「では、旗艦をよろしく頼むよ」
私はα提督と呼ばれる中尉の一時的な指揮下に入った。
高身長の切れ目で、威圧的な印象を受けるが、まだ若い。そのくせ、立派に軍人の匂いを付けているのだから、恐ろしいものだ。
もう一人の横に高身長な男性のβ大佐。彼は年相応の平凡な大佐だ。ただ、仕事を見ている限り、質も量もα中尉が優っている。
おそらく、決定的な違いは妖精さんが視えるか視えないかだろう。β大佐は確実に妖精さんを知らない。その点、α中尉はお菓子を渡しているまである。
経験上、心の余裕というのは大事だと思っている。
その点、α中尉は妖精さんを構っているため、それなりの余裕があるように見える。それでいて、気を張るべきところでは張っているため、慢心ではなさそうだ。
そして、最後に、少し鍛えているように見える男性はγ大佐というらしい。
β大佐と仲が良いようで、作戦が始まるまでは談笑していた。内容は酷いものであったが、私に矛先が向かなければそれでいい。
そして、作戦が始まるまでの約6時間は他艦隊との交流に時間を費やす。
今作戦以外でもどんな戦いでも、緻密な連携というのは功を成す。作戦を成功させるには、少なくとも味方のことは知っておかなければならない。
「川内。さっきはありがとにゃ」
「こういうのはお互い様だかんね。今夜、いい戦いが出来ればそれで良いじゃん」
β大佐の水雷戦隊旗艦の多摩。昨日出会ったばかりの仲である。
ただ、あの艦隊はどの艦娘も虚ろな目をしていて、まるで生きていないようだ。ありがとう、という言葉にもどこか違う感情が入っているように思える。
提督の言っていた、本当に助けられたいのか、という言葉を思い出す。
この生気を失った目が、人間への失望だったり、生きることの諦めだったりしたら、提督の言うとおり救けない方が良かったのだろうか。
否、そんなことは関係ない。私は私がやりたいようにやり、私のケジメは私がとる。
「あ、あの!…羽黒です。本日は、よろしくお願いします」
γ大佐のとこの羽黒である。少し私よりも背が高いので、縮こまっているとちょうど同じくらいの目線になる。
「うんうん。夜戦では頼りにしてるよ」
「先週以来?久しぶりにゃ」
どうやら多摩と羽黒は知り合いらしく、先週はどうのこうの先月はうんたらかんたらと話し合っている。γ大佐とβ大佐がどれほど仲がいいのか伺える。
ただ、気になるのは、羽黒の目は虚ろではないことだ。
あれだけ仲が良いのであれば、何かしらの共有点があるはずだ。β大佐の持っている部隊が水雷戦隊なのを考えると、この戦隊は各所を転々としているはずである。それに対しγ大佐はβ大佐の戦隊よりも重めの戦隊を持っている。重巡旗艦に軽巡2駆逐3と少しβ大佐よりも強い。練度が同じくらいなのであれば十中八九、β大佐が負けるだろう。
つまり、今回の夜戦火力トップはγ大佐率いる戦隊ということだ。よって殿を務めるのはγ大佐ということになる。私がしたかったなぁ、夜戦出来そうだし。
とはいえ、私も練度差が分からないほど馬鹿ではない。夜戦はしたいが作戦の成功を優先すべきなのは、理解している。
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―――――――――
作戦開始!という号令とともに囮部隊が出港する。その2部隊が出港して初めて、空母機動部隊が出撃できる。
時間差を設けて2部隊が出港するのを見届けてから、出撃の号令がかかった。
《水雷戦隊旗艦川内、出撃します!》
《くれぐれも被弾、いや轟沈しないように。以上だ》
被弾しないように、と言いかけてなかっただろうか、α中尉?!
