疑心暗鬼提督のブラック鎮守府再建   作:ライadgj1248

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 今回は提督の知らない裏のお話です。提督と艦娘以外の視点は初めての試みです。


114話(大本営人事会議)

 この国において鎮守府はかなり特殊な場所である。通常兵器で撃破が困難な深海棲艦に対抗し得る唯一の存在である艦娘を保有する鎮守府は国防の要だ。しかし鎮守府を管理しているのは日本の防衛を担っていた自衛隊ではなく、大本営という新しい組織だ。

 元々は艦娘と提督という未知の存在を軍に組み込む法律が存在しなかった為、新たな枠組みとして大本営という組織を作り、国が鎮守府を管理しようとしていた。

 だが提督の才能を持つ者は希少な存在で、鎮守府の運営には提督が必要不可欠だ。そんな提督達の一部が国の安全確保を背景として、提督の権利を主張し始める。要は国を守って欲しければ自分達を優遇しろと言うことだ。

 結果として提督を管理するはずの大本営は、日本政府の手から離れてしまい、有力な提督達が管理する組織と成り果てた。

 そんな大本営は現在絶妙なバランスで成り立っている。まず舞鶴鎮守府の鶴野提督と呉鎮守府の久藤提督が率いる2大派閥がある。犬猿の仲である二人の派閥は拮抗し、常に小競り合いを続けている。その両者の小競り合いが抗争へと発展しない理由はいくつかあるが、まずは憲兵隊の存在だろう。

 憲兵隊は提督の才能の無い者達の集団で、名目上は不正な行いをした提督を取り締まる組織だ。しかし実際は提督を守ろうとする大本営に所属しているので、上手く機能していない。だが鎮守府の門番や周辺の警備など、対人間のトラブルを解決する部署として一定の地位を得ている。そこのトップである黒川が、鶴野提督と久藤提督の争いに介入して、どちらか一方が強くなりすぎないように調整している。

 そしてもう1つの大きな理由は横須賀の海原提督と佐世保の熊井提督の存在だ。両者は政治への関心が低く、派閥としては大きな力は無い。しかし武力に関しては絶大で、姫級の討伐は二人にしか出来ない。なのでもし仮にこの二人を敵に回してしまった場合、深海棲艦の襲撃を独力で止められない可能性が出てくる。よってこの二人に目を付けられるような派手な動きは出来ない。

 

 こんな厄介な状況の大本営の会議室に、1つの議題が舞い込んだ。会議室には数人の人間と、遠方との連絡をとるための通信機が設置してある。今回の参加者は人事課の中井、憲兵隊の黒川、鶴野提督、久藤提督、熊井提督の側近、横須賀鎮守府所属の大淀の6人だ。

 

「それでは緊急の人事会議を始めます。進行役は私、人事課担当の中井が務めさせて頂きます。今回の議題は壊滅した長門鎮守府の件です。長門鎮守府の原田提督が殉職されたので、取り急ぎ後任の提督を選出して、防衛網の再構築が急務となっております。何かご意見のある方はいらっしゃいますか?」

 

「考えるまでもなかろう。長門鎮守府は日本海側の鎮守府、つまりわしの管轄じゃ。だからわしが後任の提督を選んでやるから任せておきなさい。」

 

「おいおい鶴野のじいさんよぉ?今回長門鎮守府を壊滅させるって失態を犯しておきながら、任せておきなさいなんて冗談が過ぎるぜ?とてもじゃないが任せておけねぇなぁ。」

 

「ここぞとばかりに調子に乗るでない。今回の相手は集積地棲姫の指揮する艦隊じゃ。普通の提督が相手をするには荷が重かろう。殉職してしまった原田提督を責めるのは酷というものじゃ。」

 

「だが集積地棲姫は陸上型の深海棲艦だ。直接鎮守府に攻めて来るわけじゃねぇ。報告では長門鎮守府へと攻めて来たのは4艦隊で最上位の個体はル級eliteだろ?迎撃出来てもおかしくない戦力のはずだ。」

 

「そこに関しては直前にかなり艦隊を消耗してしまっていたようでのぅ・・・嘆かわしい事に先日北九州鎮守府に着任した葛原提督に足を引っ張られてしまったようじゃ・・・新任で士官学校を卒業出来ていない小僧ゆえ、周囲の鎮守府との連携の取り方を理解していなかったようで・・・原田の奴も苦労したようじゃ・・・」

 

「ほうほう?新米の提督の協力が無ければ鎮守府の防衛も出来ない無能だったって事か?そんな奴に鎮守府を任せてたのはじいさんの責任じゃねぇのか?」

 

「口を慎め若造が!!殉職した者を侮辱するなど罰当たりじゃ!!」

 

