今、俺は川内におぶられながら海上を移動している。
それというのも、軽巡ホ級との戦闘の際、妖精達に艤装を渡してそれを白露が使い、そのままα中尉が持っていったことで手持ちに艤装がないのだ。
「これじゃあ、夜戦、出来ないじゃん」
まあ、私的にも夜戦の抑止力になったようで、ちょうど良かった。
とはいえ、本当にヤバくなった時は、泳いで逃げる事も想定しておいたほうがいいので、なるべく小島から離れないようにしている。
「ここらへんにしておこう」
そう言って川内を止め、二本の釣り竿のうち片方を川内に渡す。
この釣り竿は浮きもなければガイドもなく、ザリガニ釣りで使うような簡素なものである。
しかし、糸は大抵のことでは切れず、究極的に釣り上げることに関しては問題ない。
ただしこれは人間の話である。
艦娘の場合、魚が餌を喰らいさえすれば、圧倒的な馬力で釣ることが可能だ。
もちろん、水の抵抗というのも強いので限界はある。
釣り糸を垂らし、竿に抵抗が来るのを待つ。
ちなみに釣り糸は絡まないらしい。そこら辺は流石妖精といったところか。いたりつくせりである。
「……暇だな」
待てど暮らせど一向に現れない魚に、ふとそんなことを呟いた。
餌も少ないので早く釣れてほしい。
「提督、なんか面白いこと言って」
「無茶振りするなよ」
「いいから、いいから」
何もよくねぇよ。
というか、こういう無茶振りって真面目に答えなくていいものだよな?
「ある犬は体が白い。では尾の色は?」
「尾も白い。ワー、オモシロイナァ。ワタシ、イマ、スゴイ、オナカイタイ」
まあ、そんなものだろう。
また、長い間沈黙が続き、魚も現れる気配がない。
「そういえば、提督について教えてほしいって言ってたよね」
「急だな。…まあ、確かに言ってたな」
「提督ってのはね、夜戦をいっぱいやらせてくれるんだよ」
えぇ、あり得ないだろ。あの夜戦だろ。やりたい人はいないと思う。
つまり、提督っていうのは、狂った人のことを指すのか?
流石に俺はそこまで狂ってない。
というか、なんで川内が提督について知っているんだ?
まだ、ドロップ艦で、提督って呼ばれる存在に会ったことなど俺しかないと思うのだが。
「っていうか、川内はなんで提督ってのを知ってるんだ?」
「ん〜、艦の頃の記憶?私が艦の時は三水戦っていうところで頑張ってたんだぁ」
川内は昔を懐かしむように遠くを見ている。
三水戦とかいうよく分からない単語は置いといて、なるほど、昔の提督は夜戦を好んだのか。
そうなると、あまり川内の話は参考にならなそうだな。
1940年代に深海棲艦が出たわけでも無いので、明らかに環境が違う。
となると、結局のところ白露に聞くしかないのか。まあ、この件については追々解決していこう。
「それより、糸、引いてるぞ」
「へ?あっ、ほんとだ」
川内はそう言うと、ざっぱーんという音とともに魚を釣り上げる。
音だけ聞くと大きな魚のように思えるが、およそ20cm程の中くらいの魚である。
「妖精、これは人間が食べても大丈夫な魚か?」
『加熱すれば大体大丈夫』
青妖精曰く、大丈夫な魚らしい。
って、騙されるかー!随分とアバウトな返答しやがって。
とはいえ、本当に駄目なときは食べる前に止めると思うので、今日の釣りはこのぐらいでいいだろう。
日も傾いて来たのでそろそろ帰らなければいけない。夜の海というのは怖いものなのだ。
「じゃあ、偵察機出すね」
行きと同じように帰る。この零式水上偵察機を見たとき、日本史で知った空母と呼ばれる艦だと思った。まあ、すぐに川内に否定されたが。
戦艦大和とか白きゼロ戦は軍艦を知らなくても耳にしたことがあり、ミッドウェー海戦の空母部隊なんかも有名だ。
「ん?」
川内がぼそっと呟く。どうしたのかを聞くと、何やら発見したらしく、航路を変更した。
「大破艦4隻、中破艦2隻の水雷戦隊を発見ッ。助けに行くけど、いいよね?!」
「深海棲艦とかじゃないのか?」
「うん、あれは艦娘だったッ」