補給途絶鎮守府   作:フユガスキ

89 / 254
いっちばーん(4)

「メリクリ、メリクリ〜」

 

 そんな声とともに、執務室にノックもせずに入室してくる。

 電子時計を見ると12/25と表示されていて、世間で言う所謂クリスマスである。

 

 なるほど、それであればあの奇怪な服にも説明がいく。地が赤を基調にし、白で縁取られたクリスマスならではの服装。サンタクロースコスチュームである。

 

 あざとい服装はその艦娘の性格や外見も相まって、他人の目からは魅力的に映るだろう。

 

「って、ちょっとぉ。鈴谷だけ出ても、意味ないじゃん」

 

 そう言って扉の陰に隠れる。

 中々帰ってこないため執務を再開すること十分。鈴谷と似たような服を着こなして、それでいて恥じらいながら艦娘が姿を表した。

 

「この熊野を気易く見るだなんて、θ提督も何か勘違いをしているのではなくって!?」

 

 鈴谷にどうどうと宥められながら、若干泣き目でそう訴えてくる。相変わらず仲の良い艦娘だ。

 

 そうそう、よく勘違いされるのだが、この鎮守府ではこのような格好を許容している。陰で堅物だの脳筋だのと言われているのは知っているが、それはあくまでも陸軍出身の提督だからであって、実際の鎮守府及び提督の評価ではない。と思っている。

 

 現にこの鎮守府でもコスプレしている艦娘は多く、出撃や遠征に支障が出なければ自由である。但し、秩序というものはあるため、そこは弁えさせる。

 

「気易く、ではない。しっかりと見ているぞ」

 

 もちろん、冗談も言える。というより、この歳で冗談の一つも言えなければ、それは本当に40年程生きているのか疑いたくなる。ただ、冗談だらけというのも人の信頼を失うだけなので、そこの駆け引きは重要だ。

 

「…ホント、θ提督のジョーダンって分かりづらいよね」

 

「ええ、正直に申し上げると、キモかったですわ」

 

「…明日の5時に熊野は執務室前で待機」

 

「なんで!?ですの!理不尽ですわ!」

 

 上官に対してはもう少し言葉を選ぶことだ。この年末年始はどこの鎮守府も気が緩みがちで、そのしわ寄せがこの鎮守府に来ているため、秘書艦が決まるのは非常に都合がいい。

 

「ヘーイ、提督ぅ。メリー…クリッスマスだヨー!」

 

 又もやノックもせずに入ってくるのは、英国の帰国子女こと金剛である。こちらはサンタクロースのコスプレはせず、いつもの服装での入室だ。

 

「さぁ、ワタシへのプッレゼンツを早く出すのデース」

 

「あっ、鈴谷にもプッレゼンツ、ちょーだいっ」

 

「鈴谷が貰うのでしたら、この熊野にも渡すものがなくって?」

 

 艦娘は午前4時でも元気である。

 無論、艦娘にクリスマスのプレゼントなど用意していなかったため、誰にも渡すことは叶わない。

 

 金剛らは、ワタシだけの、と強調し、さぁ、んさぁ、と催促しているが、そのいがみ合いは「ない」の一言で撃沈した。

 

「それより、鈴谷の持つ袋の中に何か入っているようだが」

 

「んーん。ていとくはナニが入ってると思う?」

 

 小悪魔のような笑みを浮かべ、袋の中を弄る。

 これを若い時にされていたら、無理矢理にでも告白してしまっただろう。だが、それは若い時であって、こんな一回り以上の歳上の上官にするようなものではない。

 

「鈴谷、提督の手を止めてしまってはいけませんわ」

 

「そうデース。子どもが寝る時間はとっくのとうに過ぎてマース。ここからは大人のハリウッド映画並の夜の時間デース」

 

 金剛はそう言って、手の甲で二、三回程空中を仰ぐ。

 鈴谷はそれを受け、徐ろに窓の方に歩いていき、カーテンを勢いよく開ける。

 

「やー、朝日が綺麗…びゅーてぃーだねぇ。ハリウッド映画並のドロドロと絡み合う、ディープな大人の夜は、終わるのが早いねー!」

 

「ん"に"に"に"に"」

 

 金剛があからさまに怒り、地団駄を踏み出す。

 これは、今日の秘書艦は鈴谷だったが、金剛に変えておこう。

 

「よっし、熊野。提督にも熊野の可愛い姿、見せれたし、帰ろ♪」

 

「あっ逃げたデース。マテーイ」

 

 五月蝿い話し声も遠ざかり、書類に目を通す。

 そして、5時にはいつものように総員起こし、今日の大まかなスケジュールが放送によって知らせる。

 

《12月25日金曜日、朝の5時です。今日は毎月4週目の金曜日、恒例のカレーの日です。……》

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。