「代わりました。北九州鎮守府の葛原です。」
「佐世保鎮守府秘書艦の香取です。夜遅くに失礼致します。」
今回は熊井提督本人ではなくて秘書艦からの連絡か。
「それは構いませんがいったいどのようなご用件でしょうか?佐世保鎮守府は政治関係の話には干渉しないはずでは?」
「えっと・・・ああ、明日の会見のお話でしょうか?私個人としてはとても気の毒だとは思っていますが、その件に関して熊井提督は何もするつもりはありませんよ?」
このタイミングで会見とは関係のない話だったか・・・
「そうでしたか・・・それは失礼しました。ではどのようなご用件でしょうか?」
「まず私達が作戦行動中だった事はご存知でしょうか?」
「ええ、佐世保の艦隊が別の海域で交戦中だったので、横須賀鎮守府から応援を呼んだと伺っております。」
「ええ、その通りです。それで敵艦隊を壊滅に追い込んだのですが、敵艦隊の中核を担う個体に逃亡を許してしまいまして・・・近隣の鎮守府へと警告をさせて頂いております。」
これはまた厄介な案件だな。佐世保鎮守府の艦隊から逃げ切ったのであれば、そうとう強い個体なのだろう。
「・・・その個体が鎮守府へと攻撃を仕掛けてくる可能性があると言う事ですか?」
「絶対に無いとは言いませんが・・・既に大破状態でしたので、今すぐ攻めて来る可能性は極めて低いと思います。それに現在こちらで捜索・追撃部隊を編成しておりますので、私達に任せて頂ければ解決するとは思います。」
「なるほど、自分達の獲物に手を出すなと言う事ですか?」
「いえ、北九州鎮守府は我々の傘下ではありませんので、こちらから何かを命令するつもりはありません。もちろん討伐が可能であれば討伐して頂いて構いません。その場合討伐したならば連絡を頂きたいとは思います。もしくは捜索に協力して頂けるならば、情報に対して謝礼という形で報いる事も可能です。位置情報さえあれば我々の艦隊が急行して討伐致しますので。」
ことごとく予想が外れてしまい、なんだか調子が狂うな・・・佐世保鎮守府の熊井提督は苛烈な軍人のイメージだったので、軍人としてのプライドに固執するタイプだと思っていた。
「ちなみに逃亡した個体の情報は?」
「葛原提督は戦艦棲姫をご存知でしょうか?」
「戦艦棲姫ですか・・・士官学校時代に交戦記録を読ませて頂きました。」
相手は戦艦棲姫か・・・確認されている姫級の中でも破格の砲撃力と耐久力を持つ相手だ。その代わりに艦載機も魚雷も無いが、昼戦夜戦を問わずに高い戦闘能力を持つ。例え大破していたとしても、うちの実力での討伐は困難だろう。
「であればどれ程危険な相手かは理解して頂けるかとと思います。こちらからの情報は以上ですので、後の判断はお任せ致します。協力して頂けるのであればまたご連絡下さい。」
「分かりました。ではこれで失礼します。」
佐世保との通信を終えてため息を吐く。集積地棲姫の後始末も終わっていないのに、今度は戦艦棲姫か・・・
「曙、すぐに川内と通信を繋げてくれ。」
「分かったわ・・・・・・っ!?提督!!通信が繋がらないわ!?」
「なんだと!?」
これが叢雲が言っていた通信妨害か!?つまり川内達の近くに戦艦棲姫が存在している可能性が高いと言う事か!?もしこの仮説が正しかった場合、本来敵艦隊が再編成を終える前に各個撃破する作戦だったが、戦艦棲姫を中心に再編成してしまう可能性がある。いくら川内の索敵能力が優れていたとしても、姫級が相手であれば過信は出来ない。上手く交戦を避けて逃げていれば良いのだが・・・
「曙、金剛型姉妹・神通・球磨・島風・雪風・村雨以外の白露型姉妹に緊急招集をかけろ。すぐに出撃港へ向かうように伝えろ。明石と夕張にも急いで金剛達の出撃準備をさせてくれ。」
「分かったわ!!」
「潮は川内への通信を試みろ。万が一繋がったらすぐに撤退するように伝えろ。」
「は、はい!!」
「朧はこの件を横須賀の叢雲に伝えてくれ。」
「すぐに行きます!!」
「私は出撃港に行って指示を出す。漣は連絡要員としてついて来い。」
「ほいさっさ!!」
――――――――――――――――――
出撃港まで走って行くとすぐに金剛達も到着する。
「Hey!!提督!!何があったネ!?」
「説明する。総員傾注!!現在夜戦に出撃した川内との通信が途絶えた。そして別海域で佐世保鎮守府が交戦していた戦艦棲姫が逃亡したとの情報が入っている。私にはこれが無関係とは思えないので、お前達にはすぐに川内達の救援に向かって貰う。」
