屋根もなければ、壁も半分しかない家で寝ていると誰かの声が聞こえた。
薄く目を開けると最初に入ってくるのは、白みがかった夜の空である。
目を擦り、汗でギトギトのなった頭をかく。起き上がり、半目のまま誰が声を出しているのかを見ると、家を少し出たところで叢雲と川内が話していることに気づいた。
「あら、起きたのね。仕事よ。これを付けなさい」
そう言って手渡されたものは、小型の円と言うには少し歪で、よく見るとRとLが書かれてある。
その真っ黒いもの2つを何に使うのか分からず、叢雲に説明を求める。
「それ通信機を小型化したやつで、音声も送れるし受信もできるわ。ただ、故障しやすいし、遠くに行くほど音声は粗いしで、使い物にならないけど、あるだけマシだと思いなさい」
そう言って叢雲が見せてくるのは、この黒い通信機とは別物であるがおそらく通信機であろうものが付いた耳だ。
彼女のものは耳から口の方に尖っていて、いかにも音声拾います、と音声聞こえます、とが別れて見えるが、黒い通信機は尖っていない。
取り敢えず耳につけると、川内の声が右から聞こえる。左は故障しているのだろうか。
《左のものが送信、右が受信だって。何かかっこよくない!?》
川内はそう言いながら近づいてくる。あっ止めろ、こっち来ると…。
右耳の方から小さくフォンフォンと鳴り初め、次第に大きくなっていく。俺はいち早く左のものを外すが、川内は、何か変な音鳴ってるね、といってとらない。
川内、君の左耳は死ぬようだ。骨は拾ってやるよ。耳の骨ってあまりイメージないけど。
「ん!うるさ!痛っ!!」
そう、電話とかマイクとかでよく起こる現象、ハウリングだ。
部屋の隅に行き、ハウリングが収まるのを待つ。というか、別に待っているわけではない。電源ボタンが見つからないのだ。
取り敢えずハウリングは収まり、川内が涙目になっただけである。ご愁傷さまです。
朝日が丸く見えるぐらいまで上り、空は朝の色に染まっている。ググッと手を上に上げて体を伸ばし、息を大きく吸い、吐きながら体を縮める。
これを2回して、垢だらけの体を掻きむしり、関節をポキポキと鳴らす。
まずは指の付け根、指の第二関節、手首、肘、肩、膝、足の指、足首、首、背骨、そして腰。一連の動作をやり終え、もう一度深呼吸する。
さて、体を動かしたためようやく眠気も覚めた。本題に入ろう。
「さて、叢雲。何しに来た」
「本業の練習、兼、本番、かしらね」