「電です。どうか、よろしくお願いいたします」
先輩の戦艦級の方たちの艦隊を抜けて、電を初期艦として選んでくれた司令官さんに挨拶をする。
怖い人だとイヤだなぁ、と思っていたが優しそうな人で良かった。
だけど、背が高くて、α司令官さんの顔を見ていると首が痛くなる。
「うん。よろしくデンちゃん」
あれ?今おかしかったのです。
電はちゃんといなづまと名乗ったはずなのに、α司令官さんはデンと呼んでいる。
つまりきっと何かの手違えで、後ろに人が……いないのです。
ということは、まさか自分のことだろうか。
「……はにゃ?!」
……もしかして、頭が弱い人なのだろうか。
いやいや、司令官さんなのだし、そんなことはないだろう。
しかも、テートクカッコカリに選ばれた人なのだし、適当な人ではないと思う。
「あ、あの…α司令官さんがそう呼びたいのなら、それで良いのです」
別にイヤな名前ではない。電の名前は確かにデンとも読むことができる。
ただ、やっぱり自分にはいなづまと言う名前があるのだから、そちらで読んで欲しかった。
「ほ、ほら、こう、信頼の証?みたいな?信用してるよって伝えたかったみたいな?」
信頼。
あだ名で呼ぶことは、信用になるらしい。きっと、α司令官さんにとってはあだ名は愛称となるのだと思う。
初対面で信用されるのは嬉しい。だけど、こちらが愛称で呼べるわけではないのが、悲しい。
「そう、なのですか」
自分は悲しくても、相手が信用してくれるのならば、感謝を伝えなくてはならない。
「ありがとう…なのです」
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今、電はα司令官さんの部屋にいる。テートクカッコカリ特有の私室兼執務室である。
意外、と言ってはダメなのだろうが、意外と和室の部屋である。
部屋は一人で住むには広く、二人だとちょうどいいぐらいだろうか。およそ一般的なテートクカッコカリに用意される部屋サイズである。
少し歪に感じるのは部屋の高さだろう。普通、和室といったら天井が低いイメージだが、ここは結構高い。
艦娘寮とは別棟のため、少し高めに作ることができたのだろう、と予想する。
「デン……電ちゃんはさ、姉妹艦とかと同じ部屋のほうがいいよね」
何を変なことを言っているのだろう。
あくまで電はα司令官さんの艦娘だ。他の鎮守府の艦娘と同じ部屋になれないのは普通のことだし、雷ちゃんや暁ちゃん、響ちゃんに会えないのは仕方ないことだ。
もちろん、会いたいことに変わりはないので建造して欲しい。
「い、いえ。電はα司令官さんの秘書艦なのです。最初のうちはここにいさせて欲しいのです」
α司令官さんの秘書艦として、まだここにいたい。
駆逐艦というのは、使われるのは最初の頃だけである。
夕立ちゃんや綾波ちゃんといった艦娘もいるけど、電のような改二を持っていない艦娘は戦場に立つ権利すら与えられない。
だから、まだ活躍できる時に御国の為になれるのなら、そちらの方が良い。そして願わくば電の希望を叶えて欲しい。
「いや、でも――」
「だめ、ですか?」
α司令官さんは後ろにズルズルと下がる。一体、どうしたのだろうか。
と、思っていたら、座布団を取り出して机のそばに置いてくれた。座れ、ということである。
何をするのかと思いきや、大量の書類を取り出して5:3ぐらいに分けて3の方を渡してくる。
執務の開始のようだ。
電達のような初期艦は、テートクカッコカリに執務の仕方について教えるのが役目だ。
まずは最重要とも言える役目をこなすことにする。
フンスと気合を入れ、α司令官さんの方を見ると手慣れたように報告書の誤字脱字の確認や、食材や日用品関係の値段を計算機ではじく。
「ちょ、ちょっと見せてもらうのですっ」
そう言って済ましてある書類を確認する。
見たところ、添削に間違いはないし、計算し直しても数は合っている。
……電は要らない娘なのですか?
「う、嘘です…。あり得ないのです…」
「なにか不備があったのかい?」
「そんなことはないのです!」
咄嗟にそう叫んでしまった。
α司令官さんは驚いてペンを落としてしまうし、電も不安から大きな声を出してしまうし、恥ずかしい。
α司令官さんから疑惑の目が向けられた。
不安だったから、とは言い難いので他の理由を探す。
「ぁ、違うのです。α司令官さんは悪くないのです。本当は電が説明を任されていましたが、α司令官さんは簡単にこなしていて、すごいのです」
電は今、自分に嘘をついてしまった。
不安であるのに、それを押し潰して、相手を褒める。
ここに来る前に先輩の艦娘が、すごい、と褒めれば電ぐらいの歳であれば、なんとかなると言っていたとおりだった。
不安というものが自分の中から隠すことができた。
そして、その後も何ということなく時間が過ぎ、電も頑張って書いたがα司令官さんのほうが早く、α司令官さんは電が部類分けしていた書類を適当に持っていく。
ちょっとそれのせいで電の仕事は遅れてしまったが、結果的にα司令官さんに手伝ってもらったほうが早かった。
今は夜の22時ごろで、そろそろ眠くなってきた。
「そろそろ終わるかい?」
声をかけられてα司令官さんの方を見ると、あと十数枚あった。
「いえ、電も手伝うのです」
「でも、眠いんじゃ…」
ウトウトして、口数が減っている自覚はあるが、α司令官さんより先に眠るわけにはいかない。
その決意とともに日付を越え、26時になる頃、予想以上に難しかった紙という敵を倒し、昼頃に届いた布団を広げる。
そして、α司令官さんと同じ向きに枕を置くと、倒れるように意識を手放した。
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やっと自分とα司令官さんの適切な仕事量が分かった頃には2週間が過ぎ、ここの司令長官であるη少将がη鎮守府へ来る目処がたった。