「ね、姉さんが!?」
「ああ、現状川内を含め艦隊の安否は不明だ。最悪既に壊滅している可能性もある。だが生存している可能性も充分にある。」
「Ah・・・私達は川内と合流して戦艦棲姫と戦えと言いますカ?」
「いや、佐世保からの話では戦艦棲姫は大破状態で逃亡したらしい。ならば無闇に追い詰めなければ戦艦棲姫と対峙することはないはずだ。だから川内を発見したらすぐに撤退しろ。それと作戦海域で通信妨害が発生している可能性がある。通信状況には常に気をつけて、もし鎮守府との通信が途絶えた場合は、作戦を中止して通信が回復する場所まで撤退しろ。」
「OK!!ならすぐに出撃しマース!!」
「ああ、急いで出撃しろ。」
そう命令すると金剛達は再度敬礼して出撃準備に取りかかる。
「ああ、そうだ。春雨少し話がある。」
「え?は、はい!!」
「漣、春雨と大事な話があるから少し席を外してくれ。それとしばらく誰も近付かないように見張っていてくれるか?」
「あ、はい。」
「では春雨、こっちに来い。」
春雨を近くの部屋に連れ込んでドア越しに外の気配を伺う。おそらく誰も聞き耳を立ててはいないようだな。
「春雨、悪雨と代わってくれるか?」
「は、はい。・・・・・・何の用かしら?」
見た目は変わらずに春雨のままだが雰囲気が一変して、悪雨に交代してくれたのが分かる。
「単刀直入に聞く、深海棲艦は艦娘の通信を妨害する事が出来るのだろう?その性能について知っている事があれば教えてくれ。」
「はぁ・・・私は最近深海棲艦になったばかりなのよ?しかも中途半端に。だから本能的な話ならともかく、技術的な話なんて分からないわよ。」
「そうか・・・」
悪雨に聞けば何か分かるかもしれないと期待したのだがダメだったか・・・
「私から言えるのは艦娘と深海棲艦の通信は波長が違うって事ね。私も深海棲艦の通信を聞いたのは一回だけだから、それ以上の事は分からないわね・・・」
波長が違うという事は、艦娘の通信が妨害されている状況でも、深海棲艦は通信出来るかもしれないという事か。
「なるほど。では悪雨であれば深海棲艦の通信を傍受出来るか?」
「・・・あまりやりたくはないけれど可能だと思うわ。」
「ならばやってくれ。今は少しでも川内達の手掛かりになる情報が欲しい。」
「はぁ・・・そんなに川内さん達が大事なの?ちょっと妬けちゃうわね・・・」
「川内は優秀だからな。それにあいつらが沈んで深海棲艦化すると困る。」
もし仮に川内の索敵能力を持つ深海棲艦なんて誕生してしまったら、どれほどの脅威になるか分からない・・・
「はぁ・・・良いわ、やれるだけやってあげるわよ・・・その代わり・・・」
悪雨はすっと近付いて来ると、そっと抱きついてきた。
「何をしている?」
「抱きついてるのよ。あとちゃんと頭を撫でて欲しいわ。」
「・・・必要な事なのか?」
「凄く重要な事よ。」
何が重要なのかは分からないが、とりあえず悪雨の機嫌を損ねるのは作戦に影響が出るので、言われた通りに頭を撫でる。
「どうしてこれが必要なんだ?」
「よく覚えておいて。今回あなたは私に深海棲艦としての力を使えって言ってるのよ。それは精神が深海棲艦側に引っ張られる行為なの。だからそれに負けない為には、艦娘側に精神を引っ張る必要があるの。だからこうして提督と触れ合って提督との繋がりを強める必要があるの。」
「そういうものなのか。」
「私が考えた対症療法だけどね。でもちゃんと効果はあったわよ。」
そう言えば深海棲艦の通信が聞こえたと震えていた時も似たような事を言っていたな。その時も抱きついてきた悪雨の頭を撫でていたら落ち着いていたな。
「なるほど、効果があるならば仕方ないな。」
「そう、仕方ないの。んっ、もう充分よ。」
「そうか、では頼んだぞ。」
「ええ、分かったわ。その代わり帰って来たらまたお願いね。」
「ああ、分かった。」
悪雨がすっと離れると雰囲気がまた変わる。
「そ、それでは出撃の準備をします、はい。」
「ああ、急いでくれ。」
ペコリとお辞儀をしてから春雨が出撃の準備の為に走って部屋を出た。通信妨害の件はあまり情報を得られなかったが、悪雨の協力を得られたのは大きいだろう。これで川内達を無事に発見する事が出来れば良いのだが・・・
という事で葛原提督の苦難はまだまだ続く。この問題を乗り越えたら・・・やっと一周年アンケートで登場させると言ったキャラ達が出せる!!