そんなことを考えながら艤装を展開し、空母機動部隊の東側を並行する。そういえばなぜこの時間帯なのか詳しい説明はなかったが、大方被害が軽減出来るといったところだろう。少し不安なのは潜水艦といったところか。
「んで、そんときボノたそが、めっちゃ嫌そうな顔で、面倒くさいのが増えた、って」
「ふふっ、今のすごく似てるわね。流石は姉妹艦ってだけはあるかしら」
「いや、叢雲ちゃん。一応私達の妹でもあるからね」
「そうすると、電の姉でもあるのです?」
「それなら電さんが提督にとっている態度も納得です!」
「五月雨ちゃん、それは違うのです。あんなクソクソ言っているくせに、正月には箒を物置から引っ張り出す、煮えきらない奴とは違うのです」
「電さんよ、今、実の姉と、ついでに不特定多数のツンデレキャラを敵に回したぜ?」
「ついでなのです」
「開き直るなんて…長女として将来が心配だよぅ」
「そうでもなくない?」
「なくなくなーい?」
「なくなくなくなーい?」
「そこ!うっさい!」
「どうどう姉御。そんなにムラムラしてないで雲のようにゆったり行こうず」
「ムラムラしてな――」
「叢雲ちゃん、ムラムラしてんの?!そんなのお姉ちゃんが許さないよ!」
「ムラムラってそういうものじゃなくない?!」
「えっ、じゃあムラムラってどういうの、なんですか?」
「え、あの、えっと、その…」
「おお!叢雲様の珍しい顔!暗くて見えないけど!サミっちアメージングなファインプレーね!」
と、あまりにも場違いな空気である。
一応、編入された身ではあるが、旗艦としてこの空気は正しておくべきだろう。
「あ、あのさ、君たちちょっといい?」
「…え、アッハイ、何でしょう」
声を発した瞬間、5隻の目が全てこちらに向く。針のむしろというのか、とても気まずい。
そして最初に返事をした漣を見る。先の弛んだ空気はどこへやら、吹き付ける風とともに緊張した空気が入ってきた。一度深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。
「あのさ、敵艦隊への警戒と、臨機応変な対応を出来るようにしとかないといけないんじゃない?」
自分で言っていてとても曖昧だと思う。
けれども、α中尉が今までどんな指示を出していたかなど知らないので、そこに別の意見を持ち込むのは些か、運用する側から考えれば危険だろう。そういう意味では割と万能である。
「あ、いえ、一応電探の反応は見ていますが、確かに気が緩みすぎていました。ごめんなさい」
「いや、私に謝られても…結局沈むのは自分だし、謝るならα中尉じゃない?」
何か我ながら面倒な上司の気分だ。怒るけども謝るな。そして、それについて失敗しなければ私のおかげだと言う。
それに対し提督はそういうのも考えた上で答えを出しているのだろう。彼と接していてストレスを感じない。むしろ、無さ過ぎて怖い。一応、我慢させてるのかと思い、煽って喧嘩をふっかけたが、どうやら我慢はしていなかった。
それに、我慢とかそういうのをひっくるめて感情とすると、提督から感情を感じない。至って無表情。白露といるときに限って怖い。
嫌味のようだが、あの提督からそこにいるだけで感情を引き出すなど、とてもすごい。私にはまだできない。
「あっ、あと、開き直るわけじゃねっすけど、毎回ご主人様が敵艦隊の位置を言ってしまうんすよ。これで漣達を正当化するわけじゃねっすけど、一応耳に入れておきたいかなって」
へぇ〜!今は現場で電探とか駆使しなくても、司令部で敵艦隊を見つけることが可能なんだ!す、すごい。
って、そんなこと可能なわけない。司令部には予測可能ものと予測不可能なものがある。結局、全ては現場の私達が敵艦隊を捕捉し、迎撃しなければならない。
《旗艦川内、そのまま15度右に旋回し、直進すると敵艦隊と交差するはずだ。迎え撃ってほしい》
《え?電探には感ないけど…》
《問題ない》