「その殉職ってのも勇敢に戦った結果なら尊敬出来るが、尻尾巻いて逃げ出した上に殺されたんじゃ情けなさ過ぎて笑えてくるぜ。」

 

「・・・なんじゃと?」

 

「旧阿武町付近で大破した軍用車両が発見されている。深海棲艦の砲撃で吹き飛んで、中の人間は原型を留めていなかったが、散らばった遺品の中に軍刀と拳銃が発見されて、原田提督の持ち物だということが確認された。つまり原田提督は深海棲艦の襲撃にビビって逃げ出したって事だ。」

 

「それは本当に原田提督の持ち物で間違いないのかのぅ?」

 

「軍刀と拳銃に刻まれた番号を確認したんだ。言い逃れは出来ねぇぞ?まさか軍刀と拳銃が盗まれて、軍用車両に乗って逃げられたなんて冗談は言わねぇよな?」

 

「もちろんそんな馬鹿げた事は言わんよ。そこまで遺品が確認出来れば原田提督本人で間違いはあるまい。・・・それで?」

 

「だからそんな負け犬をまた長門鎮守府に配属されたら困るって言ってんだよ。だから俺が目をかけてる奴を着任させるべきだ。」

 

「ふむふむ、何か勘違いしてはおらんか?」

 

「・・・なんだと?」

 

「勝てない相手に逃げて何が悪い?提督とは希少な存在じゃぞ?街への被害が出てしまった事は残念じゃが、提督の才能を持つ者の命を守るほうが重要じゃろうが?まして艦娘達はまた建造すれば良いだけじゃ。囮として使って何が悪い?」

 

「開き直りやがったな糞じじい!!」

 

「口を慎め若造!!」

 

「まあ、どうせ一般市民からのてめぇの信頼はがた落ちだぜ?この件が漏れれば、いざという時に逃げる提督を誰が信頼するかって話だ。」

 

「ふん、情報操作くらいいくらでも出来る。」

 

「だが今回被害を受けた長門市民が納得してくれるだろうかねぇ?」

 

「・・・そんな情報を流せば大本営の信頼を損ねる事になるぞ?」

 

「信頼を損ねるのはてめぇだ。」

 

 会議とは名ばかりで、鶴野提督と久藤提督の口論が続いていたが、ようやく膠着状態になった。二人はにらみ合いをして沈黙し、横須賀の大淀と熊井提督の側近は我関せずといった雰囲気だ。そこでようやく動いたのは憲兵隊の黒川だった。

 

「お二人の主張は理解しました。しかしこのままでは話がまとまらないでしょう。そこで1つ妥協案を出させて頂きます。今回長門鎮守府の原田提督に問題があったと思いますが、久藤提督の傘下の者を長門鎮守府に着任させるのは、鶴野提督が許容されないでしょう。そこで無所属の新人を着任させる事で手打ちとしませんか?」

 

「・・・北九州鎮守府の時と同じ事をしようってのか?」

 

「ふむ、続けなさい。」

 

「そもそも長門鎮守府は機能不全に陥っておりますし、長門市の被害も大きく復興には時間と労力がかかるでしょう。なので面倒な仕事は面倒な新人に押し付けて、今回は多少非のある鶴野提督が譲歩する形で手打ちとしてはいかがでしょう?」

 

「そうじゃのう・・・その辺りが落としどころかのう?」

 

「ふん、まあ、良いだろう。それで?人選については考えがあるんだろうな?」

 

「ええ、もちろんです。今回私が新しい提督に推薦するのは・・・」




 今回は誰かの視点ではなく俯瞰視点?でのお話でした。かなり慣れない形式なので会話ばかりになってしまいましたが、ご容赦ください。

―追記―
 川内Ifを更新しました。

もうすぐ一周年と言う事で久しぶりにアンケートをしたいと思います。この作品のキャラでの人気投票的なやつです。是非ご参加下さい。

  • 主人公葛原提督率いる問題児四天王
  • 大淀
  • 長門・陸奥
  • 第七駆逐隊
  • 川内・神通
  • 明石・夕張・間宮・鳳翔
  • 第六駆逐隊
  • 北上&大井
  • 青葉&衣笠
  • 金剛姉妹
  • 伊19・伊168
  • 赤城&加賀
  • 翔鶴&瑞鶴
  • 白露型姉妹
  • 島風&雪風
  • 天龍&龍田
  • 龍驤・五十鈴・球磨・摩耶・高雄
  • 朝潮・木曾・陽炎・不知火
  • 叢雲ちゃん率いる横須賀艦隊
  • 俺の嫁が出てねぇぞ!!早よ出せや!!

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