大淀と通信を代わって函館鎮守府の提督の対応をするが、自分の横で叢雲が圧を放っている。まあ、責められるのはこちらでは無いのだから関係ないか。
「代わりました。北九州鎮守府の葛原です。」
「はじめまして、函館鎮守府の水上です。」
「それで?今日はどのようなご要件で?」
「今日はプリンツ・オイゲンさんの件で連絡した。」
「はぁ・・・やはりそうですか・・・」
自分のその一言に叢雲の圧が一段と高くなる。
「その反応、やはり心当たりはあるのだろう?」
「心当たりもなにも朝からその件で各地の鎮守府から連絡がありました。予想しないほうが無理です。」
「それだけ君が希少な海外艦を所属させる事に不満を持つ者が多いという事だ。だから我々横須賀鎮守府の傘下の者が保護しようと動いている。まさかとは思うが、すでに誰かに売ったりしていないだろうな?」
「引き渡しをするつもりはありませんが・・・なぜそんな事を言われなくてはならないのですか?」
「北九州鎮守府は久藤提督の傘下だろう?そして着任したのは士官学校で悪名を残した君だ。疑わない理由が無い。」
北九州鎮守府が久藤提督の傘下だったのは、前任者の大森提督が久藤派だったからだ。それに自分の士官学校時代の悪名について知っているならば、久藤提督の下に付くとは思わないはずなのだが・・・こういう正義を振りかざす奴らは、結論に合わせて前提を変えたりするからたちが悪い。さっさと叢雲に対処して貰おう。
「はぁ・・・そうですか。ですが私はプリンツ・オイゲンを誰かに引き渡すつもりはありません。私からの話は以上です。」
「待て!!これは国際問題にも発展しかねない話なんだぞ!!君個人の話では無い!!」
これ以上話す事は無いので隣で待機している叢雲へと通信機を渡す。どうやって解決するつもりだろうか?
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呆れた様子の葛原提督から通信機を受け取ってため息を吐く。どうやら悪い予想通りにうちの傘下の提督達が暴走しているようね・・・
「おい!?おい!!聞いているのか!?まだ話は終わっていない!!」
「黙りなさい!!」
「・・・・・・え?」
「横須賀鎮守府所属の叢雲よ。葛原提督から通信を代わらせて貰ったわ。」
「む、叢雲さん!?お、お疲れ様です!!函館鎮守府の水上です!!」
さっきまでかなり怒っていた様子だけど、私の名前を聞いた途端に大人しくなったわね。これならちゃんと話が出来そうね。
「ええ・・・それで?どういうつもりかしら?」
「はっ!!北九州鎮守府に海外艦のプリンツ・オイゲンさんが着任されたと聞き、悪名高い場所から保護するべく交渉をしていたところです!!ただでさえ久藤提督の傘下の奴らのやり方には腸が煮えくり返る思いではありますが、プリンツ・オイゲンさんの問題は国際問題に発展する危険性があります!!一刻も早く我々で保護すべきだと考えます!!もちろん横須賀鎮守府が保護して下さると言うのであれば、それが一番だと他の鎮守府の提督達も考えています!!」
ふーん?あくまでも保護だと言うのね。全員が同じ考えだとは思わないけれど、少なくとも水上提督の性格なら本気で保護しようと考えているのでしょうね。
「必要無いわ。あんた達の出る幕はないから、自分の艦隊の事に集中しなさい。」
「・・・それは横須賀鎮守府が保護して下さるという事でしょうか?」
「そもそも保護する必要が無いと言っているの。」
「ですが北九州鎮守府に着任した葛原という男は士官学校で成績は良かったものの、素行不良で何度も営倉行きになったと聞きます!!そんな奴に海外艦を任せたら何をされるか分かりません!!ドイツの艦娘を虐待すれば我が国が西洋と戦争になる危険もあるのですよ!?」
はぁ・・・言い分は分からなくは無いけれど、そもそも通信の途絶えた西洋と外交問題になると言っているのも変な話だ。もちろんいつか通信や国交が復活した時に問題になるかもしれないから、虐待なんてするべきでは無いのは当たり前だけど・・・
「はぁ・・・葛原提督はそんな人間では無いわ。葛原提督は艦娘を軍人としてきちんと扱っている。そこは直接鎮守府の様子を見た私が保証してあげる。」
「で、ですが・・・」
「なに?私の目が信用出来ないって言うつもり?」
「いえ、そういう訳では・・・ですが佐世保のように使い潰されでもしたら・・・」
「それも無いから安心しなさい。」
「ならば未熟な指揮で沈めてしまう可能性も・・・」
ここまで言ってもまだ喰い下がるか・・・ほんとしつこいわね・・・そろそろ本気で怒るべきかしら?
