補給途絶鎮守府   作:フユガスキ

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α提督の過去編です。


二章過去編
ヤタのカガミ


――君は妖精が見えるそうだね――

 

 ある高校の近くの公園で、放課後にブランコ付近でワクドナルドで買ったジュースを飲んでいた。

 その時、コートを羽織ったおっさんにそんなことを言われた。

 

 まだ、同じ高校の友達と一緒にいたので、そいつにとってはおっさんがただの物好きに見えたのだろう。

 

「そーなんスよ。こいつ昔っからそんなことを言うんスよ」

 

 誰が言ったでもないのに、友達のことをべらべらと喋り始める。昔っからこいつはそんなやつだ。

 小っ恥ずかしいことも全部言う。

 

「そうか、貴重な話だが君には話を求めていない。私が求めているの君の方だ」

 

 ガタイの良いおっさんが手のひらを向けてくる。

 持っていた鞄を下ろして、周りをキョロキョロする。探しているのはあのふわふわした謎のもの。

 

 呼称として僕はサブリミナルを使っている。人形のようなもの―サブリミナルを見つけ、おっさんの前に持ち上げる。

 

「あんたもこれが見えんのか?」

 

「その通りだ」

 

 にわかに信じ難い。

 僕が持っていることを知っての上で、本当に見えていなくても行っている可能性がある。

 

「じゃあ手の平に何個いる?」

 

「一つだ」

 

 なるほど、本当に見えるらしい。しかし、なぜこのおっさんは僕がこれを見えることを知っているんだ?

 

「君が今思っていることに答えてあげよう。それは私が犯罪者だからだ」

 

 そう言うのが先か僕の手を掴んで黒い車の方に向かう。

 友達は静止の声をかけながら、スマフォで動画を撮影している。そもそも他力本願のつもりもないので、反抗をする。

 

「おい、やめろよ!手を離せよ!」

 

 グイグイ引っ張るがおっさんは見向きもしないまま、僕を赤子のように車の中に詰め込んだ。

 その中にも二人いて、一人は運転もう一人は僕に手錠をして足を縛り、タオルを噛ませ、頭を袋で覆った。

 

 息苦しい中だんだんと鼻での呼吸に慣れてきて、この犯行は随分と手際がいいと他人事のように思った。

 車が進むに連れ、僕の頭も動き出し、ここから逃げる方法を画策しはじめた。

 

 友達がトイッテーにあの動画をアップすれば、車の番号で道筋の特定は簡単だろう。

 すぐに警察が動き出し最悪、犠牲を払って捕まえることに尽力したい。

 

 そもそも妖精が見えて、意味も分からず嫌われて、捨ててもいい世界だ。

 大して名残もなければ、悲しむ人も少ない。

 

「この件についてはご両親も納得している。もちろん先程上がった動画は削除させてもらった」

 

 は?親が納得している?僕が犯罪に巻き込まれてもいいと、両親はそういったのか。

 嘘だろう、そんな簡単な嘘に騙されるわけ無いだろ。

 

「学校には犯罪に巻き込まれたがすぐに解決し、両親が引っ越すので転校した、というシナリオを用意しておいた。妖精が見えて辛かっただろう、このぐらい世間と離れても別にいいだろう?」

 

 騙されるな。

 こういう寄り添う話し方は騙すときによく使われる。ソースは僕。

 あくまでこれは犯罪者の話である。

 

「そろそろ名乗っていなかったな。海軍というのは聞いたことあるだろうか。私はそこのγ大佐だ。もう一人がσ中佐である」

 

 仰々しく紹介する。佐官ということは上に将官、下に尉官と下士官がいるわけだ。

 そんなお偉いさんがまたなんで一般人のところに来る?

 

 もうすでに設定がおかしい。この話はすでに信じる価値を失った。

 考えることは、着いた先で何をするか、である。

 

「よし、降りろ」

 

 なぜか僕が捕まったかのように、麻の袋を被り手錠をしている。そのため、歩くのはとても遅い。

 ガララというドアを開けるような音が聞こえ、数歩歩いたところに座らされた。

 

 そして、袋をとられ周りが見えるようになり、ここがどこかの一部屋ということが分かった。目の前にはさっきのおっさんとはじめましてのおばさんがいる。

 

「さて、君は艦娘なるものを知っているか」

 

「…知らない」

 

 そういえばサブリミナル――妖精だったか、がよく艦娘さんがいると言っていた。おっさんも妖精を知っていれば艦娘を知っているのも何らおかしくない。

 

「そうか、では簡単に説明をしよう」

 

 そう言いながら、後ろから入ってきた奴から紙を渡される。おっさんおばさんたちとはまた違った服装である。

 

「この世には艦娘と深海棲艦というものがいる。現時点では艦娘は人間を守り、深海棲艦は人間を攻撃している。その艦娘らは太平洋戦争時に戦っていた船が元になっていると考えられている」

 

 分厚い紙束をめくりながら話を聞く。紙の中は文字の羅列でとても読む気はしない。

 

「君はそんな艦娘で艦隊を組み、作戦を指揮し、深海棲艦に打ち勝つことになる」

 

 それはおそらく特例提督と呼ばれるものだろう。

 最後のページに付け足されるようにあったので、最近追加されたものだろう。

 

……と、まずいまずい。本気にしてしまうところだった。

 艦娘は知っているが深海棲艦は聞いたことがない。偽情報と分かりやすい、お粗末なものだ。

 