本当に敵艦隊の場所言っちゃったよ、この人。いや、でもそんな根拠もないことがあってるとは思えない。それに例えあっていても、こちらは水雷戦隊の旗艦の身。いくら夜戦がしたくても、全員轟沈を犠牲にするほど馬鹿でない。もう少し確実な情報があればいい。
《意見具申、よろしいでしょうか》
返事が返ってこない。ひと呼吸おいて、もう一度言おうとしたその時。
「あー、川内さん。うちのご主人様がそこに行けって言うなら行った方がいいです。ご主人様のそれ、外れたことがないですから」
「いや、だけどねぇ」
「川内さん、α司令官さんも一応、司令官さんなのです。"過去"の記録を元にこの結果を導いているのです。ただ、それが電たちのシマ以外の艦娘には言いづらいのだと思うのです」
そう言われれば納得するしかない。
後ろの方で「アイツが敵情報を積極的に集めてたとこ見たことないわね」「中尉という役柄、入ってくるものがないんだよ、きっと」みたいな会話をしているが、気にしないでおこう。
でもなぁ、中尉の人間が下した決断が英断になるわけでもないだろう。なんと言ったって中尉である。
中尉と言えば整備士やら航空兵のパイロットやらで普通は指揮官にはならない。だというのに、γ大佐やβ大佐は司令官でなく司令であるが、少尉やα中尉が司令官であるのはどういうことだろうか。
まぁ、これに関しては特例らしいので無理矢理納得したが、それでも権力が上がると能力が上がるわけではない。
《じゃあ、敵艦隊の情報だけでも》
《一応、潜水艦がいないことは確認している。また、補給目的の艦隊であるため、軽めの艦隊であると考えられる。ただ、用心は忘れないように》
「ご主人様はなんと?」
「補給艦が一隻以上の艦隊だって」
「じゃあ、パパっとやっつけちゃいましょう」
後ろの吹雪たちも「やっつけちゃうんだから」と息まいている。それでも旗艦が動かなければ動けないため、実質、決定権は私にある。
とはいえ、もうほとんど私の心は決まっている。もちろん、夜戦だ。敵情報も申し分ないというか、有難いほど貰っている。本来であれば、提督に言われれば、即行動が理想であるにも関わらず、だ。
けれども、私の引っかかる要因、それは、軍全体の作戦行動である。
私達は空母機動部隊を基地まで護衛するのが目的である。そのため、何かが起きたときに、本当はそこにいるはずの我が艦隊が、α提督の命令でそこにいないとなると、護衛は完全に破綻する。
一応、空母にも夜戦用の装備を積んだとはいえ、戦力が多いに越したことはない。
ならば、ほぼ確実にいるだろう敵艦隊を迎撃せよというα提督の命令と、大元の作戦に支障が出ないように管理しやすい状態にするのと、どちらが重要だろうか。
本音を言えば夜戦したい。けれども作戦を蔑ろにするのは旗艦として、三水戦として許せない。
「――ッ電探に感あり!6――」
《来たか》
電が言い終わる前に、α提督がそう言った。
《変更だ。α艦隊は敵艦隊の迎撃準備》
《はっ!》
命令とともに敵艦隊に近づく。
海を蹴り、飛沫に体を濡らしながら、血が滾ってきた。これで心置きなく戦える。
あの敵は明らかに襲撃を目的としている。何故ならばこちらの電探の範囲内に入ったからだ。それで十分である。
よしよし、楽しくなってきた。今からでも心臓がうるさい。ばったり出会えるであろう敵。練度はばっちりとは言えない。それでも偵察機を電探に変えたことにより、多少なりとも砲撃は当たるようになる。
《こちら、旗艦川内!敵艦隊発見す!戦艦一隻、巡洋艦二隻、他駆逐艦と補給艦の計六隻!援軍を求む!》
何と、戦艦とは凄く良い。あのタフネス。重い一撃。どれをとっても優秀だ。
そして今、私達には夜という味方がいる。あの戦艦を一撃で重傷を与えなねない砲雷撃。実に良い。
《戦艦や巡洋艦に構うな。駆逐艦と補給艦が優先だ。砲撃を避けて、遅延させよ》
《……了解!各艦に継ぐ、複縦陣をとり敵巡洋艦以上の砲撃を警戒しつつ、補給艦及び駆逐艦を優先的に撃破せよ》
まぁ、仕方ない判断だ。はぁ。
そもそも砲撃を避けろとはどういうことだ。私は可能だ、と言えたら良かったが、生憎練度が足りない。
