あたり一面に広がる暗闇。月の光が海面に当たった結果、乱反射している。だから、そこに海面があると分かるが、暗闇のせいで足場がない気がするという、なんとも奇妙な感じだ。
今夜はおそらく晴天である。月も随分と明るく見えている。その光の中、妖精らは歌を歌っている。俺も寂しさがなくなり、心地が良い。
「おっと」
航行が急に止まり驚いた。よく目を凝らすとそこには絶壁がそびえ立っていた。どうやら崖の下のようだ。ここは潮の流れの影響で魚がいるので、よく使っていた。
艤装を取り外し、陸に上がる。すると、少しばかり異臭がすることに気づいた。まるで、鉄製のもので感じるような臭い。ここに鉄らしき鉄がないのを踏まえると。
「血か?」
思い当たるのは艦娘らである。彼女らも元は船だし、そんな匂いがしてもおかしくないのだが、叢雲が流れ着いていたときの体には血が流れていたようだったので、血の臭いで間違いない、と思う。
「ここにいるってことは、終わったのか」
怪我をしているだろうことは分かるが、ここが平和なことにホッとする。
「―――ッ」
後ろに気配がいた。もちろん、こうも暗いと数分おきぐらいに振り返ったりするのだが、今回は違う。とても、憎たらしいのが後ろにいたのだ。
振り返った先――正確にはほんの5メートルほどの場所に何かがいた。銃口のようなものは光り、この暗闇の中でもなおわかる白い体。白いのが見えているのは上半身だけである。
マジの幽霊を見てしまった。そう思っていた時期も俺にあった。
『ホ級だ!逃げろ!』
青妖精の声が聞こえ、頭の血が引くように冷え冴える。実際には恐さで血が引いて、人間的に白い肌が青白くなっているだろう。
に、逃げ…れない。足が笑っている。腰がはずれている。目が引き寄せられている。自分の意思で動かない。違う、自分の意思はない。すべて、目の前のモノでうまっている。
「よくも、やってくれたわねっ」
何かが動いた気がした。その瞬間、奪われていた意識が戻ってきた。あれは誰の声だ。聞き慣れない声があったと思う。情報が整理できない。
時系列で並べよう。軽巡ホ級が現れ、俺が動けなくなり、ホ級の左側に爆発が起き、誰かの声が聞こえた。記憶を辿り声の主を探す。そう、あれは
「叢雲!」
「そっちにいるのは2号ね。アンタ、そこを動くんじゃないわよ」
動けと言われても無理だったので、ちょうどよかった。その後も近くで爆発が見え隠れした。時間が経つにつれて、今やるべきことを考えるようになった。
そう、この鉄の匂いの正体である。真っ暗で周りはあまりよく分からない。
「妖精、ここらへんに白露はいないのか?」
『まだ、見つけてない。提督の艤装を使わせてほしい。白露さんを見つけてくる』
「おう、頼んだ」
ひとまず、ここらへんに白露はいないことが分かった。そして、俺は花火のような、それでも花火と似ても似つかない爆発を眺めることにした。