ざわめく会場をさっさと出てから、オークション会場でもある大ホールの舞台裏へと向かう。そこには既に検品を終えたらしい陸奥がいて、すぐ側に憲兵隊が二人と少し離れたところに作業員の集団が居た。自分が近づくとこちらに気が付いたようで、陸奥と作業員の代表者が近づいてくる。
「陸奥、検品は終わったか?」
「ええ、大丈夫よ。」
「ではこちらの納品書にサインを頂けますか?」
「はい、ご協力ありがとうございます。」
「・・・はい、確かに確認しました。では我々は待機していますので、始める時は声をかけて下さい。」
それだけ言って代表者は作業者の集団へと戻って行った。なんとなくだがこちらにあまり良い感情を持っていないような雰囲気だな。敵意を向けてくる程ではないのだが・・・
「陸奥、何かあったか?」
「そうね・・・彼等も最初は気さくに話しかけてくれたのだけど・・・提督から余計な話をするなって命令されてたから、申し訳無いけれどお話を断ったのよ。私が軍属だから仕方ないとは考えてくれてるみたいだけど、やっぱり拒絶されたらちょっとね・・・」
なるほど。それならば仕方ないな。作業者の目的が情報収集なのかただの雑談なのかは分からないが、警戒する必要あるので一線はきちんと引いておくべきだ。
「それは仕方ない。では金子さん、会場に客を入れ始めて下さい。三十分後から始めようと思います。」
「分かりました。あとオークション前に少し話がしたいと言っている方が居るのですが、どうされますか?」
「はぁ、誰がそんな事を?」
「前任者の大森提督の遺族との事です。」
ふむ、確かさっき捕縛された源さんと一緒に何かやろうとしていたのだったか?会見の時には特に動きが無かったから忘れていたのだが・・・
「そんな奴と会う必要があると思いますか?」
「絶対にとは言いませんが、出来れば会って頂きたいところです。」
特に興味も無いので無視しようかと思ったが、金子さんとしては自分に会って貰いたいようだ。おそらく源さん共々捕まえてしまう予定だったが、会見で動きを見せなかったので、今のうちに処理しておこうってところだろうか?
「分かりました。手短に済ませましょう。」
「ありがとうございます。すぐにお呼びします。」
そう言って金子さんが部下に指示を出してしばらくすると、太ったおばさんとその息子らしき奴らが連れて来られた。おばさんは厚い化粧に成金趣味っぽいアクセサリをジャラジャラ付けていて、お世辞にも品が良いとは言えないな。息子の方はあの天龍にぶっ壊させた大森提督の石像を思い出させるあたり、やはり親子なのだなぁと感じる醜さだ。歳は自分よりも少し上くらいか?表情もニヤニヤしていて陸奥に無遠慮な視線を向けるので、陸奥が少しだけ自分の後ろに隠れるように移動した。
「貴方が私の夫の跡を継いだ提督かしら?」
「ええ、葛原です。」
「ふーん、それで?」
「それでとは?そちらが何か用事があって来られたのでは?」
「なんて口のきき方かしら!?せっかく弁明する機会をあげようと思ってわざわざ来たのよ!?」
「はぁ?心当たりがありませんが?」
こいつは何を言っているんだ?
「貴方遺族である私達に無断で夫の遺品を売り払おうとしてるじゃない!!」
「あなたの夫が不正に貯えた財産を大本営が没収して、それを私が販売して鎮守府の運営資金として利用して良いと許可が出たのです。文句なら大本営に言ってみたらどうですか?私個人としては他の資産が差し押さえになっていないあたり、大本営はずいぶんと甘い対応をしたと思いますが?」
「なんて事を言うのかしら!?国を護る為に身を粉にして働いていた先人への敬意が感じられないわ!!それに私の夫を殺した犯人をまだ見つけられて無いと聞いているわ!?どう責任を取るつもり!?」
国を護る為に身を粉にして働いた先人?誰の事だ?まさか金儲けと性欲を満たす為に動いていた大森提督の事を言っているのか?冗談キツイな。
「はぁ・・・大森提督は犯罪者ですよ?大森提督が艦娘達に何をしていたかは、ある程度の情報は公表されたはずですが?」
「提督という重責ある仕事をしていたのです。夫がおもちゃで遊んでいたからと言ってそれを責める程、妻として狭量ではないわ。」
ダメだこいつは・・・しかも艦娘の目の前でおもちゃとか言いやがったな・・・陸奥から怒っている雰囲気を感じるし、春雨は後ろで私の服をギュッと握って感情を抑えているようだ。
「はぁ・・・話になりませんね。これ以上の話は無駄ですので、大本営にでも掛け合って下さい。」
「なんですって!?」
「まあまあ母上、落ち着いて下さい。私が話をつけますから。」
怒れる母親を宥めて息子の方が前に出てきたが、こいつが何を言っても状況がひっくり返るとは思えないのだが・・・
「すまんな。父上の死から一月も経っていないのだ、母上もまだ心の整理が出来ていないのだ。」
「はぁ?それで?」