そして、ここで複縦陣を選ぶメリットは命中率の向上だ。火力で考えれば、駆逐艦のみが相手なので少し下がろうが問題ないだろう。
ならば、ある程度の打撃力ダウンは許容できる。
《やったぁ、待ちに待った夜戦だぁー!》
だが、私は勘違い、いや思い違いをしていた。海戦というのは単艦で仕事はしづらい。そして、この水雷戦隊は私のみ急遽所属したものだ。
その点を忘れ、いつものように、と相手の最後尾に攻撃を仕掛ける。
さて、駆逐艦達は、と横目に見ると……ついてきていない。
私は単縦陣の敵艦隊に反航戦になるように動いたが、駆逐艦達は敵の向かいに立ち、まるで敵艦隊を一つの矢とすると、その的のような位置で待ち構えている。
「川内さん!イ級を2隻、お願いするのです!」
電はそう言って、後尾にいるイ級を2隻を落伍させ、私もそれに便乗してイ級に牽制する。
とはいえ、電たちは大丈夫なのだろうか。旗艦のみが離れているという状況。下手すれば駆逐艦5隻では太刀打ちできなかった場合、沈むことになってしまう。
「っと、こっちもかまけてらんないね」
駆逐イ級の2隻が上手い具合に挟撃しようとしている。
練度が低くても、夜戦と素の性能の差で対処は可能である。それがただの駆逐艦であれば。
よく見るとその2隻は赤い光を纏っている。その光が表す意味は、
「elite?!」
eliteはマズい。少なくとも倒しきれない。しかし、直ぐに増援は来ない。
他の艦娘は戦艦や巡洋艦を相手に砲弾を避けている。ってあれ、避けるというより攻撃をさせてない気がする。普通避けると言ったら速度の緩急をつけ、方向を転換し翻弄することを言うが、どちらかというと敵艦隊を一つにまとめ、射程の長い戦艦の懐に潜り込み主砲を撃たせない。
もちろん艦娘も撃てない距離なので、逃げ回ることしかできない。つまり、完全なる遅延行為である。
けれでも撃てないのは主砲であり、機銃はそうではない。殆どダメージがないが、それでもカスダメにはなる。
なるほど、だから、私のみが戦うのか。
私以外は連携して動いている。余った私が、余らせた敵艦と対峙する。これがα提督のやり方のようだ。
けれど、やり方が分かったところで、勝てるかというとそうではない。
《援軍は?!》
右に左に動きつつ、精度の高くない砲撃を放ち、敵の手前に落ちる。
魚雷を装填し、居てほしくない場所を牽制する。
やはり、攻撃力も精度も高くない。また、夜戦が続けられて楽しい。
《β艦隊もγ艦隊も交戦中。逆に彼らも援軍を求めている》
つまり、送れないということか…!
《機動部隊の進路変更は?!》
《既に行っている。もう少しの我慢だ》
護衛対象に危険が及ばなければ、適当なところで切り上げてもいい。だからこその遅延。けれども、この艦隊は私達じゃ手に負えないはずのもの。何故か今は持ち堪えているだけの、危険な綱渡り状態である。
「は、あぁぁあぁ!」
イ級eliteの砲撃にあたり、吹き飛ばされる。ダメージは中破だろう。まだ、やれる…ッ。
やっぱり、夜戦だからか、当たった場所が悪い。そこも夜戦の醍醐味ではあるが、左脇腹に大きな火傷がある。
「って、そういえば」
夜戦の面白さを教える、と言って耳につけていた通信機。提督との繋がりが…ない。
いつ、落としてしまっただろうか。いや、そもそも解説できるような、余裕のある場面ではない。気にしていられない。
《こちら、羽黒。私以外大破、私は中破です。これ以上の戦闘の継続は出来ません。撤退の許可を》
え…?どういうことだ。被害状況からあちらの方面の敵艦隊が明らかに戦力が高い。
《β水雷戦隊旗艦多摩、全員が大破にゃ。申し訳ないにゃ》
大破…?おかしい、明らかにここと比較して敵艦が強い。
《α水雷戦隊の川内、旗艦中破、他無傷》
何かが違う。ここだけ被害が少なすぎる。というより、他の被害が尋常じゃない。たった数分の戦闘だ。それだけでこの被害状況。
《おい、ちょっと貸せ。艦娘、聞こえるか。敵艦隊の編成をもう一度言ってみろ》
β大佐の声が聞こえる。どことなく怒っているような声色。きっと、中尉程度に自分が越されて苛立っているのだろう。