「少なくともあんたよりはまともな指揮をしていたと思うわ。」
「そ、そんな!?私だって一つの鎮守府を守ってきた提督です!!ぽっと出の新人に負けるわけないです!!私が着任してからの2年間、誰も轟沈させていないのがその証拠です!!」
「それはあんたが消極的な作戦ばかりだからよ。慎重なのは良いけれどあんたのは度が過ぎるのよ。だから結局は横須賀や他の鎮守府に頼る事になるの。協力する事と一方的に負担をかける事は違うの。一人前の提督を名乗りたければいい加減理解しなさい。」
「うぅ・・・ですが万が一にも艦娘達を沈ませるわけにはいきません!!」
本当にこいつはぁ!!
「そこが間違っているのよ!!私達艦娘は提督と共に戦う仲間であって友達じゃないの!!私達は人々を護って戦う為に生まれた存在よ!!決して甘やかされる為に生まれたんじゃない!!天才だって持て囃されてるうちの司令官だって何度も艦娘を沈めてしまったわ!!私は何度も後悔して涙を流す司令官を見てきたわ!!その悲しみを乗り越えて今の司令官がいるの!!そんな司令官だから私達は全てをかけて誇り高く戦えるのよ!!」
「それは・・・・・・」
「ハァ・・・ハァ・・・話が逸れたわね・・・とにかくプリンツ・オイゲンさんの件でこれ以上関わるのは止めなさい。あと他の連中にもこれ以上の手出しは私が絶対に許さないと伝えなさい。良いわね?」
「・・・・・・分かりました。叢雲さんがそこまで言われるのであれば従いましょう・・・それではこれで失礼致します。」
「ええ。」
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ようやく叢雲が通信を終えたが、まさかずっと冷静だった叢雲がここまで感情を爆発させるとはな・・・
「・・・みっともないところを見せてしまったわね。」
「いや、そんな事は無い。叢雲もかなり苦労しているのだな。」
「そうね・・・今のがうちの派閥の問題・・・艦娘を大切にし過ぎて軍人として正常な判断が出来ない奴が多いのよ・・・」
「なるほど・・・」
「皆が口では海原提督のような立派な提督になりたいって言うのよ。でもあいつらは司令官の綺麗な所しか見てないのよ・・・司令官が味わった苦悩も挫折も絶望も全部見てない・・・今の司令官があるのは必死になって失敗から学び、何度も何度も試行錯誤した結果よ。それをあいつらは何も見ていない・・・司令官が残した記録も綺麗なところしか見ない・・・苦い敗戦の記録こそ見て学んで欲しいのに・・・」
横須賀の連中は海原提督を神聖視しているのだろう。だからこそ汚点には目を瞑り、輝かしい功績を見て褒め称える。自分達が海原提督のように出来なくても、海原提督は天才だからと諦める。そんな奴らが高みに登れる訳が無い。
「そうか・・・」
「はぁ・・・うちの連中が迷惑かけて悪かったわね。これ以上またなにか言ってくるなら、また教えてくれるかしら?」
「分かった。頼らせて貰おう。」
「じゃあ私達はもう行くわ。」
そう言って叢雲は二航戦の二人を連れて執務室から去ろうとする。そんな叢雲を二航戦の二人はかなり心配そうに見ているのが印象的だ。
「・・・叢雲。」
「・・・なによ?」
つい呼び止めてしまった・・・こっちを見ずに応える叢雲の声は少し震えていたような気がする。
「私の指揮は士官学校で数多くの戦闘記録を読んで学んだ物だ。特に横須賀の記録は勝利も敗北も全て参考にさせて貰った。今の私があるのは過去の記録があったからと言っても過言ではない。」
「・・・そう。」
「それとそういう奴を他にも何人か知っている。海原提督の残したものは無駄では無い。」
「・・・・・・そう。」
叢雲はそのまま執務室から去って行った。二航戦の二人はこちらに改めて一礼をしてから叢雲を追って、執務室から去った。
あれ?鎮守府所属の艦娘よりも叢雲の方が出番が多い気がする?