「…さて、ここまでが建前だ。君にはその艦娘らをこの世から消してもらう。なに、簡単なことさ。必要なくなればいいだけだからな」

 

「そんなこと、一般人に言っていいのか?社会も知らない若者は何でも言うぜ?」

 

 この場面ではこう返すのが普通なはずだ。あくまで、鵜呑みにしていたらの話だけどな。

 ここで急にこの部屋が動き出した。

 

「出港しました」

 

 おばさんが初めて喋る。そして敬礼をして、出ていった。

 なかなか様になっている、と感心する。ここまでくると、なぜここまでクオリティを上げてまで俺を連れて逃げたのかが気になってくる。

 

「問題ない。君はお国のために死ぬ覚悟で望め。我々人間が深海棲艦に打ち勝ち、艦娘の支配に終止符を打つのだ」

 

 軍人のような台詞を吐き、タイミングよくドアがノックされる。

 おもむろにおっさんは振り返り、入れと命令をする。

 

 入ってきた例のおばさんと小さく話し合ったあと、今度はおっさんの方が出ていった。そして、おっさんが出ていったことを確認すると、おばさんが口を開いた。

 

「αさん。貴方には少尉が与えられます。よって、今から私の部下となります」

 

 突如、外で爆発音が聞こえ、それに対し僕は音が聞こえたであろうほうに目を向ける。

 しかし、おばさんは特に驚いた様子もなく、リモコンを片手にスクリーンを取り出した。

 

「α少尉はこの映像を見てもらいながら、こちらに耳を傾けてください。この後睡眠をとり…」

 

 おばさんには申し訳ないが、今はスクリーンに映る光景に釘付けになってしまった。

 先のおっさんが船の上で何かを持って喋り、女子高生から女子小学生ぐらいの6名が海に浮いて――海の上を滑っている。

 

 海に沈まないためには足が沈む前に次の足を出す、という根性論――もとい、量子力学の理論は知っている。

 しかし、現実でやると水蒸気爆発を起こしそうなものより、こちらの方がとても優雅だ。

 

 おそらく、こいつらが艦娘と言うのだろう。もうカメラからは遠く離れ、個体差が分からなくなった。

 サブリミナルのいう『きれいなおねえさん』もあながち間違ってないな、と思っているとカメラがズームし始めた。

 

 船の揺れがあってもほとんど揺れないカメラに映るのは、解像度の低い艦娘らと黒と白の人型である。

 

「こちらに映るのが深海棲艦と我々が呼んでいる物たちです。今の爆発は見えましたでしょうか。このようにしてγ大佐の指揮のもと、艦娘は戦っております」

 

 おいおい、冗談じゃない。何で戦うんだよ。あれは比喩じゃなかったのか?

 爆発物を所持してるのは犯罪者で、殺し合いなんてもってのほかだ。

 

 あの白黒が人を攻撃するならば、守るのは自衛隊の役目だろう。海だから海自か空自かもしくは米国の力を借りて撃退か捕獲かすべきだろう。

 

 とりあえず、戦闘をするのは学生服っぽいものを着ている彼女らにはできない。

 

「生身の人間が、しかもまともに鍛えていない人がなんで戦ってるんだ?可哀想だろ」

 

「それならば、α少尉が戦いますか?」

 

 何故、僕が戦わなければならない。あの爆発にあたったら怪我をするし、最悪死に至る。

 そのような危険極まりない場所にどうして行かなければならない。

 

「いや、自衛隊とかにさ、守ってもらうべきでしょ」

 

「他力本願が過ぎますね…。お忘れですか、ここは海軍です。つまり、私達がお国を守ります」

 

「じゃあなんで、艦娘が戦ってんだよ。γ大佐だっけ?その人が戦えばいいじゃん」

 

 なぜだか頭が回らない。忘れていたのはそう、相手が犯罪者だということ。そこまでは分かる。

 そいつらが何をしているのか、理解できないではなく、分からない。もっというならば、普通に思える、だ。

 

「だから、艦娘を消すんですよ」

 

 そんな訳のわからないことを…眠い。…寝てしまってはだめだ、考えろ。

 そう、犯罪者の言うことを真に受けるな。

 

「では、おやすみなさい」

 

――――――――――――

―――――――――

 

 目が覚めるといつも寝ている感覚ではないことが分かった。普通、寝るというのは床などに這いつくばったことを言うが、今回は椅子に座って寝ている。

 

「お目覚めですか、α少尉。もうすぐη鎮守府に着きますよ」

 

 若い――と言っても年上だが、γ大佐やσ中佐より若い男が車を運転している。

 そうだ、晴れて海軍の提督適性があると判断された僕は、艦隊運用の実習をη鎮守府ですることになったのだ。

 

「すまないね、寝てしまったようだ」

 

 ググッと伸びをする。僕は長身な方なのでこういう車は結構窮屈に感じる。

 

「いえ、あっη鎮守府正門に到着しました。扉を開けますので少々お待ちを」

 

 そう言って車をあとにして出ていく。窓から見ると、弓道のような服装をしている美人が立っている。

 というか胸当てでかっ。高校生男子には健全な欲望があるものだ。こういう反応も致し方ない。

 

 運転手が扉を開けたので、外に出る。なかなか、富豪か何かになった気分だ。

 

「話は聞いているわ、α少尉。η少将の執務の補佐を務める加賀よ。では、こちらへ」

 

 手で促す先は服をピシッと着ているマッチョがいる。敬礼をして両脇に計20人ほどズラッと列をなしているのは壮観だ。

 皆、にこやかにしているが、僕は萎縮してしまう。

 

