「あ、あの・・・ご主人様。」
曙と共に祝勝会を途中で抜けて執務室に戻ろうとしていると、廊下で背後から漣に声をかけられた。振り返ると朧と潮も一緒にいる。漣はなんだか挙動不審で、朧と潮はいつもより落ち着いているようだ。漣はよく分からんが朧と潮は少し慣れてきたのだろうか?
「どうかしたか?」
「いやその・・・あれがあれしてあれなんで、漣達もご主人様のお手伝いしようかなぁと思いまして。」
「・・・あれでは何も伝わらないのだが?」
「いや、真顔でマジレスされるとかなり辛いのですが・・・」
「ん?マジレスとはなんだ?」
「ああえっと・・・助けてオボえもん!!」
「え!?アタシ!?オボえもんって何!?」
漣が困って朧に泣き付くが状況がさらに混沌としてきたな。私もやることがあるのであまり暇ではないのだが・・・
「ああもう!!らちが明かないわね!!朧、漣だと話にならないから、あんたが説明してよ。」
「そう言われても最初に漣が言ったけど、何か執務で手伝えることありませんかってだけ。」
「そうですぞご主人様!!漣達第七駆逐隊はきっとお役に立てるはずであります!!」
「ふむ、理由は分からないが執務の手伝いをしたいという事か?お前達は執務の手伝いが出来るのか?」
「なにをおっしゃるやら。確かにぼのたんは第七駆逐隊一仕事熱心ですが、おぼろんも真面目さでは負けておりませんぞ?それと潮ちゃんはちょっと怖がりですが、細かい事に気が利く優しい娘なので、ツンツン艦のぼのたんじゃ気が回らないところをカバーする事が出来るのです!!」
「誰がツンツン艦よ!!」
まあ、姉妹艦だから多少贔屓目に見ているのかもしれないが、手伝いくらいならやらせてみても問題ないだろうか?金剛に執務を任せた時も姉妹艦がサポートをしていた。それを考えると曙のサポートとして第七駆逐隊を動かせるように教育するのも悪くないか?
「ふむ、それで漣は?」
「えっと・・・とっても可愛いです♪」
なにかポーズを決めてアピールをしてきたのだが、執務において役に立つのだろうか?
「・・・・・・そうか。」
「・・・ごめんなさい冗談です。なにとぞこの漣にもう一度チャンスを下さい。」
「・・・それで漣は?」
「コミュ力が高いので執務室が明るい雰囲気になること間違いなし!!ああ!?ちょ!!雑用でもなんでもやりますから見捨てないで!!と、とにかくなにか漣達でも出来そうな仕事はないでしょうか?」
ふむ、漣達でも出来そうな仕事か。
「とりあえず正門の憲兵達のところに行って、なにか書類が届いていないか確認してくれ。」
「ほいさっさ~♪漣にお任せあれ。おぼろんと潮ちゃんは先に執務室に行ってて♪」
そう言い残して漣は走り去って行った。ではさっさと執務室に行くとしよう。
――――――――――――――――――
「ご主人様、お待たせ致しました♪」
執務室で既に届いていた質問状に目を通していると、漣がお使いから戻って来た。手ぶらで走って行ったにも関わらず、カバンに封筒をたくさん入れて持って来たようだ。
「ご苦労。そのカバンは?」
「書類が多いから大変だろうって、憲兵の方が貸してくれましたよ。朝に居た人は無愛想だったけど、今居る人は良い人みたいですね。なんだか機嫌が良さそうでしたし。」
「ほう、憲兵がそんなことをしたのか。」
この北九州鎮守府の正門を警備している憲兵隊は久藤提督の息がかかった奴等のはずだ。そしておそらくは前任者の時代では汚職に加担していたはずだ。前任者も憲兵隊と揉めるのは避けたいだろうから、金を握らせるなり艦娘に接待をさせるなりしていたと考えるのが妥当だろう。それが私が着任してからは業務上の関わりだけで、それ以上の接触は避けている。そんな状態の憲兵が艦娘相手に気を使うような事をする理由はなんだ?
