川内達の救出は既に指示を出したので、後は金剛達と横須賀の艦娘達に任せるしかない。であれば次にやらなければならない事は・・・
「潮は引き続き川内達との通信を維持しろ。漣は金剛達との通信を担当して、朧は引き続き横須賀とのやり取りを任せる。」
「「「はい!!」」」
「曙は佐世保との通信を繋いでくれ。私が熊井提督と直接話をしたいと伝えてくれ。」
「分かったわ。・・・・・・繋がったわ。」
「代わろう。北九州の葛原です。」
「熊井だ。なにがあった?」
「こちらの艦隊が逃亡していた戦艦棲姫と遭遇して撃破しました。」
「・・・それは本当か?」
流石の熊井提督でも驚くか。まあ、手負いとは言え横須賀と佐世保以外で姫級を討伐したのは初めての出来事だ。疑うのも無理はない。
「旗艦の証言では相手は見たことのない人型の深海棲艦で巨人型の艤装をしていたとの事です。それに遭遇した時点でかなりボロボロの状態だったとの事なので、佐世保から頂いた情報と合致すると判断しました。戦艦棲姫の轟沈とドロップ艦の出現も確認しております。」
「・・・分かった。協力に感謝する。」
熊井提督はその一言だけで通信を切ろうとしている雰囲気を感じる。しかしこちらとしてはまだ話が残っている。熊井提督相手であれば無駄な前置きは省いたほうが良いか?
「それでドロップ艦の扱いについての相談なのですが・・・」
「お前のところのドロップ艦だ。好きにしろ。」
「ですが今回戦艦棲姫を追い詰めたのは佐世保鎮守府で、我々は止めを刺しただけです。共同作戦でのドロップ艦は功績の大きい方に優先権があります。ですので取り巻きからのドロップ艦はともかく戦艦棲姫からのドロップ艦は佐世保が所有すべきだと私は考えています。」
「情報の共有はしたが共闘したつもりはない。戦艦棲姫を仕留め損なったのはこちらの落ち度だ。それに討伐しても構わないと伝えたはずだ。他者の功績を奪うような卑劣な真似はせん。」
「今回のドロップ艦は極めて希少な海外艦ですが本当に良いのですか?」
「くどい!!」
この一言を最後に熊井提督は通信を切ってしまった。熊井提督は軍人としてのプライドが高いからか、態度が一貫していて動きが予測しやすい。とりあえず熊井提督から言質は取ったので良しとしよう。
「曙、次は大本営と繋げてくれ。」
「分かったわ。・・・・・・繋がったわ。相手は人事課の中井さんよ。」
ん?何故人事課がこんな深夜になっても起きているのだ?叩き起こしたにしてはあまりにも対応が早すぎる。まあどうでも良いか。さっさと報告を済ませておこう。
「北九州鎮守府の葛原です。」
「人事課の中井だが、こんな夜遅くにいったい何の用だ?」
「佐世保鎮守府が追っていた戦艦棲姫をうちの艦隊が撃破しましので、その報告です。」
「は?馬鹿を言うな!!貴様程度の実力で姫級の討伐をしただと!?嘘をつくな!!」
「はぁ・・・疑われるのであれば後で佐世保鎮守府に確認すれば良いでしょう?そんなすぐにバレるような嘘をつくわけないでしょう・・・」
信じられない話なのは分かるが、自分はこんな時間に虚偽の報告をするほど暇ではない。
「だが貴様の艦隊に姫級を討伐する力など無いはずだ。」
「ええ、ですから佐世保鎮守府が轟沈寸前まで追い詰めていた個体に止めを刺しただけです。」
「・・・つまり貴様は功績欲しさに佐世保鎮守府の戦果を横取りしたと言うのか!?」
「ええ、それが何か?既に佐世保鎮守府とは話がついています。」
本当は川内が暴走しただけなのだが、結果としては戦果の横取りをしてしまったからな。
「この恥知らずが!!それでなんだ?姫級を討伐した実績を盾にして、長門鎮守府を壊滅させた責任から逃れようという魂胆か?」
「はぁ・・・ただの報告ですが?それともう一件報告ですが、戦艦棲姫を討伐したらドロップ艦が現れました。」
「それがどうした?まさか戦果だけでなくドロップ艦まで佐世保鎮守府から掠め取ったのか?」
「二度も言わせないで下さい。佐世保鎮守府とは話がついています。そのドロップ艦ですが海外艦でドイツの艦娘だと言っています。名前はプリンツ・オイゲンと言うそうです。」
「・・・・・・は?」
これは驚いても仕方ないか。ロシア以外の艦娘が日本で発見されるのは初めてだ。