 真ん中を通り加賀に案内された部屋で待つ。ふかふかのソファに華美な机、しかし、不愉快さは感じない。

 しばらくすると扉が開き、白で揃えた服の男性と先の弓道の女性が入った。

 

 男性は僕の対面に座り、加賀は男性の後ろに立っている。男性は道化のような仮面ごしに、おそらく僕を覗いている。

 

「…ふぅ、一般人の提督か。俺らが計画したものだったが、…なんとも言い難い、な」

 

 こもった声でそう言う。

 道化の仮面なのでおちゃらけたことを言うと思っていたが、そうでもないようだ。顔が見えないため口調などで判断するしかない。

 

「さて、α少尉。俺がη少将だ。よろしく頼む」

 

 白い手袋をつけている手を差し伸べる。改めて見ると、どこを見ても肌が見えない。強いて言うなら耳が見えているだけである。

 

 右手で触るだけのような握手をして、もとに戻る。

 丁度そのときに加賀がいつの間にか淹れた紅茶を持ってきた。仮面男は器用に仮面をずらしつつ飲む。

 

「さ、自慢の秘書艦の茶だ。飲んでくれたまえ」

 

 促されて少し舌を湿らす程度に飲む。

 紅茶は飲み慣れていないが、ワクドナルドのものよりかは美味い気がす…る?

 

「美味しいですね。紅茶は苦手でしたけど、飲みやすいです」

 

 咄嗟に出てきたのは小学生並みの感想。いや、一般人――高校生に高級品がわかるわけがない。

 美人さんが淹れたものは全部美味しいんだぜぃ。よし、困ったらこれを言おう。

 

「ふむ、それは良かった。ね、加賀さ――い、いやなんでもないさ」

 

 後ろに立っている加賀が僕でもわかるぐらいにη少将をにらみつけている。

 どうやらη少将は変態紳士――踏まれて喜ぶ人ではないようだ。

 

「…気を取り直して、君の仕事は至って単純だ。基本は加賀と行動してほしい。わからないところがあれば加賀に聞いてくれ」

 

 一息つくように紅茶を飲む。2回目、だけれどやはり不思議な飲み方である。

 すると、加賀がどこからか一冊のノートを取り出し、η少将に渡す。

 

「これはいわゆる日誌だ。別に誰が見るものでもないから、好きに使ってくれ。では、失礼するよ」

 

 η少将は立ち上がって、扉の取っ手に手をかける。何か思い出したのか、おもむろにこちらに向きなおる。

 

「そうそう、実戦に関してだが、しばらくは行わない。その間に色々と身に着けてくれたまえ」

 

 そう言い残してこの部屋をあとにする。

 しばらく戦わずにいられるってことは深海棲艦ってのもスローリーのようだ、と思いつつ紅茶を飲む。

 やはりチビッとしか飲めない。

 

 加賀が先程まで仮面の男が座っていた場所に座り、仮面の男が飲んでいたティーカップに口をつける。

 大胆だなぁと感心しつつ驚きもある。というか、驚き九割だ。

 

「まず、α少尉には5人のうちから1人を選んでもらうわ。これがおおまかな資料よ。目を通しておいて」

 

 初対面に対してこの態度はないだろう。少なくとも、現高校生すらここまで高慢に話すことはない。

 今のところ、ここで話した人の第一印象は変人と傲慢である。やばいところに来てしまった。

 

 とりあえず、渡された書類を見る。

 内容は5ページに5隻の艦娘の写真とそれぞれのちょっとした説明。

 

 幼い見た目だけが集まっているのが気になるが、まあどうせ艦娘だ。大して変わらない。

 強いて言うなら、兵器らしく喋らないものがいい。

 

 叢雲はだめだ。きっと僕に指図するため、使うのにはむいていない。

 似たような点で、えーと、なんて読むんだ?ハス?…まあ、この名前も行動もよく分からないのもだめだ。

 

 そうすると残るは3人。そのうち二人がドジだから、吹雪にしようか。

 それとも、真面目が忠実と同じとは限らないから、反抗をさせないために気の弱そうなデンにしようか。

 

「じゃあ、このデンにします」

 

「…電ね。分かったわ」

 

「いな、づま?」

 

 これ、いなづまって読むのか。氵に連で何と読むのかを聞くと、さざなみだと教えてくれた。

 こんなものは高校までで習わないので、仕方ない。

 

「電はここに着き次第、α少尉の秘書艦になるわ。分からない時は秘書艦に聞きなさい。それまでは、この私が最低限を教えるわ」

 

 艦娘の分際で僕に指図するなんて、マジで調子に乗ってる。最低限を知らない奴に教えてもらうことなどない。

 

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―――――――――

 

 まず、最初に言っていたのは敬礼の話。自分より階級が上の奴が入室したらせめて敬礼をしろ、ということだ。

 敬礼に厳しい形はないようだが、一応ここをこうする、というのはあるらしい。

 

 兎にも角にも、加賀はη少将がとても偉いのだということを言っていた。

 その点は分かるのだが、妙にそれ以外の感情が見え隠れしている。

 

 その話をしながら、鎮守府内を練り歩いた。

 演習場に食堂「間宮」、居酒屋「鳳翔」、艦娘寮に執務室、そして客室の場所。

 

 どうやら部屋のサイズは艦娘寮のものと同等のようだ。

 艦娘寮の部屋は一つで6隻入れるように作られているので、一人で使うにはだいぶ広い。

 