《戦艦一隻、巡洋艦二隻、駆逐艦二隻、補給艦一隻です》
《eliteやflagship、改は?!》
《駆逐艦二隻どちらもeliteで、他は分かりません》
《そう、か》
《α中尉だ。川内、機動部隊は撤退した。我が艦隊も迅速に撤退するように》
撤退命令。
もう少し戦っていたいような思い残しはあるが、電たちに撤退を命令する。
よし来た、とばかりに魚雷をばら撒き難なく撤退した。微妙に慣れている感がある。
「お疲れ様です。α司令官さんは他に何か言ってましたか?」
「いんや、何も言ってないよ」
何だろうこの違和感は。何かが違う。
何故、深海棲艦は3艦隊で空母機動部隊を襲ったのか。何故、私達のところだけあんなにも弱かったのか。何故、α提督の言っていた敵艦隊は姿を現さなかったのか。
おかしい、何かがおかしい。敵艦隊が3隊だったのは偶然としよう。私達のところが弱かったのも偶然だ。でも、もう一つの敵艦隊が現れないのはおかしい。
最後のがおかしいと、その艦隊に戦力を分担したせいで私達のところが弱くなった、と考える事ができる。けれども、それなら平等にすべきでないのか。それとも、私達が一番弱いとバレている…?
バレていると、3艦隊なのも納得がいくし、私達のところが弱いのも納得出来る。しかし、もう一つの艦隊が現れないのはどういうことだろう。
「あっ基地が見えてきました」
私はそれまで考えていたことを打ちやめにする。取り敢えず補給でもして、入渠は後回しだろうから包帯でも巻いておこう。
お、よく見れば空母の連中も帰ってきている。他の艦娘は見えないため、私達が最初だろうか。
いや、どうやら多摩達が先のようだ。港に近づき、艤装を解除する。
「あ、お帰りにゃ。というか、本当に無傷にゃ」
今まで死んだ顔をしていた多摩が、少しばかり驚きの表情を見せる。
「さっきの無線の話、本当かにゃ?」
「そうだけど…どうしたの?」
「いや、多摩のとこも同じ編成だったに。もしかすると、羽黒達も同じかもしれないにゃ」
え…。同じ編成?いや、きっと見間違えたのだろう。重巡と戦艦を見間違うことはそれなりにある。きっと、戦艦だと思っていたのも巡洋艦だったのだ。そうに違いない。
「取り敢えず、それぞれの報告に向かうにゃ。またにゃ」
「うん、あとでねー」
多摩と別れて、駆逐艦たちを見る。何度見ても無傷だ。
「川内さん、行きましょうっ」
「君ら、すごいね。いつもこんな感じ?」
「んー、いつも、じゃあないかなーって。川内さんがいたぶん、楽でしたぞ」
「お、生意気なこと言うじゃん」
笑いながら右手で漣の頭を乱暴に撫でる。電たちはそれを不思議そうに眺めている。
「どうしたん?」
「いえ、川内さんが電達の知っている性格とちょっと違うと思ったのです」
「どうゆー風に?」
「もう少し、男の人っぽかったのです。え、あ、失礼ですよね。ごめんなさいなのです」
そうだろうか。まあ、艦娘というのも魂の一部に過ぎない。それなりの個性が出ても仕方ない事なのだろう。
――ドォン!!
建物の方から爆発音が聞こえる。
バッと海を見ると遠くの方に深海棲艦が見える。
「オノレ…イマイマシイカンムスドモメ…」
あのオーラ。存在感。見た目。間違いない。姫だ。
泊地棲姫だ。
《川内。この通信器を電に渡してくれ》
直ぐに機械を取り外し、電に渡す。電は何かしらの指示を受けている。
《緊急放送、緊急放送!大破艦以外の方は全て、深海棲艦の撃退に向かってください。細かな指示はそれぞれの提督に一任します。こここそが私達艦娘の連携を見せるときです!》
その放送の最中、電ら駆逐隊は駆け出し、海を進んでいった。
私は中破。練度も低いため、ダメージは通らないと考えていいだろう。知っている中では、攻撃可能な艦娘は羽黒と私と先程出た駆逐隊と空母の夜戦参加可能艦である。
対して深海棲艦は泊地棲姫、浮遊要塞が5個。
ヤバい、絶望できる。戦艦がいれば話が違う。…そう!囮艦隊はどうしたのだ。あの艦隊が戻ってくればきっと。いや、だからそれまで耐えろということか。よし、よし!
