「メリクリ、メリクリ〜」
そんな声とともに、執務室にノックもせずに入室してくる。
電子時計を見ると12/25と表示されていて、世間で言う所謂クリスマスである。
なるほど、それであればあの奇怪な服にも説明がいく。地が赤を基調にし、白で縁取られたクリスマスならではの服装。サンタクロースコスチュームである。
あざとい服装はその艦娘の性格や外見も相まって、他人の目からは魅力的に映るだろう。
「って、ちょっとぉ。鈴谷だけ出ても、意味ないじゃん」
そう言って扉の陰に隠れる。
中々帰ってこないため執務を再開すること十分。鈴谷と似たような服を着こなして、それでいて恥じらいながら艦娘が姿を表した。
「この熊野を気易く見るだなんて、θ提督も何か勘違いをしているのではなくって!?」
鈴谷にどうどうと宥められながら、若干泣き目でそう訴えてくる。相変わらず仲の良い艦娘だ。
そうそう、よく勘違いされるのだが、この鎮守府ではこのような格好を許容している。陰で堅物だの脳筋だのと言われているのは知っているが、それはあくまでも陸軍出身の提督だからであって、実際の鎮守府及び提督の評価ではない。と思っている。
現にこの鎮守府でもコスプレしている艦娘は多く、出撃や遠征に支障が出なければ自由である。但し、秩序というものはあるため、そこは弁えさせる。
「気易く、ではない。しっかりと見ているぞ」
もちろん、冗談も言える。というより、この歳で冗談の一つも言えなければ、それは本当に40年程生きているのか疑いたくなる。ただ、冗談だらけというのも人の信頼を失うだけなので、そこの駆け引きは重要だ。
「…ホント、θ提督のジョーダンって分かりづらいよね」
「ええ、正直に申し上げると、キモかったですわ」
「…明日の5時に熊野は執務室前で待機」
「なんで!?ですの!理不尽ですわ!」
上官に対してはもう少し言葉を選ぶことだ。この年末年始はどこの鎮守府も気が緩みがちで、そのしわ寄せがこの鎮守府に来ているため、秘書艦が決まるのは非常に都合がいい。
「ヘーイ、提督ぅ。メリー…クリッスマスだヨー!」
又もやノックもせずに入ってくるのは、英国の帰国子女こと金剛である。こちらはサンタクロースのコスプレはせず、いつもの服装での入室だ。
「さぁ、ワタシへのプッレゼンツを早く出すのデース」
「あっ、鈴谷にもプッレゼンツ、ちょーだいっ」
「鈴谷が貰うのでしたら、この熊野にも渡すものがなくって?」
艦娘は午前4時でも元気である。
無論、艦娘にクリスマスのプレゼントなど用意していなかったため、誰にも渡すことは叶わない。
金剛らは、ワタシだけの、と強調し、さぁ、んさぁ、と催促しているが、そのいがみ合いは「ない」の一言で撃沈した。
「それより、鈴谷の持つ袋の中に何か入っているようだが」
「んーん。ていとくはナニが入ってると思う?」
小悪魔のような笑みを浮かべ、袋の中を弄る。
これを若い時にされていたら、無理矢理にでも告白してしまっただろう。だが、それは若い時であって、こんな一回り以上の歳上の上官にするようなものではない。
「鈴谷、提督の手を止めてしまってはいけませんわ」
「そうデース。子どもが寝る時間はとっくのとうに過ぎてマース。ここからは大人のハリウッド映画並の夜の時間デース」
金剛はそう言って、手の甲で二、三回程空中を仰ぐ。
鈴谷はそれを受け、徐ろに窓の方に歩いていき、カーテンを勢いよく開ける。
「やー、朝日が綺麗…びゅーてぃーだねぇ。ハリウッド映画並のドロドロと絡み合う、ディープな大人の夜は、終わるのが早いねー!」
「ん"に"に"に"に"」
金剛があからさまに怒り、地団駄を踏み出す。
これは、今日の秘書艦は鈴谷だったが、金剛に変えておこう。
「よっし、熊野。提督にも熊野の可愛い姿、見せれたし、帰ろ♪」
「あっ逃げたデース。マテーイ」
五月蝿い話し声も遠ざかり、書類に目を通す。
そして、5時にはいつものように総員起こし、今日の大まかなスケジュールが放送によって知らせる。
《12月25日金曜日、朝の5時です。今日は毎月4週目の金曜日、恒例のカレーの日です。……》