 ただ、艦娘と同じ種類のベッドやテーブルはいただけない。なぜ、僕が艦娘と同じ程度なのだ。

 

――――――――――――

作者「申し訳ないのですが、ここからはダイジェスト気味になります」

―――――――――

 

「電です。どうか、よろしくお願いいたします」

 

「よろしく」

 

 駆逐艦電。僕の手となる存在である。

 η鎮守府への定期便と共に連れてこられ、本日付で着任をした。

 

 また、最も重要であるη少将の日本への帰還を送るために、早朝より集まり敬礼をする。

 一夜漬けの敬礼のため、様にならない。

 

 η少将は、加賀とはまた違った弓道着を着る艦娘を連れている。

 初めてここに来てまともそうな奴を見た気がした。どちらかと言うと真面目な感じがする。

 提督という存在を引き立てる気品と、溢れ出る強者の気迫。けれども彼女は艦娘である。

 

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 駆逐艦電を部屋へ入れ、荷物を持ってこさせる。

 何を勘違いしているのか、手伝ってもらえるという考えがあったらしい。おこがましい。

 

 ただ、兵器として――道具としては優秀で、執務という提督のすべき仕事を一から教えてくれた。

 取り敢えず、加賀のところに手伝える書類を取りに行かせ、僕は部屋で日誌を綴ることにする。

 

【テートク日誌】

 

今日、初の艦娘である駆逐艦電を入手した

 

【テートク日誌】

 

 そういえば、荷物と一緒にあった分厚い資料を思い出した。

 一応、あれに書かれていることもこの一ヶ月の間に覚えておいたほうがいいだろう。

 

 そう思って荷物置き場から分厚い資料を取り出し、1ページずつ読んでいく。

 細かい字で綴られ、図や表は少ない。なかなか見辛いものを10ページほど読んでいると、電がノート一冊分ぐらいの書類の束を持って来た。

 

「まずは、このぐらいから始めるのです」

 

 そう言って円い机の上に書類を広げる。

 一番上にあるのは何やら図のようだ。電の説明によると、各資材――弾薬、鋼材、燃料、ボーキサイト及び高速修復材に高速建造材が折れ線グラフで書かれている。

 その下の表には細かな数字が書かれており、上の図の対応するようだ。

 

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 受験勉強超えの筆記時間をし、割と厳しい電の採点も多少、合格点に届くようになり二週間が過ぎた。

 今日は定期便が来る日であり、η少将が帰ってくる日でもある。

 η少将のご意向により、憲兵から声をかけられ、朝から電とともに港に来ている。

 

 加賀がη少将と何度か話したあと、三人で建物の方へと入っていった。

 僕の役目も終わったので、部屋に戻ることにする。

 

《α少尉、至急、執務室に来るように》

 

 η少将の声が聞こえた。

 なんだろうかと思い、駆け足で執務室へと向かい、2回ノックをする。

 

「α少尉、参りました」

 

 十秒ほどの静寂のあと、入室の許可を得て中に入る。

 ガラステーブルにフカフカそうなソファ。客室とは大違いである。

 

「どうなされました?」

 

「ハハハ、失笑物だね」

 

 急に笑われてしまった。敬語は使ったし、問題ないはずである。

 もしかして、何か僕に非があったのだろうか。何かしたかな?

 

「……提督、彼は今まで一般人の子どもですので、仕方ないかと」

 

「ふむ、赤城に言われては仕方ないね」

 

 あの加賀とは違った弓道着の――便宜上、赤い方と青い方とする――は赤城というらしい。

 

「さて、では本題に入ろう。α少尉、君には今から俺が指揮をするところを見てもらう。これでも空母には自信があるから、見ていくといい」

 

 空母…そういえば、あの分厚いやつの最初の方に載っていた。確か、海上での航空機(艦載機)を扱う船なのだとか。

 η少将と赤城はヘッドセットをつけて、何やら喋っている。

 

「第一艦隊旗艦蒼龍、聞こえるか」

 

「第二艦隊旗艦翔鶴、聞こえますか」

 

 現状把握できない。

 困っていると加賀が解説を始めてくれた。

 

「今は第一艦隊と第二艦隊が、深海棲艦の補給路を断つために出撃してるわ。基本うちの鎮守府では、旗艦が現場の指揮を執るのよ」

 

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【テートク日誌】

 

今日で研修期間最後の日が終わった。この二週間は執務か見学のみで、実戦は出来なかった。その間、η少将の艦娘にそれぞれ「η少将についてどう思っているか」を聞いたためここに書いておくことにする。

·η少将は空母贔屓をしているが、満足行く働きの場を全艦娘に用意してくれるので嫌いではない。

·η少将はスケジュールを調整して、無理なく運用してくれるため、上司として尊敬している。

·η少将は赤城や加賀をあまり出撃させず、彼女らに戦闘をさせればもっと楽になるとは思っていたが、最近になり、一航戦の誇りを垣間見た気がする。η少将については何を考えているかわからない奴だ。

資材の管理や、艦娘の細かいレベルは把握出来なかったが、空母以外は30にも達していないと思われる。

 

【テートク日誌】

 

 一息ついて、ほとんど全てがもとの状態となった部屋を一瞥する。

 あとはσ中佐に会い、詳細を伝えればいいだけである。その後はあまり目立たないように過ごしつつ、艦娘消去派の改革を成功させる一兵卒となるのだ。

 

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「ふむ、まあこんなものか」

 

