目が覚めて時間を確認したら昼前くらいだった。睡眠を取ったからか寝不足による頭痛も治まっている。これならば体調面では問題無いだろう。あと昨日の夜中に第七駆逐隊が作った謎のコーヒーを食べて以降、何も食べていなかったので空腹だ。昼食前の微妙な時間ではあるが、なにか食べておきたいところだな。だがその前に自分が休んでいる間に何があったか把握しておきたいので執務室に行くか。身だしなみを整えて執務室に行くと、大淀が書類仕事をしていた。
「提督、おはようございます。」
「ああ、報告を聞こう。」
「オークション用の商品の配送は無事に完了しております。あとは現地で確認をすれば問題ありません。長門鎮守府への輸送船も何事もなく無事に到着しました。木曽さんには現地で協力するように伝えております。演習ですが一航戦と五航戦の四人で演習をしていましたが、途中から横須賀鎮守府の二航戦のお二人も参加したいとの要請がありました。」
「ほう?横須賀の二航戦がか?」
「はい、空母のお二人は速力の関係で調査任務に同行されませんでしたので、腕が鈍るのが嫌だから演習させて欲しいとの要請がありました。提督から横須賀の艦娘からの要望には出来るだけ協力するように命令されていましたので、私の方で許可を出しました。」
「ああ、構わない。それで演習の様子は?」
「直接見た訳ではありませんが、報告では二航戦のお二人が戦う姿を多くの者が観戦したとの事です。その後二航戦のお二人は加賀さん達の演習を指導して下さったそうですよ。」
「指導までしてくれたのか。ありがたい事だ。」
瑞鶴の特訓に関しては加賀に任せると言ったが、まさか横須賀の二航戦に手助けを求めるのは予想外だった。もちろんハイレベルな横須賀の艦娘に指導して貰えた事は、瑞鶴だけではなく他の者にも凄く良い経験となっただろう。
「それと・・・各地の鎮守府から何件も連絡があったのですが・・・緊急の案件では無さそうでしたので、名前と要件をリストにまとめております。」
「分かった。見せてくれ。」
「はい、こちらをどうぞ。」
緊急ではない案件と言うことで、だいたいの予想はついているのだが・・・やはりプリンツ・オイゲンについてか・・・ほとんどの案件がプリンツ・オイゲンの移譲についてと書かれている。呉と舞鶴の傘下の奴らは理解出来るが、横須賀の傘下からも何人かいるのが意外ではあるな。あと佐世保の傘下の提督達からは、演習の申込みが来ている。おそらく熊井提督から功績を掠め取った件で反感を買い、演習で叩きのめしてやろうという魂胆だろう。
「ずいぶんと連絡があったのだな。」
「はい・・・侮辱的な発言をされる方も多くすぐに提督を出せと騒いでいましたが、提督の体調面と案件の重要性を考慮して、こちらで保留させて頂きました。」
「ああ、助かる。とりあえずまともに相手をする必要も無いだろうから放置して構わない。報告は以上か?」
「はい、他は特に問題はありません。」
「では少し食堂に行ってくる。なにかあれば連絡してくれ。」
「分かりました。」
コンコンコン
「叢雲よ。いいかしら?」
「入れ。」
食事をしようかと考えていたら、執務室に叢雲が入って来た。その後ろからは何故か項垂れている二航戦の二人も居る。
「どうした?」
「この二人が私に無断で演習をしてたのよ・・・勝手に演習してしまって申し訳無いわ。」
「「申し訳ありませんでした。」」
疲れた様子で頭を下げる叢雲と、その後ろで二航戦の二人も揃って頭を下げている。
「ん?先程大淀から報告は受けたが、こちらの大淀に確認を取って許可を得ているのだろう?なぜ謝る必要がある?」
「そっちの好意に甘えて作戦に必要の無い演習なんてしたからよ。いきなり他所の鎮守府の資材を使って演習なんて普通やらないわよ。」
「そうなのか?」
「当然よ。合同演習を目的としてるなら、補給は主催側が用意するのが通例だけど、今回は深海棲艦の討伐に来てるのよ?中継基地として使わせて貰っているのに、作戦に関係無い事で資材を使うのは問題よ。」
まあ、確かに作戦に必要だったかと言われれば違うのだろうが・・・
「大淀が許可を出している以上こちらから問題にするつもりは無い。むしろうちの空母達の指導までしてくれたと聞いている。こちらに大きなメリットがある話だったのだから、むしろ二航戦の二人には感謝しているくらいだ。」
こちらが問題にしないと分かって、叢雲も少し落ち着いたようだな。叢雲の後ろで二航戦の二人もホッとしているようだ。
「そう・・・そう言って貰えたら助かるわ。ついでに調査に出した部隊からの報告だけど、今のところはぐれが数体居ただけで、大規模な群れは発見されてないわ。このままさらに奥を調査して問題なければ帰還するわ。だからもし問題なければ今晩休ませて貰って、明日の朝に横須賀へ帰還するわ。」
「ああ、了解した。」
とりあえずはまだ調査は続けるようなので、その結果次第だな。問題が無いならばそれに越した事は無い。
「提督、お話し中すみません。今度は函館鎮守府から通信が入りました。」
「はぁ・・・またプリンツ・オイゲンの件だろうな。」
「ちょっと待って。今函館って言ったわよね?函館は横須賀鎮守府の傘下よ。それにまたプリンツ・オイゲンさんの件ってどういう事?」
他所の鎮守府の通信にとやかく言うのはルール違反なのだが、叢雲は聞き捨てならない単語に食いついてしまったようだな。
「んん・・・まあ良いか。昨日保護したプリンツ・オイゲンを寄越せと、各地の鎮守府から連絡が来ている。おそらく函館も同じ要件じゃないか?」
「そう・・・もしかして他にも横須賀傘下の鎮守府から連絡があったのかしら?」
「ああ、何件かあるな。」
「そう・・・・・・ルール違反なのは承知で言うのだけれど、もし函館も同じ内容なら私に代わってくれないかしら?あと連絡があった他の鎮守府も教えてくれる?身内の恥は早急に対処したいの。」
叢雲は無表情だが物凄く怒っているのを感じる。叢雲の後ろで二航戦の二人が怯えているのが良い証拠だ。
「私は構わないが海原提督に確認しなくて良いのか?」
「問題無いわ。というかこういう問題は私達だけで解決して、海原提督の耳には入れないようにしてるの。」
そう言えば横須賀鎮守府では海原提督を人間関係の問題から遠ざけていたのだったな。個人的に思うところはあるが、それが横須賀のやり方であれば干渉する必要は無いか。それに横須賀鎮守府の傘下を黙らせてくれるだけでも助かるしな。
「分かった。とりあえず話してみよう。」
「感謝するわ。」
奴らは叢雲ママを怒らせちまったのさ・・・