正門前で待機していた陸奥と春雨と合流して、憲兵隊の運転する護送車に乗り込む。ただでさえ高価な品となっている車を3台も準備出来るのは、腐っても憲兵隊が力を持っている証拠だな。今回の会場まではそう遠くも無いからすぐに到着するだろう。
「では陸奥は会場に着いたら、予定通りにオークションの商品の検品をしてくれ。」
「分かったわ。」
「春雨は連絡要員として私と一緒に行動しろ。」
「は、はい!!」
「あとはあまり余計な奴と話をしないように気を付けてくれ。陸奥はオークションの準備の為に話す必要があるだろうが、話す内容には充分気を付けて欲しい。軍事機密に関わる事ももちろんだが、何気無い会話からも得られる情報もあるからな。」
「それは構わないけれど・・・ずいぶんと警戒してるのね?」
「ああ、どんな奴が来るか分からないからな。」
記者なんて人種は情報を得る為に手段を選ばないような奴も居るだろうし、艦娘が人間に危害を加えられないと知っている奴が問題を起こすかもしれない。
「失礼、お言葉ですが関係者以外は、我々憲兵隊が近寄らせませんのでご安心下さい。葛原提督だけでなく艦娘の護衛も我々の仕事ですから。」
護送車の助手席で指揮をしている金子さんが声をかけてくる。いや、情報の漏洩を危惧するならばお前達も警戒対象なのだが?久藤提督派閥の人間として見ても、大本営側の人間として見ても敵だ。たまたま利害が一致しているから協力しているだけで、決して仲間では無いという事は忘れてはいけない。・・・が一応協力関係にあるならば表立って敵対するのはマズイな。
「ええ、それは理解しているつもりですが、何処で誰がどんな手を使ってくるか分からない以上、警戒するのは当然の措置です。」
「まあ・・・そうですね。我々も警戒しましょう。」
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会場の入口前に到着すると既に多数の記者達が集まっていて、憲兵隊に護衛されながら移動する自分達をカメラで撮影してくる。こちらの許可も無く無遠慮に撮影しまくるのには腹が立つが、これくらいは想定内だ。それと今から会見だと言うのにこの場で質問を投げ掛けてくるバカも居たが、当然無視した。護衛の憲兵隊を突破しようとするバカまでは居なかったのが救いだろうか?
「なんと言うか・・・凄いわね・・・」
建物の中に入ってようやく記者達から開放されると、陸奥がぽつりと呟く。どうやら記者達の姿にちょっと恐怖を感じたのだろうか?
「あいつらにとって情報はそれくらい重要なものなのだろうな?いや、情報と言うよりは素材か?」
「素材?どういう事かしら?」
「あいつらがやろうとしている事は、真実を突き止めて大衆に広める事じゃない。真実を切り取って自分達に都合の良い解釈や加工をして、それが真実であると広める事だ。それが例え真実とは正反対の事でもな。」
「・・・ちょっとよく分からないわ。」
大人っぽい雰囲気の陸奥だが、やはり人間の狡猾さを理解してはいないようだな。
「例えば今私達は憲兵隊に護衛をして貰いながらこの会場に入る時に、たくさん写真を撮られたな?」
「ええ、凄い数だったわ。」
「私を罪人に仕立て上げたい奴らなら、今の写真を私が憲兵隊に連行されている写真にするかもな。」
「それは・・・流石に嘘だってバレると思うけど?」
「きちんと情報を得られる立場の人間ならな。そうで無い人間なら騙される奴は一定数居るはずだ。しかも他の証拠をでっち上げれば、その数も増えるだろう。だからこそああいった手合には極力関わらない方が良い。特に今から陸奥には一人で行動して貰うのだからな。」
「ふぅ・・・分かったわ。充分気をつけるわ。」
陸奥の目つきが少し怯えていたような感じから、戦場に向かうような雰囲気へと変わった。これなら大丈夫そうだな。
「では陸奥は検品の方を頼む。」
「いいわ、やってあげる!!」
「それでは案内しますのでこちらに。」
陸奥は数人の憲兵隊に案内されて、倉庫の方に向かった。後は陸奥がどれだけ上手く立ち回れるかだな。自分達も金子さんの案内で控室に向かっていると・・・
「戻って下さい!!ゲストの方はまだ控え室から出ないで下さい!!」
「やかましい!!私を誰だと思っている!?この街の市長になる男だぞ!!貴様程度の人間が私に指図するなど無礼だ!!」
ふむ、聞き覚えのある声がエントランスホールの二階側から聞こえてきた。少しするとドタドタという足音と共に、吹き抜けになっている二階部分の手すりから乗り出すように源さんが現れた。そのまま落ちれば面倒事が一つ片付くのだが・・・
「ようやく来たか!!散々待たせやがってクズが!!この私自ら貴様の最後を見に来てやったぞ!!私に逆らうからこんな事になるのだ!!今更後悔してももう手遅れだ!!さっさとクビになれ!!」
ずいぶんと強気に罵声を浴びせるものだ。さも自分の力でこの会見を開いたかのような言い草だが、源さんがなにかしたのだろうか?たしか大本営に苦情を言って適当にあしらわれただけではなかったか?というか警備の人間も何をしているのだろうか?あれくらいの人間を抑えられずにどうする?