 γ大佐とσ中佐に報告をしたが、是とも非とも返答しない。

 そして、一応η少将と繋がりができたので、積極的に関わるように、という方針に決定し、僕は北方の前線付近の島に送られた。η島は南側であるのだが……。う〜む、よくわからない。

 

 そのα島で高校生人生初の無料私有地を確保した。高校生として喜びしかない。まあ、もう高校生ではないのだが。

 なんだか色々と難しい説明があったが、つまりはいっぱい働いて、報酬は食費代と物資代に消えるらしい。

 η島と同様に定期便が来るので、その経路の安全を確保するようにとのことだった。最初のうちは周りの提督に頼るなりして、練度向上及び戦力拡大に努めることが普通のようだ。

 

 そして今、γ大佐の勧めによりβ大佐のもとに向かっている。

 β大佐は艦娘消去派で、水雷戦隊を一隊所有しているのみだが、提督となった僕より権限は劣るそうだ。

 だが、僕らはあくまでも艦娘消去派であり、艦娘が出る前から海軍に所属している方が、成金の提督に頭を下げるのはおかしい、という思想を共有する仲間である。

 

 よって、電と共にβ大佐の住まうところへと行き、補給路の確保を要請する。

 権限的には相手が断れないのは分かっているのに、立場的には断られる覚悟で臨まなければならないという、なんとも奇妙な感じである。

 

 β大佐と対面すると、周りの全艦娘6個は皆生きた目をしていないことが分かる。

 僕もβ大佐と話してわかったことだが、彼は加虐心の持ち主のようだ。

 下手に出ていればどんどんと罵る言葉が強くなり、しまいには手を上げるまでしたほどだ。高校生という情緒不安定な時期によく耐えたと思う。マジ僕凄い。

 

 要請自体は上手くいき、対談のあと何故か艦娘に感謝された。

 あの道具らに感謝されるというのは気持ち悪いが、結果的に消去する物と言えど大事に扱うのが、勿体ないの心である。

 

――――――――――――

―――――――――

 

《電、資源スポットはどうだ》

 

《はい、妖精さんによると、もう少し先みたい……のようです》

 

《その他、敵艦隊はいるか》

 

《ソナーに感ありま…ありです!2時の方向!どうしますか》

 

《敵艦隊の偵察。早急に結果を報告せよ。我が艦隊は気づかれているものと思え》

 

《………駆逐イ級が2隻…です》

 

《よし、攻撃初めッ》

 

 爆発音が轟き、一斉に攻撃を仕掛ける。

 編成では駆逐艦電が旗艦で、随伴艦が叢雲と漣。建造の1隻目に叢雲が出て、ドロップで漣である。今ではβ大佐の力を借りずに補給路の安全を確保し、自分達で資源を回収するまでになった。

 どうやら、この成長速度は妖精さんが見えなければなし得ないものらしい。噂によると、妖精さんが見えなければ殆ど建造できないらしい。

 

《沈んだ敵も……いえ何でもないです。資材の回収を始めます。叢雲ちゃんと漣ちゃんは周辺を警戒してください。その後、叢雲ちゃんと電が交代します。最後に漣ちゃんが回収したら、帰投します》

 

《では、叢雲、聞こえるか》

 

《問題ないわ、能無し。せいぜい、自分では何も出来ないあの旗艦に言いたい放題言っている能無しよりは、活躍してあげるわよ》

 

《………》

 

《何?怒ったの?そんなんだから器の小さい、テートクカッコカリなんて言われるのよ》

 

《………》

 

《なんとか言いな――何?電がそれくらいにしろって?はん、救われたわねテートクさん? どう?道具に自分の弱いところ抉られて、自分の道具に助けられるなんて、ふふっ、いい土産話だわ》

 

 いつでもどこでも反抗を続ける駆逐艦叢雲。

 彼女は自分達は道具なんかではないと、意味の分からないことを言う艦娘である。

 道具だと言っているのに聞かないし、作戦だと言っているのに実行しない。本当に使えない道具である。

 そのくせ、どうやっても轟沈せず生きて帰ってくる。

 消す存在であるが、わざわざ傷つける必要もないため、β大佐のように蹴り殴りの暴行はしないが、それを逆手に取り、煽りに煽ってヘタレ呼ばわりをする。

 本当に面倒な駆逐艦である。

 

《!ソナーに感あり。敵艦は4隻!?逃げるわよ漣!》

 

《駄目だ、電と合流し情報を集めてこい》

 

《何言ってんのよ。今はアンタと話してる暇なんかないわ。あっちには少なくとも空母がいるの。おそらく機動部隊よ。もう見つかってるかも知れないわ。取り敢えず近くの鎮守府に向かうわよ。これで十分でしょ》

 

《では、何級かを確認して来い。最低限の情報ぐらい集めろ》

 

《ああ、もう!本当に頭固いんだか――》

 

 爆発音が聞こえる。何が起きた。

 

《……マズイわ。電、大破。漣、中破。叢雲、大破。もう相手の手の内よ。アンタは何処か大きな鎮守府に援軍を要請して、ここに向かわせるべきね》

 

 はぁ、また一から建造のし直しか。艦娘がいないんじゃ今のところどうしようもない。

 一応、艦娘消去派の研究員による対深海棲艦の武器を開発中とのことだが、まだ何年先になるかわかったものではない。

 

―――――――――

――――――

 

 水面へと浮かび上がるような感覚で目が覚める。

 どうやら寝ていたようだ。確か、叢雲らが轟沈して電が帰ってくるまで待とうと思っていたから、そのときにでも寝てしまったのだろうか。

 

 起きるとそこは数ヶ月前に見た車の中に似ていることに気づいた。

 

「お目覚めですか、α少尉。もうすぐη鎮守府に着きますよ」

 

 は?

