補給途絶鎮守府   作:フユガスキ

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今回でいっちばーんシリーズになったθ中将とη少将の話です。


いっちばーん(3)

これは妖精が鎮守府から消える事件がおきて2年後のθ中将とη少将、そしてζ大将の話である。

――――――――――――――――――――――――

「はぁ…」

 

η中将が少将になってから一年、ようやく諸々の書類をまとめ日常に戻りつつある。終わってみれば雨垂れ石を穿つ感じだ。一年前は全くと言っていいほど終わりは見えなかった。

 

年齢も40を来年迎える。周りからはよく老けて見えると言われているため、なかなか複雑だ。η少将はそういう意味では一歳差にも関わらず30前半に見られるのだから羨ましい。

 

「…寝るか」

 

時計は27時を回った。5時にはここで執務を執り始めるため、後2時間程寝るらしい。この歳だと体を壊さないか心配が出てくる。

 

どれもこれも妖精が消えた鎮守府があったせいで、η少将の研究が水の泡になったからだ。今さら愚痴を言っても後の祭りだが。

 

執務室の隣にある私室の高給感溢れるベッドに―ではなく近くのソファーに寝転ぶ。ああいうのを使うのは田舎出にはしっくりと来ない。

 

それに、2時間であれば仮眠のようなものだ。こちらのがもってこいだろう。

 

そして、4:30頃電話が鳴った。館内電話かと思って壁にかけられた受話器を見るも、なっている様子はない。どうやら、携帯電話が鳴っているようだ。

 

《θ中将か!俺は》

 

うるさい声がしたため、一度耳から携帯電話を離す。この声でだいたい予想ができた、ζ大将閣下である。

 

《夜分遅くにどうなされました。閣下》

 

《なに、そう堅くなるな。業務時間外だろう》

 

《いえ、そういうわけには…》

 

《ははは、まあよい。あの件だかな、ようやっと通ったぞ》

 

《それは、本当ですか!》

 

《それで、今日の夜頃、伺おうと思うのだがどうだ?》

 

《承知致しました。では失礼します》

 

「…よしっ」

 

あの件―特例提督の登用、それが可決した。特例提督とは妖精とコミュニケーションのとれる者に尉官を与え、その地位でありながら艦隊を指揮できるという特例によってなった提督のことである。

 

なぜそこまでの特例が出されるかというと、戦術·戦法を学んで成り上がった将官などと、同等の働きができるという理由からだ。

 

深海棲艦に対抗できるのは艦娘だけであり、その建造には妖精が必要である。妖精を知らなければ失敗することもある建造を、完璧にできる人材がいれば即戦力になる。

 

とはいえ、彼らを面白くないと思う者も多い。そのため基本彼らは左遷され、満足な兵力がないまま前線へと駆り出される。

 

そして今回、同じ派閥―完全勝利派及び有力者への特例提督の配属が決定した。部下という扱いになるため、管理責任者は上司になり、艦娘達との情報共有もしなければならない。

 

細かいことは今日の夜に分かるだろう。目が覚めてしまったため、執務室へ向かう。ポーラや那智を呼んで酒を選ばないといけないだろう、今日は哨戒を優先的にすべきでもある。

 

「おっ提督ぅ、おっそーい」

 

置き時計の針はまだ5時を指していない。

 

「今日は忙しくなる。まずは大掃除だ」

 

艦娘達にそれぞれ任務を与え、反応は様々。哨戒が多いことに不満を言っていたり、掃除担当に愚痴を言ったりと。

 

「解散ッ」

 

号令をかけ、艦娘達はぞろぞろと動き出す。

 

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―――――――――

 

夜になった。最初は艦娘全員に敬礼させるつもりだったが、ζ大将閣下のご意向により秘書艦の島風のみで出迎える。

 

「よう、θ中将。久方ぶりだな」

 