「おい!?聞いておるのか!?今すぐ土下座で謝ると言うならば、多少は考えてやっても良いぞ!?」
騒ぐ源さんを警備の人間は本気で止めようとしていないみたいだ。金子さんに視線を向けると、暗い笑みを浮かべている。ここでやる気なのか?源さんを逮捕するだけならば、挑発して掴みかからせるなどをすれば一発だろうが・・・見せしめとしては軽い気がする。
「金子さん、早く控室に案内して頂けますか?ここはどうにも五月蝿くて落ち着きません。それに記者の方々をあまり待たせても悪いでしょう。」
「・・・分かりました。ご案内しましょう。おい!!ゲストの方を控室にご案内しろ!!」
「なっ!?貴様!!この私を無視するつもりか!?おい離せ!!クソ!!私は絶対に許さんからな!!」
金子さんの指示でまだ騒いでいる源さんがゲストの控室に連れていかれたようだ。やはりやろうと思えばすぐにでも抑える事が出来たみたいだな。
「それで、どういうおつもりですか?」
自分達の控室に向かう途中で金子さんが少し不満そうに聞いてきた。抽象的な質問だが、さっきの源さんを捕まえるお膳立てを無視した件だろうな。
「なんのお話か分かりませんが、先程も言ったとおり記者の方達をあまり待たせるのも良くないでしょう?彼等も大きな事件を記事にしたいと心待ちにしているようでしたし。」
「ふむ・・・それもそうですね。分かりました。急いで準備を進めましょう。」
金子さんは自分の心にもない発言からおおよその意図を察したのだろう。すぐに切り替えて控え室に案内してくれた。どうせ見せしめにするなら記者達の前で大々的にやった方が良い。こういう意図を読み取れるあたり、この金子という男はそれなりに頭が回るようだ。
「それでは準備が整い次第お呼びしますので、少しここでお待ち下さい。」
「ええ、お願いします。」
控え室から金子さんが出て行って、春雨と二人きりになる。とは言え入口を憲兵で護衛しているはずだから、油断は出来ないのだが・・・金子さんが退室した直後に春雨が抱き着いてきた。
「おい、何をしている?」
「・・・・・・ごめんなさい。でもあなたが散々罵倒されるのを聞いたら、負の感情が溢れ出してしまいそうになったの・・・少しだけこうして落ち着かせて貰えるかしら?じゃないとこのドス黒い感情を抑えられる自信が無いわ・・・」
この雰囲気は悪雨か・・・そう言えば悪雨は春雨の抱いた悪感情の象徴とか言っていた気がする。春雨の様子をよく見ると、ほんの少しだけ髪の色が薄くなっている気がする。これはマズイな・・・深海棲艦の影響だけを考えていたが、人間の悪意によっても刺激されてしまうのか・・・ならばストレスが溜まるこのような場所に連れて来たのは失敗だったか・・・
「そうか・・・それは悪かったな・・・私の護衛の為にと思って連れて来たが、かなりの負担をかけてしまったようだ。仕方ないから陸奥と配置を代えるか?向こうならば悪意に晒される事は少ないだろう。」
「それは絶対に嫌よ・・・こんな場所であなたから目を離すなんて耐えられないわ・・・いざという時にあなたを守れるのは私だけ。それなのにあなたの側から離れるなんて、それこそあなたを失う不安で発狂してしまいそうだわ・・・」
「そうか・・・では私の側で我慢して貰うしかないな。言っておくが春雨が私を守るのは本当に最後の手段だからな?護衛に憲兵隊も居るし、私自身も自衛能力を持っている。春雨が人間にも攻撃出来る事は極力表に出したくない。それは理解しているな?」
「ええ、分かっているわ。私の存在はあなたの立場を悪くする。それこそあなたか私、もしくは二人共処分されるくらいには・・・だから私が動く時は本当にあなたが殺されそうな時だけよ。」
「それが分かっているなら良い。このまま護衛と連絡役を頼む。」
そう言って悪雨の頭を撫でると、落ち着いてきたのか髪の色がだんだんと鮮やかなピンクに戻っていく。それにしても深海棲艦の通信を傍受させた時でも髪色に変化は無かったのに、入口の記者達と源さんの罵倒くらいで髪の色に影響が出る程のストレスになったのか・・・やはり人間の悪意が一番厄介なのだろうか?
会見の課題に悪雨ちゃんのストレス管理問題が追加されたよ!!頑張れ葛原提督!!悪雨ちゃんがキレたら深海棲艦化からの虐殺スタートだよ!!