 

――――――――――――

―――――――――

 

 よく分からないが戻ったようだ。

 今まで見た景色を見て、ほとんど同じ道を通り、α島でのあの戻った日を迎える。

 今日の出撃をすべてなくし、常に警戒態勢にする。これでまた戻ったら、この日だけでも日本に戻ってみることにしよう。

 

 2回目ともなると叢雲の反抗も予想通りで、ある程度は耐えられるようになった。全く、道具に教えられることもあるものである。

 

 そして、まる1日が経つも戻ることはなかった。

 何だったのだろうか。よく分からないまま、あの資源スポットへと向かう。

 資源スポットとは海上に存在し、資材を集められる場所であり、妖精さんが何かをしてそこを活用するらしい。

 この前と同じ状況。だが、一日だけずれており、時間で戻ることはないことは確認済みである。

 つまり、あの戻るやつは時間制限があるものではなく、何か確認できる事象をきっかけとする可能性が高い。

 例えば、あの資源スポットを使うことであの時間に戻る可能性が考えられる。今回はそれの確認である。

 

……何も起きずに帰投し、また一日がすぎる。

 もしかしたらあれは夢だったのかもしれない。艦娘が轟沈するという面倒くさいことを、予知したのかもしれない。

 

 いつもどおり、いちいち反抗をする叢雲を怒り、ある遠征任務へと行かせた。

 電や漣も行くと志願してきたが、それでは罰の意味がない。一人で行かせることに意味があるのだ。

 

 そして、電と漣で艦隊を組み、次の海域の拡大を図る。現状は余裕が生まれているので問題がないという判断の上だ。

 

《敵艦載機です!》

 

 そんな声が通信に聞こえた。

 そういえば、前も敵空母の攻撃の後に戻ったことを思い出す。もし、深海棲艦の攻撃、正しくは味方艦娘の轟沈によりあの現象が起こるのだとし――

 

―――――――――

――――――

 

 水面へと浮かび上がる(ry

 

「お目覚めですか、α少尉。(ry」

 

――――――――――――

―――――――――

 

 そこから僕は、轟沈させないようにということを念頭に置いて作戦を組んだ。

 警戒を厳として行い、深海棲艦の動向をより注意深く思考を巡らせる。

 それでも一介の少尉にそこまで考えられることはなく、大きく作戦が変わることはない。

 

 しかし、毎回のようにあの空母による攻撃で沈み、僕はあの時間に戻りリスタートをする、ということは判る。

 よって、僕が取るべき目先の行動は、あの敵空母機動部隊の正確な戦力と、何を目的としているのかという情報、そして、そこの壊滅方法である。

 

【α提督日誌】

 

まず、一回目もしくは三回目の僕は、空母がいる位置を割り出すことにする。資源スポット付近に14:30頃の出現し、翌日の12:50にβ島付近で敵航空隊により漣が轟沈した。したがって、この海域にいることは間違いない。敵はここで何かしらをすることだろう。

 

【α提督日誌】

 

 無論、この日誌も全て真っ白になるため、今書いたところで意味はない。ないが、回数を記録することは悪くないことだと思う。

 さて、では(あとの僕が)死なないように(今の僕が)死ぬことにする。

 

―3回目―

 

 資源スポットにおいて、来ることを知らせるが、練度不足により叢雲が轟沈。

 

―4回目―

 

 η少将に演習を申し入れるも、断られ、対空用装備を重点的に開発し、資源スポットに向かうも、練度不足は解消されず今度は電が轟沈。

 

―5回目―

 

 時間の問題により練度不足を陥るため、γ大佐に援軍を要請するも、確実な情報ではないと一蹴されてしまう。意気消沈で何もせずに今までの最高記録に達し、大規模反抗に出た深海棲艦の最初の餌食となる。

 

―6回目―

 

 避けては通れないと知ったので、敵の偵察機の後を追うように艦娘に指示を出すが、無謀も無謀で即座に轟沈艦娘を出す。

 

―7回目―

 

 無理矢理海域を拡大し、敵の主力が集まる場所を発見することを試みる。しかし、練度の問題で広げるというより奥に進むという方がふさわしく、広い範囲での情報は得られなかった。

 

―8回目―

 

 虱潰しにやっていくしかない。

 

―63回目―

 

 ついに見つけた。敵の主力部隊である。そこの直掩機はまるで雲のように濃く空に広がり、一瞬で第一艦隊は壊滅した。

 

―64回目―

 

 正確すぎる情報はγ大佐の腰を動かし、別派閥での名だたる面々が揃い、敵機動部隊及び主力部隊に奇襲を仕掛け、結果は上々。彼らのうちに轟沈艦娘を出すも、僕が戻ることはなかった。

 

 ようやく、切り抜けたのだ。

 

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 僕の功績が讃えられ、中尉へと昇進を果たした。

 

 だが、彼の指揮能力が中尉の域に収まっていないことを、まだ誰も知らない。

 

 そして僕は、昇進祝いに今作戦に関わった人々から酒を貰ったが、高校生が飲めるように憲法は作られていない。

 せっかくの貰い物であるため、ちゃんと貯蔵しておく。

 実は、僕は中尉としてはあまりに多すぎる報酬を受け取っている。そのため、ちょっとした施設なら作れないこともないのだ。

 