「いやなに、先程の会見も聞いていたが、お前もなかなか上手くやっているようではないか。父上が亡くなられた事はとても残念だが、お前のように有能な奴が後任に就いたならば、この街の住民も安心出来るだろう。」
「はぁ。」
なんだ?こいつは煽てればどうにかなるとでも思っているのか?しかも上から目線で話しているから、煽てる事にも成功していない。
「だが聞いた話ではお前は軍事には明るいらしいが、政治や人間関係はあまり得意では無いと聞く。街の有力者達の反感を買っているようでは、この先提督として上手くやっていけないはずだ。だから条件次第では私が手を貸してやらん事もない。私には父上が大切に築いてきた人脈がある。その私から協力を要請すれば、有力者の皆も理解してくれるはずだ。」
人脈ねぇ・・・大森提督が提督であったから構築出来た人脈だろう?こいつはこの歳で士官学校に通っていないようなので、提督としての才能は無いはずだ。つまりなんの利益も産まない奴に、すり寄ってくるバカは居ないだろう。本当に政治の手腕があればなんとかなるかもしれないが・・・
「・・・ちなみにですがお仕事は何をされているのですか?」
「ん?そんな事はどうでも良いだろう?大切なのはこれからだ。」
こいつ無職だな。親が金持ちなら働く必要はなかっただろう。だがその親が死んでしまったから、ようやく動き出したってところか。しかも父親が偉かったから自分も偉いと勘違いしているようだ。
「そうですか。」
「うむ、お互いに未来のある若者同士だ。仲良くしようではないか。」
いや、お前に未来は無い。
「いえ、お断りします。」
「まあ、そう結論をあせるな。」
そう言うとこのクズはこっちに近づいてきて、肩に手を載せようとしたので軽く払う。一瞬怒りの表情を浮かべたが、すぐに持ち直す事が出来たようだ。思っていたよりは我慢が出来るのか?
「そう邪険にするな。お前も知りたいのだろう?父上が艦娘を使って儲けていたやり方をな?」
「はぁ・・・」
「お前には難しくても私には出来る。だが私には提督の才能は無いからお前の協力が必要だ。お前は艦娘を、私は人脈とノウハウを提供する。それで全て上手くいく。ついでに父上が出し渋っていた戦艦と正規空母も使わせてくれるならもっと稼げる。そこに居る奴はたしか陸奥とか言う戦艦だろう?一目見ただけで良い体をしているのが分かる。これならいくらでも「黙れ。」え?」
「黙れと言っている。それ以上の侮辱は許さん。」
「はぁ!?こっちが下手に出てやってりゃさっきからなんだその態度は!?」
「艦娘は戦う為の存在だ!!お前の欲を満たす為のものではない!!」
「なに綺麗事言ってやがる!!どうせお前も鎮守府で好き放題ヤッてんだろうが!?艦娘なんてたくさん居るんだから、独り占めしてないでこっちにも寄越せ!!」
これ以上の問答は必要無い。艦娘の不正利用をしようとしているのは明白だ。さっさと金子さんに捕縛して貰おうとしたら・・・大森提督の息子が真横にふっ飛ばされた。あれ?自分はまだ殴って無いのだが・・・
「このクソ野郎がぁ!!さっきから聞いてりゃ艦娘さんに!!なんて事を!!言いやがる!!」
どうやら話を遠くで聞いていた配送業者の人間が、我慢出来ずに殴りかかったようだ。しかも倒れたところを馬乗りになってさらに殴っている。配送業で鍛えてるだけあって一発一発が重い。自分も軍人として鍛えているが、あんな人と殴り合いたくは無いな。
「ゲフ!!ちょ!?待て!?だ、誰かとめ!?」
大森提督の息子が周囲に助けを求めるが、母親は腰を抜かしてしまい、作業者の仕事仲間達は冷ややかな目で見て止めようとしない。ゆっくりと十発くらい殴って少し落ち着いたあたりで、ようやく憲兵隊が殴りかかった作業者を取り押さえた。
「この二人を艦娘不正利用の疑いで拘束しろ!!」
「は?え?」
金子さんの指示で大森親子が憲兵隊に連行される。息子の方は喋る気力も無いようでされるがままに連行されて、母親の方はなにか喚いていたがまあ良いだろう。
「葛原さん、うちの若いもんがすみません。責任なら止められなかった私が負います。」
「いえ、もう少しで私が殴っていたところでしたから、お気になさらず。」
「そうですか・・・それでそいつの処遇はどうなりますか?暴行で逮捕されるのでしょうか?それなら私も責任者として一緒に・・・」
「私としては特に何も。金子さんは?」
「・・・我々は憲兵隊であって警察ではありません。提督や艦娘への暴行であれば捕縛しますが、今のはただ目の前で起きた喧嘩を止めただけです。これ以上我々は関与しません。」
「だそうです。さっきの一件は何も無かったという事にしましょう。ではそろそろ時間ですし、オークションを始めましょう。」
少しの間ぽかんとしていたようだが、安堵した笑顔を浮かべて深々と頭を下げてきた。とにかくこれで一件落着だな。
一般人にとって艦娘は自分達を守ってくれる存在なので、それを馬鹿にする奴を血の気の多い作業員が殴っちゃいました。