薄暗い海の向こうに船は沈んでいき、遂には見えなくなった。
β大佐とα中尉およびその艦娘らは船と一緒にどこかに行ってしまった。艤装があればついていくのに。
さて、と一息つくと香ばしい匂いがする。
見てみると、先程釣った魚を妖精らが焼いているようだ。すっかり忘れていた。
お腹はならない程、空腹なので、その匂いに釣られるようにして焚き火に寄る。釣られた側に釣られるとは中々滑稽である。
「あ〜、ちょー疲れたぁ。何なのあのおっさん。艦娘を道具みたいに言っててさ。α中尉もα中尉だよね、相槌だけ打ってさぁ」
「そんなもんだろ。別に人間を道具だと思うのは不思議なことじゃない。馬鹿も鋏も使いようってことだ」
『提督は人間すら道具だと言うのか…』
変わらないと思うがなぁ。
例えば、会社内のある課で功績を上げるために、誰でもいいが利益となる人と関わるだろう。その人にはそれだけの価値があり、その人を使いたいということだ。
友人関係であっても、元々何もない所から何かしら利益になること――悩みを聞いてくれるだとか、いい情報を持っているだとか――が理由で段々と親密になったり、価値がなくなれば離れたりするだろう。
無論、使い合ったり、利益を得る過程で感情が出るものは道具ではないのかもしれないが、そんなものは予め常識として人間が何たるものかを設定しなかった社会が悪いのであって、俺は悪くない。
『ほら提督、焼けた』
「ああ。人間って食事、摂らないと死ぬから面倒くさいよな。その点艦娘は……いや、燃料とかとらないと、実質死んだも同然か」
「美味しいよ、飲んで見る?」
そう言って川内は燃料を差し出してくる。いや、飲めるわけがなかろう。軽くデジャブを感じる。
そういえば艦娘の燃料って重油なのだろうか。軽油とか灯油とかのような匂いを感じた。
そんな匂いとともに焼き魚を頬張る。
俺は前々から割と大きく食べる方であったが、今の体では思っていたよりも魚が欠けていない。口が小さいとこういう事が起きるようだ。
「……はぁ、男に戻りてぇな」
「え?提督って男性なん?」
あれ?言ってなかったっけ?
でも、男口調を不思議がっていなかったと思う。それならば、何故今更男なことに驚いているんだ。
もしかして、女性なのに男らしい喋り方だと思っていたのだろうか。この見た目なら仕方ないか。
『提督はそういうのに憧れてるから』
「いや、まあ、うん。良い…のかも、ね?」
おいコラ青妖精。便乗するな。
そして、俺は否定の意味も込めて、今までの経緯――トラックに轢かれてから、川内に会うまで――を簡潔に語ったのだった。