 また、僕は艦娘に対する考え方に疑問を持つようになった。それは、なぜ彼女らを道具だと思っていたのかである。

 艦娘は道具、というのはしっくりくる考え方だ。ただ、僕の例の現象と密接に関わっているとなると、道具とすることは出来ない。

 どちらかというと運命共同体。それ故に、道具では物足りない。相棒とか仲間とかそういう対等な関係がいい。

 

 とすると艦娘を消去するというのは……頭がモヤにかかったみたいになる。

 こういうのを考える度、まるでそれ以上考えるのを危険であると言うように、頭にモヤがかかったようになる。

 

 一体、何なのだろうか。

 

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 あれから3ヶ月ほど経ち、別の海域で深海棲艦という脅威に大規模作戦が発令された。

 幸いこちらの艦娘に出撃命令は出なかったものの、より多くの轟沈艦娘を出してしまった戦いである。

 

 そもそも、戦力は駆逐艦5隻と、その作戦に向かえるようなものではなかったが、僕が関われば何かが変わるのではないかと思ってしまう。

 しかし、海軍内でも、あの量を3ヶ月毎に用意する深海棲艦に勝てるわけがないと、和平条約などでこれ以上被害を出さないほうがいい、といった意見も多くなっている。

 慢心ではないが、もし僕が関わって軽微な被害で勝ってしまったならば、この考えが衰退してしまうだろう。

 

 どちらが正しいのだろうか。

 

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 あれから二年。今では中佐にまで昇進し、海軍の一部には目の上のタンコブ扱いされている。

 だが、実力がベテラン級にまで上がっている僕の風当たりは悪くはない。

 

 戦績も上々で、今では艦娘の数も増え、轟沈させるような無理な作戦も組まずにすむようになった。

 噂では、海軍もそろそろ代替りだと、その第一人者は僕だろうと、なっている。

 

 それに、4代派閥の勢力分布も変わり、艦娘消去派は随分と縮小してしまった。

 殆どの年配は戦争利益派に属し、完全勝利派と世界平和派は目立たないが確実に増えている。

 

 また、一般にも艦娘を隠すことが難しくなり、つい先日、現情報を隠すところは隠して伝えた。

 そして、当然のように返ってくるのは、艦娘を戦わせるなデモ。海軍に人道はないのか!艦娘は危険じゃないのか!といった看板を掲げ、日本中が突然の事態に混乱している。

 その流れは外国にも影響を及ぼし、世界中を恐怖させた。

 

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 そこからまた二年後。

 僕を引っ張り上げてくれたμ中将の話も聞かなくなり、僕は大佐止まりとなった。

 その頃にはようやく、艦娘も受け入られ始め――というより受け入れざるを得なくなり、前時代的生活を強いられている。

 たまに見るコマーシャルではポップな艦娘の紹介がされており、艦娘に対する目というのも変わってきた。

 

 前までは休暇を与え、街に送り出しても、自販機でペットボトルを買うのが関の山である。

 また、奇妙なことに、艦娘は外見は美人揃いなので、街にいる一般人のうち顔の整っている人が艦娘扱いされる事件が発生していた。

 

 それが今となっては、目線をそらされたり避けられたりするものの、ある程度楽しむことに支障がないようにはなった。

 因みにナンパ等にはあわない。理由は怪力だから。

 

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 5ヶ月後。我々日本は深海棲艦の二度目の虐殺を許してしまった。

 もう、武神は存在しない。

 多大な被害を出し、どうにか鎮圧に成功するも、一般が海軍にむける信頼をほとんど失ってしまった。

 

 一方、海軍内でも派閥争いは過激化し、今では2大派閥の世界平和派と完全勝利派となる。

 僕はη少将との繋がりで完全勝利を謳うが、ここは元戦争利益派も多数いるため、不穏な空気に包まれている。

 

 聞くところによると、何やら秘密兵器が作られているのだとか。新しい艦娘なのだろうか。

 

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 あの日の深海棲艦の攻撃により、沢山の人が道に倒れ、そのには僕の両親の亡骸も見つかった。

 艦娘の大破姿を見ている僕からすれば、戦争を肌で感じている僕からすれば、死んだ両親が分かる形で残っていたことが嬉しい。

 

 だけれども、わかる形で残っていたことにより、両親が確実に死んだことがわかる。そんな事をしでかしたあの深海棲艦共を僕は恨むようになった。

 

 そして、同じくその故人を秘密兵器に乗せて、敵を一掃しようとする海軍にも憎むようになった。

 

 実は、海軍の研究チームによって、おそらく深海棲艦の数は上限があり、その深海棲艦を作るのは艦娘若しくは死んだ人間である、ということが分かった。

 この理論が正しかった場合、この秘密兵器によって数万の人間を海に沈め、その人間が深海棲艦化することで上限を超えようということだ。

 

 ここで、もう一つの研究結果である深海棲艦化傾向、にも触れなければならない。

 この傾向は人間は主に最初期からいる深海棲艦になり、比較的に鬼姫休暇をよりも弱く、艦娘が沈んで深海棲艦となった時は鬼姫級のような強力な深海棲艦を生み出す、というものだ。

 

 つまり、亡き人間が弱い深海棲艦と成りまくり、上限数まで達したところで一気に叩けば勝てるという魂胆である。

 

 だからといって、非人道的過ぎるそれは一般人に認められてないかというと、そうでもない。

 今では国が深海棲艦を倒すという雰囲気に包まれ、非常に盲目的な状態である。

 

