艤装の力によって軽々と運ばれる男は、こちらを鋭く睨む。別に睨まれて一歩引いたわけではなく、その背後に持つ年齢に応じない威圧感、気迫からなるものだった。
一歩ずつ重々しく進み、やがて波が足首を通るところまで来たときに、茶髪の娘はその男を波に叩きつけた。
「―ッ何するのさ、デンちゃん」
「まず、迷惑をかけた場合、上司が謝る。そう電達に教えたのはてめぇなのです。そんなとこでボサッとしてないでさっさとワビ入れるのです」
なかなか口調が定まらない娘が、今まで威厳を放っていた男に向かってキレている。あれが標準なのかはわからないため、一概には言えないが周りから見ればキレている。
「匿っていただき感謝します。よければ、白露さんお二方をもとの鎮守府にお送りいたします」
海面に頭をつけて土下座している。分かる、分かるぞその恐さ。全くわからないけど。とはいえ、緊張は解れ、やっと俺の喋る番が回ってきた。ベストタイムである。
「えーと、顔を上げてください。叢雲なら今は寝ているはずです」
いや無理だよ。土下座すら完璧だ。できるのはここに来た目的を果たさせるだけ。失礼のないようにという前世で磨き上げた気遣いをして、いつもの場所に案内をする。
「叢雲ちゃん!」
そう言って黒髪の娘は走って叢雲の近くに寄る。それと交代するように青妖精が頭の上に乗った。
『なんで、彼女の提督をここに呼んできた?大破させたんだよ、あの人間は。これじゃあ彼女のためにならない』
「叢雲のため云々は知らないが、帰るかどうかは叢雲が決めることだろう。帰らないって言い張ったら手伝うさ」
戦闘系アニメでよく使われていたセリフ、トップ何位かぐらいに入る。しかし、別に残って欲しいわけでも帰って欲しいわけでもない。
強いて言うなら叢雲が決めればいいというだけで、他には特にない。
「んぅ…?吹雪?まだ眠い…」
奥の方で感動的な再会をしている。片方は泣いているがもう片方は半分寝ている。完徹してたから仕方ないだろう。
「大切な仲間を助けていただいてありがとうなのです。…申し遅れたのですが、秘書艦の電なのです。お見苦しいところをお見せしたのです。ごめんなさいなのです」
イナズマって…患者か?年齢的には中学生には見えない。こんな幼い子を…って船のイメージだったな。
「そうか、僕もだな。α中尉だよろしく頼む」
中尉かよ!確かに階級は上だけれども、大佐とか中将とかそのぐらいの方だと勝手に思ってた。そのα中尉が指を指した。
「それで、あの白い服は誰のものかな?」
「あーあれは、俺のですね」
「「えっ」」
はいはい、分かってましたよ。どうせこの一人称だと驚かれることぐらい。
「じゃあ、君が少尉くんかい?」
「いや、それよりも俺って何だったのです?!」
「そのとおりです」
「えっ電が間違ってるのですか?この流れは電がおかしいのですか?!」
うるさく喋ってる電はスルーしました。いちいち同じ説明をするのは面倒だからである。どうせ後で質問されるため一回で答えたい。
「渡りに船だな」
えっちょっと待って聞こえない。なんて言った?
「申し訳ない、先の話はなしだ。けど、君とは友好な関係を築きたい。どうせここはほとんど誰も来れない、階級などという堅苦しいものはなしだ。よろしく、少尉くん」
えっと、えっと、えっと、えっと、えっと。
「えっと?」