったことではないが、地雷を踏みかねないので気になる……。
いや、それより、第三改装だ。私とても気になります。
そもそも俺の知っている改装というものは、白露に施した際に改になってそこそこ能力が上がるものをいう、という認識だ。おそらく他の艦娘にも施すことができて、それぞれ能力が上がるのだろう。
例えばそれを第一改装と名付けると、第二第三と続くのは不自然ではない。むしろ自然だ。何なら、分かりやすく強くなるもの、覚醒だとか変形だとかは唆るものがある。
「なぁ、第三改装ってなんだ?」
「あぁ、そうか。海軍に入ってすぐ島に行ったから知らないのか。……そうだなぁ。改は知ってる?」
もちろん知っている。赤、青、橙、黄の四種の光を飛ばす事によって、不思議パワーで強くなるものだ。今は白露のみだが、練度が高まれば川内や神通も改になるだろう。
「そっか、じゃあその先に改二があることは?」
「いや、知らない」
「じゃあ、そこからだね」
そう言うと時雨は矢矧を指差しながら、解説を始めた。
まず、改二も改三も、効力自体は改とほぼ等しいものであるらしい。ただ、改はまだしも、改二以降に改装できないとされる艦娘は未だ多く、改三に至っては時雨のみに許された改装なのだとか。また、改二とは明記されないが、名前が変わることで改二と同等の力を得る艦娘もいるらしい。
また改二は改の完全上位互換であり、その強さは駆逐艦が戦艦に匹敵することもあるほどだという。白露が改になったところで神通には及ばないことを踏まえると、その強化度合いが伺える。
ただ、その莫大な上がり幅に対応できるようにするため、改二に至るには高い練度が要求される。
そして、改二固有の改装としてコンバート改装がある。甲乙丙丁などの記号で分類されていて、特化する能力を選択することができる艦娘もいるらしい。特に、矢矧で言えば、今は改二乙だが、改二の状態に戻ることも可能だとか。正直、何に特化しようと艦種の域を出ないのなら、コンバートの意味を見出だせない。多重変形には多少憧れるけれども。
「なるほど……白露は改二に改装できるのか?」
「出来るよ。コンバートは発見されてないけどね」
おぉ、それはちょっと気になるな。改のときには身長が少し伸びる程度だったから、改二も身長が伸びるだけかもしれないが。
「白露の改二はどうだったかな……。確か、笛を――」
「――っおい!ちょい待て待て!ネタバレは禁止だ」
白露改二をネタバレしようとした時雨を止める。俺はネタバレには厳しいんだ。
すると時雨は、そう……と言ってネタバレを諦めて、僕も改二のときは少し妬んでいたものだよ、と胸を手で抑えた。マジか。まだ膨らむのか……って、ネタバレじゃないか。
「おぃ……」
「……」
ツッコもうとすると時雨は海の彼方を見て、物思いに耽ってる素振りを見せていた。え、何。そんなにデカいの?
邪なことを考えながら微笑む時雨を見つめていると、満足行くまで耽ったのか俺と目があった。
「……あぁ、いや、三年ほど前にね。矢矧も僕も所属は違えど生まれはキリサキ元帥だから、経過観察対象だった白露と一年ほど同じ鎮守府にいたことがあったんだよ。それを、ちょっと思い出してね」
感傷に浸っているのか、涙を隠すようにして微笑んでいる。言葉は支離滅裂ながら、補える範囲だ。
3年前、というと何かとつけて青妖精や白露が口にしていた、妖精消失事件のことだろう。妖精が労働環境を気に入らずストライキを起こしたというものだ。
その余波が一部の艦娘にも影響したことは白露から聞かされていたが、時雨が話したのはおそらくそのことだろう。
となると、経過観察が必要ということはその事件に関わっているということだろうか。例えば、扇動、または被害者で更生の余地があると判断されたのかもしれない。まぁ、詳しい経緯は知らないので、想像の範疇を超えないが。
「あぁ、妖精消失事件とかいうのだっけか?」
「そうだけど、あまり口に出すのは良くないね。僕たち艦娘は大して気にしていないのだけど、提督たちの間では禁句のようなものだから」
えぇ……。名前を呼んではいけないあの人みたいな存在なのか……。
「それで話を戻すけど……提督は白露改二を見たいのかい?」
見たい、とは思っている。多重変形に興味はあるし、単純に強くなるならリスクが減る。あと笛が何なのかとか、胸がデカいとかいう情報に、なんていうか……その…下品なんですが…フフ……勃起するものはないけど、気になる。
正直、俺は今のサイズがちょうどいいというか、これ以上増えると重そうという意味で増えてほしくないのだが、それを差し引けばデカさはメリットしかないわけで。……服?艦娘って自前で用意するじゃん。
などという胸談議は置いておいて、何にしても改二は目指すべきだ。特にうちは少数の艦娘しかいないため、重要度は高い。
「もちのろん」
「……そっか。じゃあ、沈ませちゃ、だめだね」
「ん?あぁ……」
そりゃまぁ、本末転倒だし……。