「では報告は以上です。失礼します。」
「待て待て待て!!希少な海外艦でしかもドイツの艦娘だと!?貴様気は確かか!?」
「少なくともそう聞いております。まだ帰還していないので通信越しにしか確認出来ていないのですが、本人はドイツの艦娘だと言ってます。」
「本当に間違い無いのだな?嘘でしたでは済まされんぞ?」
「ええ。」
「ふむ・・・であれば丁度良いかも知れん。いやなに、鶴野提督から慈悲深い御言葉を頂いていてな。新人の提督である貴様をメディアの前に突き出して謝罪させるのは酷な話ではないか仰っているのだ。私としては貴様にきちんとけじめを付けさせるつもりでいたが、鶴野提督が庇われるのであればと頭を悩ませていたのだ。」
ほう?鶴野提督は本当に謝罪会見を中止させるように圧力をかけたのか。よほど都合の悪い事があるのだろうな。
「はぁ・・・それで?」
「私も鬼では無い。貴様が鶴野提督の恩義に報いて、詫びの証として新しい海外艦を鶴野提督に譲ると言うのであれば、今回貴様が掠め取った功績を理由に謝罪会見を中止させても良いぞ?悪くない条件だろう?」
はぁ?これが本気で悪くない条件だと思っているのか?謝罪会見がなくなるのはそこまで悪くないが、何故鶴野提督に詫びなどしなくてはならないのだ?こいつ気は確かか?
「すみませんが私は深夜遅くまで作戦指揮をして疲れているのです。下らない冗談に付き合う余裕はありません。話はここまでにしませんか?」
「なんだと貴様ぁ!!私が歩み寄ってやったと言うのに、なんだその態度は!!そもそも貴様が不当に掠め取った功績について、大本営から直々に追及しても構わんのだぞ!!」
「これで三度目ですが、今回の件は熊井提督と話がついています。熊井提督自ら今回の戦艦棲姫に止めを刺した件を問題にしないと言われ、ドロップ艦についても私が保護するべきだと言われました。これ以上何か文句を言うのであれば、熊井提督を説得して下さい。」
あの頑固な熊井提督を説得出来るものならな。しかも熊井提督は海原提督と並ぶ実力者だ。大本営としても機嫌を損ねるのは避けたいだろう。
「なっ!?い、今は貴様の話をしている!!熊井提督には関係無いだろうが!!」
「関係無い?今回の一件に関わった鎮守府の提督が関係無いわけないでしょう?この件を追及するならば熊井提督を避けては通れませんよと忠告しているのが理解出来ないのですか?」
「貴様ぁぁああ!!」
ふむ、中井さんもかなり冷静さを失っているようだな。どうやら鶴野提督からの圧力もあってなのか、かなり追い詰められているようだな。
「それと私としては明日の会見の準備は順調に進んでいます。ですからそれも交渉材料にはなりません。会見を中止したければ大本営の命令として参加者に通達して下さい。」
「何を言っている!?そんな事をすれば大本営の威信に傷が付くだろうが!?」
「そんなものは私の管轄外です。精々頑張って下さいね。」
そう言い残して通信を切る。報告で面倒な事になるとは思っていたが、中井さんの追い詰められている様子を確認出来たのは面白かったな。
「うわぁ・・・ご主人様がめっちゃ悪い顔してるわぁ・・・」
ふと周囲を見渡すと、漣と朧が引いていて潮がびくびくしている。曙は特に気にした様子は無さそうだ。
「ははっ、敵を追い込んでいくのは悪くない気分だからな。それとこの程度ならお遊び程度のものだぞ?人間の闇はこんなものじゃない。」
「いや、漣的にはご主人様は充分やべぇ奴ですよマジで・・・怖い笑顔でめっちゃ煽ってたじゃないですか・・・」
言う程怖い顔をしていたか?面倒な相手だから機嫌は悪かったかもしれないが・・・
「漣、あんたも執務手伝いたいならこれくらい慣れなさい。今のなんてただの口喧嘩よ。」
「マジすか・・・ぼのたんもダークサイドに堕ちてたか・・・およよ・・・」
「ふん!!別にそんなんじゃないわよ。ただ現実を少し知ってるだけ。」
曙は散々人間の醜い部分を見て来たからな。漣達も酷い目にはあっているだろうが、曙はもっと嫌な物を見てきただろう・・・それに比べれば今のは確かにただの口喧嘩だな。
うん、やっぱり人間サイドはこうでないと。艦娘達が可愛いだけだと、この作品っぽくないですよねぇ。