ノックの音が聞こえ、扉が開きかの道化が入ってくる。
僕は椅子から立ち上がり、敬礼をして迎え入れる。わざとらしく驚き、向かいの椅子に座る。僕も座る。
「悪いねα少尉、加賀は君のことをあまり好いていないようだ。加賀も、相手はいくら階級が下と言っても司令官としての資格を持っている」
加賀のサイドテールがしゅんと下がる。
表情が変わらないのに髪が動くってどうなってる。そして、彼女は何処かにいそいそと消えていった。
「……さて、まずはη鎮守府へようこそ。君はここで一ヶ月の研修期間が用意されている。だが、今この島では非戦闘中にしている。ただでさえ実戦がないのに、2日後、俺は本国に帰るからそこから数えて…およそ2週間ほどこの島にいない。つまり、研修は2週間で終わらせなければならない」
「それは、もしかして、ζ大将の百か日でしょうか」
そう、大将という大物が死んでからちょうど100日目となる。彼は武神として名を馳せ、また大の酒好きとも聞いている。
その神とη少将が繋がっていたっておかしくない。そう考えただけである。
「!…そうか、そうか。うむ、いいだろう。こんな茶しか出せなかったが容赦してくれ、それと客室を用意しておいた。大淀に案内させよう」
何かが分かったらしく早口で話す。怖えよ。何がわかったんですかね。
すると、η少将はスクッと立ち上がり早足で外に出ていく。数分経つと今度は赤城の声が聞こえた。ただし、機械的な音で。
《艦娘の呼び出しをします。軽巡洋艦大淀、直ちに執務室にお越しください》
これ、絶対にη少将が考えましたね。面白そうだからやれって赤城に言って、赤城は仕方ないですねみたいな感じでやってしまう。
おそらく元は迷子センターだと思う。
そして、その放送の数分後、慌てた様子で大淀が部屋に入って来た。なぜかスス汚れている。
「はぁ、はぁ。お、遅れました。では部屋に向かいますね。ついてきてください」
残りの茶を飲み干し、大淀を追いかける。
彼女は黒くなった軍手に鍵を握り、作業に集中していたのか服に黄色いテープがついている。
あるドアの前で立ち止まり、鍵を鍵穴に差し込み、ドアを開ける。その中はとても殺風景で、椅子も机もない。ただの四角い空間である。
「まだ荷物を運び入れてないので、もう少し待っていてください。一応、鍵は渡しておきます」
銀色に輝く鍵。鍵付きの部屋とはまた豪華な部屋をもらったものだと思う。内装は……これからでいいだろう。
運ばれるのをこの部屋で待っていようかと思ったが、そこで大淀が魅力的な提案をした。
「どうです?一緒に練習の様子を見に行きませんか?…あっ無理にとは言いません、今は何もできませんから少しでも艦娘のことを知っておいたほうが研修の目標を達成出来るのでは、と思いまして」
真面目だなぁ。
大淀らしい発言だと思う。まあ、ここの空母の戦績は優秀で、海軍内でもひと目置かれる彼女たちだ。見ておいて得しかない。
「ありがとうございます。どこでやっていますか?」
「案内します」
テクテクと大淀は歩いていく。僕もその後ろをついていく。ようやく、ようやく提督になったのだ。
「艦娘を代表して、これから一ヶ月楽しんでいきましょう」
その笑う姿はとても嬉しそうだった。