 きっちり、研究チームの発表した上限以上の死人を集め、忌々しき機械に入れられる。

 その前ではお国の為になると泣く人や、それを見て泣かずに堪える人などがいる。誰もがこの世界は間違っていると解っているが、一人では無力なのだ。

 

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 遂に両親を乗せた機体が発進することになった。

 僕たちは、そのロケット状の機械が深海棲艦に撃ち落とされることの無いようにしなければならない。

 あの後の研究で、ある程度中身がキレイな形でなければ深海棲艦化しないことが分かった。そのため、全提督にそのロケット状のものの護衛任務が下ったのである。

 

 もちろん、ロケット状なだけで、日を吹いたり、きりもみ回転をしたりはしない。水上を艦娘でもついていける程度の速さで突き抜けるのだ。

 そして、中心部付近までいき海中に沈みながら死人を手放し、その秘密兵器は自動で日本に戻る仕掛けらしい。

 

「全く、最期まで面倒のかかる親だな」

 

 こうでも言わないと、自分に踏ん張りがつかない。

 艦隊に号令をかけ、現状最大の戦力で戦場に向かう。

 

 親の花道、ヘンテコな感じだが、邪魔はさせねえ。

 

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―戦後―

 

 あの戦争も終止符を打ち、今ではこの国は皮肉にも大きく増えた財力により大きな進歩を遂げていた。

 戦前をも上回る技術。

 そうそう、この世代の戦前は深海棲艦との戦争の前を指すことを言っておかねばならない。

 

 僕も今では、彼の戦争の記憶を持つ数少ない人物となってしまった。

 彼の戦争――第三次世界大戦の完勝の日には毎年、放送メディアのインタビューに追われることになる。毎年その日、僕は、非常に心が痛くなる。

 

 最大の功労者である艦娘。彼女らを語る前に少し僕の話をしよう。

 艦娘消去派、そこに与していた人々は洗脳という、これまた摩訶不思議な力が働いていたことがわかった。

 戦後の人間に行われるカウンセリングで、どちらが洗脳なのかも分からぬまま、頭のモヤが晴れていった。しかし、今はそんなことはどうでもいい。

 

 僕らが行ってしまった仕打ちは酷いものだ。

 おそらく洗脳にかかる前の、高校の友達と別れた直後、その時までは今と同じ感性だったはずだ。

 あんな幼い子を矢面に立たせ、銃まで握らせた。怪我をして帰ってきても、特に心配もせず戦績を聞き、失敗すれば罵倒し、成功すれば自分の手柄としていた。

 

 そして僕は即刻、彼女らに謝りに行った。

 もちろん許してもらえるはずもなく、今後一切関わらないと誓った。

 

 そんな彼女らは今、どうなっているだろうか。

 丁度ニュースでもやっている。

【「保護」している艦娘、またも反抗か!】

 

 保護、単体で聞けばいい言葉であるが、本質的には奴隷に近しいものである。

 あの深海棲艦と艦娘の違いは海軍内ではよく分かっているし、妖精さんのお墨付きでもある。

 しかし、報道陣がどう伝えたのか、あの戦争での最大の功労者は、あの戦争の最大の犯罪者となってしまった。

 

 それをいいことに艦娘を奴隷化し、人間にやれば犯罪でも、艦娘であれば犯罪ではない世界となった。

 美人だし、老いないし、使い勝手はいい。日本の犯罪件数は減ったが、どこかの艦娘がそのしわ寄せにあっている。

 

 僕も毎回インタビューのたび、艦娘を奴隷とするなと言うが、国民はそれを求めてはいない。どれだけ艦娘がきっかけで人が死に、経済が破綻したのか、それを彼らは求めている。

 

 そして、元僕の艦娘達は散り散りとなり、きっと何処かで誰かの奴隷となっているだろう。

 僕のところにはケッコン艦である電が残っている。また、僕は奴隷は複数所持可能なので、逃げ出してきた艦娘を真っ当に保護している。

 一応、海軍の中佐としての権力は残っており、そういう艦娘の元主人だった奴を追い払うことはできる。

 

 さて、突然だが、所持している艦娘が沈んだら戻る現象はまだ有効だと思うだろうか。答えは是である。

 

 僕はやはり、親の死ななかった世界、二度目の虐殺が起きなかった世界、そして、艦娘が受け入れられる世界があっても良いと思う。

 

 それら全てを話した艦娘電に銃口が向けられる。

 

 未来を見てきた、そう話したとき彼女は驚きつつ、納得していた。やっぱりα司令官さんは凄いのですと、そう言っていた。

 

 電は震える手で古びた魚雷も取り出す。

 

 彼女は、次の電達には優しくしてください、α司令官さんがこの何十年もあの日々の情報を集めていたのは、ここの電が知っているのです、と微笑みながら言った。

 

 海の上で魚雷が爆ぜる。艦娘はどんな攻撃でも一度は耐えるのだ。

 

「――!おい!α提督、止めろよ!おい!」

 

 爆発音に気づいて駆けてきたのは天龍である。どうやっても僕は止める気のないことに察して、天龍は艤装を展開し、電のもとへと向かった。

 

 電は天龍に気づくものの、自分の砲で頭を撃ち抜いた。

 

「止めろォ――」

 

 次は絶対、止めてみせるよ。

 

――――――――――――

―――――――――

 

「お目覚めですか、α少尉。もうすぐη鎮守府に着きますよ」




マリアナ沖の2ch(現5ch)の影響を受けています。
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