「川内、出撃する!」
心躍る夜戦。大破になった瞬間。攻撃を受けた瞬間。夜戦が終わる。ふふふ、楽しみだ。背水の陣は燃える。そうでなくても燃える。
主砲を撃ち、効かない。魚雷を放ち、効かない。私の攻撃は意に返さない。
では、もっと撃とう。攻撃を避ける。浮遊要塞が厄介だ。近づき、遠ざかり、右に反転、左に回転。私が避けきれるのはおそらく、あの電たちのお陰だろう。
「これ以上、やらせませんっ!」
そう意気込んで主砲を鳴らすのは羽黒だ。やはり火力が違う。浮遊要塞を一つ撃破した。この調子だ。
「川内さん、あとに続いてください!」
羽黒の撃ての合図で、方角を合わせて撃つ。よし、それなりに入ったはずだ。
「次!一斉射!」
主砲の数は羽黒のほうが多い。私が一回撃てば、彼女は二回撃てる。よし、いける!これなら!
不意に、何かが吹っ飛ぶ。それは海であり、羽黒であり、泊地棲姫だ。
違う。私が吹っ飛んだ。両足がなくなった。ハハ、動けない。
「川内さん!」
羽黒がこちらに来る。しかし、雨のような砲撃により行く手は阻まれる。大丈夫、沈みやしない。朝が来なければ、沈むことはない。
首だけを動かし周りを見れば、駆逐隊は無傷で砲撃し、羽黒は空母の少しの夜攻とともに浮遊要塞を攻撃している。
あっ、羽黒も大破した。後は駆逐隊にどうにかしてもらうしかない。羽黒や私は朝になれば、例え駆逐艦の砲撃であっても沈むだろう。けれども、朝になれば空母が満足に攻撃できる。
自分が生き残れる万策は尽きた。一刻も早く日が昇り、空母が攻撃できるのが一番いい。轟沈2隻など安いものだろう。
「はは…」
自嘲気味に笑い。半分となった体を見る。若干燃えている体である。夜戦ができる体ではない。
「速度と火力…ふふ、夜戦開始よ!」
そんな声が戦場に響く。頭を持ち上げて周りを見渡せば、1つの艦隊が泊地棲姫に対峙している。
どうやら、旗艦がマイクを握っているようだった。
「んじゃあ!そろそろ本気だぁす!」
マイクをもって宣言するようにそう言う。次の艦娘に渡し、
「うぇ、わわ、危なかったです。あ、敵艦隊発見致しました! 全艦砲戦準備、宜しくお願い致します…」
尻すぼみにそう言い、次の艦娘に渡す
「巻雲、突撃します!」
次の艦娘に
「全艦突撃!鳥海に続いてください!」
次の
「このローマについてきなさい、全艦突撃!」
戦艦は大迫力に砲塔が火を吹き、重巡も負けじとばかりに砲撃する。駆逐艦も砲撃をし、確実に浮遊要塞を沈めていく。
本当にあっという間に、あの泊地棲姫を沈めてしまい、私達のような大破艦を救助してくれている。
「この横須賀鎮守府の頭脳に間違いはありませんでしたね!」
「はいはい、霧島さんすげえー。…つかれた、寝よ」
ローマと望月を除いた艦娘は全て改二であり、改めて改二の強さを思い知らされた。…あの時は対価として要求したけど、私も改二になろうかな。
「あれ、多摩は…?」
港の近くにいない。どうやらどこかに行ってしまったようだ。ドックだろうか。
私も、もう帰れと命令されてしまったので、入渠してから帰ることにする。とんぼ返りも良いところだ。
戦闘シーン、もう少し書けるようになれたらなぁ。