豪快に笑いながら歩いてくる。秘書艦はビスマルクらしい。190台の身長という巨駆と、高齢でありながら尚衰えない筋肉。かつて深海棲艦を退けた武勇は有名である。

 

「おお!これは懐かしいな、お前の親とよく飲んでおった」

 

父親に聞いたことのある日本酒である。見つけるのに手間取ったが、そういう意味だとこの地位は素晴らしい。

 

「…秘書艦殿、席を外してもらえますかな」

 

「島風、ζ閣下秘書艦の案内を頼む」

 

私室に残ったのは二人。時間がないため先の話を進める。

 

「それで、どうなりましたか」

 

「焦るな、まずは乾杯だ」

 

酒瓶をとり盃に注ぎ、少し上げてから飲み干す。

 

「ふぅ…電話で伝えた通り、なかなか大本営の奴らを説得するには時間がかかったが、好ましい形になったはずだ」

 

「ありがとうございます。して、どのように?」

 

「詳細は後に送られてくる。簡単に言えば、短期間の教育プログラムだな。特例の奴らの経験を少し積ませるってだけだ。その間はこき使えってこった」

 

「ふむ」

 

「ただそんだけだ。…あとはそろそろ席を譲らねぇといけねぇな」

 

「…そう、ですか」

 

「そういえばな、お前のじっちゃんと俺の親はな、あのビックセブンの陸奥に乗ってたんだ。この酒もそれがもとでな…」

 

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―――――――――

 

「じゃあそろそろ、だな」

 

「まだ、一献残っていますが」

 

「そうだな、…写真撮ってくれ」

 

戸棚に仕舞っていたカメラを取り出し、ζ大将の写真を撮る。

 

「たつ鳥あとを濁さない、ってな」

 

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―――――――――

 

無事帰宅してトイレにこもる。60台ともなると、少しばかり尿意の間隔が早くなる。

 

「来るのは分かっておったよ、ミスタークレイジー」

 

「残念、私は女の性を持って生まれました」

 

変声器か。そしたら、この部屋の録音は意味がなさそうだ。

 

「うちには防犯カメラがあるが?」

 

「そんな生易しくはないですがね」

 

きっとそちらも覆面か何かでスルーしたのだろう。

 

「貴様は武神の名を知っておるか?」

 

「ええ、試製51cm連装砲も準備万端です」

 

毒を盛られても死なず、深海棲艦の軽巡ホ級の攻撃にも耐えた。とはいえ軽巡、戦艦の砲撃は喰らったことがない。まず手を横に広げる。敵は背面から撃つだけの姿勢。

 

「さあ、撃ってみよ。この老躯が武神だ」

 

「…」

 

―――――――――

――――――

 

「ご機嫌麗しゅう、θ中将」

 

「止めろ、恩師の前だぞ」

 

トイレで見つかった木っ端微塵の体が、ここに埋葬された。写真は亡くなる前の数時間に撮ったもの。ζ大将―恩師の家族は亡くなっているため、親族はここにいない。

 

ζ大将を知るものが集まり、この葬儀を開いた。人数は多く、悲しむ人懐かしむ人様々だが、不思議と暗くはない。どちらかといえば明るい。きっとζ大将の人柄だろう。

 

「俺がヘマしなければ、まだ生きてたのかもしれないな」

 

「η少将が、珍しい」

 

机に座り盃を3つ用意する。

 

「なかなかキザなことをするようになったな」

 

「恩師の願いだ」

 

あの夜の残った一献。それを注ぎ、それぞれ杯を持つ。

 

「音頭はどうする?」

 

「恩師に、でいいだろう」

 

「いや、そうだな。兄ちゃんに、でどうだ」

 

「そうしよう」

 

昔を思い出す響きだ。海の近くで毎日のように汗水垂らしながら、街中を駆け回ったり船の極意なる物を教わったり。

 

「兄ちゃんに」

 

「兄貴に」

 

「「乾杯」」

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