「あ、あの~ご主人様?難しい顔をされてますがなにかまずい事しちゃいました?」
「ああ、いや、大丈夫だ。憲兵から他に何か言われたりしたか?ちなみにどんな奴が対応したか覚えているか?」
「ええっと、カバンは何か用事がある時に返してくれれば良いってくらいですかね?対応してくれたのはご年配の憲兵さんで、わりと気さくな方でしたよ。」
ふむ、それなりの歳で気さくな憲兵か。それだけでは狙いが分からないな。艦娘経由で私に取り入ろうとしているのか?それとも艦娘に汚職関係で不利な証言をされたくないからか?ただ単にそれなりの歳だから問題を起こすのを嫌って、友好的な振る舞いをしただけだろうか?だがこれ以上は情報が足りないから考えるだけ無駄だな。とりあえずそんな憲兵が居る事だけ覚えておこう。
「分かった。では書類を貰おうか。」
「はいどうぞ。ちなみにこれってなんの書類なんですか?かなりの量がありますけど。」
「明日会見をするからその質問状だな。少し読んでみるか?気分が悪くなる事間違いなしだ。」
ちなみに曙はさっきから私と一緒に夕方までに届いていた分を読んでいて、明らかにイライラしながらまとめている。
「うわぁ・・・真顔でそんな嫌な事言わないで下さいよ・・・怖いもの見たさで少し気になりますけど。」
「そうか、朧と潮はどうする?」
「えっと・・・じゃあ漣と一緒に・・・」
潮はちょっと嫌そうに苦笑いしていたが、漣に自分が読み終わった書類を渡すと、漣達と一緒に読み始めた。
「どれどれ?・・・・・・うわぁ・・・」
書類を読んでいた漣が露骨に嫌そうな顔をしていている。朧も段々と目付きが険しくなり、逆に潮は悲しそうな表情になる。
「ねぇご主人様、これって質問と言うよりご主人様の失態を追及している感じじゃないですか?というか長門鎮守府が崩壊したのをご主人様のせいにされてますよね?」
「ああ、長門鎮守府の元提督の責任を私に擦り付けたい奴等が考えた会見だからな。記者を買収しているだろうからそんな質問ばかりだぞ。」
主な内容としては『長門鎮守府に虚偽の情報を流して損害を与えたのはどういう意図があった行動か?』『長門鎮守府の救援要請に応えなかったのは何故か?』『長門鎮守府を崩壊させて長門市に大きな損害を与えた責任をどうやってとるつもりなのか?』等の長門鎮守府関連のものが多かった。あとは前任者の大森提督の件や平川市長の件を追及するものもあるし、こういう派閥争いが原因で今回のような事態が起こったのではないかという追及もある。ついでに大手の新聞社数社から『我々の取材を断っていたのは、何か国民に対してやましい事があるのではないか?』なんてものもあったな。
「えっと・・・これってご主人様は大丈夫なんですか?」
「ああ、まともに答えるつもりはないから問題ないな。」
「うわぁ・・・ご主人様もご主人様ですね。」
いや、こんな妄言に一々答えてやるのもバカらしいと思うのだが。とりあえず漣が持って来た方も目を通しておくか。質問状の内容にあれこれ言いながら読んでいる漣達を一旦おいて、曙と共に未確認の質問状を読んでいくが・・・
「ふむ、少し今までのものと毛色が違うな。」
相変わらず自分の責任を追及しようとするものが多いが、同時に長門鎮守府の原田提督の責任を追及するものが増えている。今回の一件は鶴野提督の指示で仕組まれたものだと思っていたが、もしかしたら久藤提督が妨害の為に動いたのだろうか?
「そうね。こういう質問に答えてあげれば提督が責任を負う必要がないって伝わるんじゃない?」
「大本営から口止めされるだろうがな。とりあえず原田提督の責任追及をしたい記者も来るというのが分かれば良いさ。」
「ふーん、そんなものなのね・・・ッ!?通信が入ったわ。」
「川内か?早いな。」
「いいえ、舞鶴鎮守府の鶴野提督からよ。」
はぁ・・・また面倒事か・・・
「・・・分かった。代わろう。」
余談ではありますが、この作品は主人公視点で進む事が多いです。なので勘違いや深読みのし過ぎなどのミスもありますし、判断ミスをしている場面も普通にあります。そういう所も探してみると面白いかもです。