あまり深く突っ込まれないように軽めにしました。
オークション会場の様子を覗き見ると、それなりに客が入っているようだ。この会場に入場する時にカタログ代わりのプリントを配って貰ったのだが、その内容を見てかなりざわついている様子だ。先程の会見よりも人が増えているので、会見には入り込め無かった者達も来ているのだろう。あとカメラや録音機器の持ち込みは禁止されているが、先程の会見に来ていた記者達も参加しているようだ。ではさっさと始めるか。
「皆様お待たせしました。本日は大森前提督の遺品を販売するオークションにご参加頂き、ありがとうございます。今回の売上は北九州鎮守府の運営資金として有効に活用させて頂きますので、宜しくお願いします。」
自分が挨拶を終えるとまばらな拍手で応えてくれた。まあ、こんなものだろう。
「ちなみに今回の商品の鑑定についてですが、北条工業のご令嬢にご協力頂きました。それでは最初の商品をご紹介しましょう。」
そう言って舞台袖の陸奥に視線を送ると、陸奥が一つの絵画を台車に載せて運んでくる。
「こちらはかの有名な西洋の画家であるゴッホの『ひまわり』という作品・・・の贋作です。」
自分が贋作だと言い切った事から、会場にまた大きなどよめきが起こる。予め配っておいたプリントにはきちんと贋作だと明記していたのだが、それなりに驚いたようだ。もしこれを本物として売ろうとしていたら、当然のように偽物じゃないのかと難癖をつけられる。しかし最初から贋作と言えばそんな事は起きない。
「それでは入札を始めます。3万円からです。」
入札を開始したが当然誰も手を上げず、会場にはクスクスと嘲笑がそこら中から聞こえてくる。まあ、予想通りの反応だな。
「では3万円。」
最初に動いたのは綾瀬さんだった。会場の雰囲気を見かねたのか、新しい市長として提督との関係をアピールする目的かは分からないが、最初の客としては妥当なところだな。
「他に誰かいませんか?・・・・・・いないようですので3万円で落札です。」
会場からまたまばらな拍手と一際大きな嘲笑が響いている。そんな中で係の者が綾瀬さんの所に行って、書類にサインを貰っている。さて、そろそろ仕掛けるか。
「ああ、皆様に一つだけ注意点をお伝えするのを忘れていました。先日平川元市長が艦娘の不正利用で憲兵隊に捕縛された件はご存知でしょうか?平川元市長は捕縛後に逃走を試みて射殺されてしまったのですが。」
その一言で会場の雰囲気が嘲笑から困惑へと変わる。突然こんな話を始めたら無理もない。
「もちろん艦娘の不正利用の件の調査は我々がおこなったのですが・・・不正利用の決定的な証拠はとある美術品に隠されていました。」
突然の情報の開示に有力者達はさらに困惑し、記者達は思わぬ情報に食いついた。
「もちろん他の美術品も調べてはいますが、何か見落としがある可能性も否定出来ません。ですから万が一購入後に何かありましたら、北九州鎮守府か憲兵隊の方にご連絡下さい。我々できちんと対処させて頂きます。」
会場が静寂に包まれた。こんな事を言ったが、万が一証拠品を発見したとした奴がいたら、素直に連絡してくる奴なんかいるはず無い。自分が関わっている物ならさっさと処分するし、他の誰かの物なら交渉材料に使えるはずだ。会場に不安と期待の種がバラ撒かれた。
「それにしてもなぜ大森前提督はこれ程までに贋作を集めていたのでしょうね?大した価値の無い、傷付いても困らないような贋作を。さて、そろそろ次の商品をご紹介しましょう。」
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その後のオークション会場はなかなか面白い状態だった。美術品の中に汚職の証拠が隠れているかもしれないと言う話には、最初は会場も懐疑的ではあった。しかし入札する人間が増えると不安も大きくなるものだ。しかも北九州の有力者達だけではなく、会見のついでに来ていただけの記者達が食いついたのだ。何か情報が得られるかもしれない。もしかしたら葛原提督がわざと証拠品を隠しているかもしれない。誰かに自分の弱味を握られるかもしれない。誰かの弱味を握れるかもしれない。そんなドロドロした思惑で会場は熱気を帯びて、冷静な判断力を失う者が増えた結果、価値の低い贋作を高く売る事に成功した。
「提督、お疲れ様。凄い盛り上がりだったわね。」
「ああ、陸奥も良く働いてくれた。助かった。」
「なんだか凄い事になったわね。あれ大丈夫なの?」
「私は少し不安と期待を煽っただけだ。それに嘘はついていないからな。」
「でも商品は全部徹底的に調べたでしょう?証拠品なんて出てこないはずよ?」
「ああ、だが我々が気が付かないくらい巧妙に隠されている可能性はある。限りなく少ないがな。」
そう言って笑うと陸奥も面白そうに笑う。
「ふふっ、悪い人ね。それと一つお願いがあるのだけど良いかしら?」
「どうした?」
「さっき私達の為に怒ってくれた人が居たじゃない?どうしてもお礼を言っておきたくて・・・」
「まあそれくらいなら良いだろう。どうせ鎮守府に帰る前に配送業者の人にも挨拶するつもりだ。」
金子さんに鎮守府へと帰還する事と配送業者に挨拶がしたいと伝えたら、すぐに代表者とさきほど大森前提督の息子に殴りかかった若者が連れて来られた。
「それでは我々は鎮守府へと戻ろうと思います。今日はご協力ありがとうございました。引き続き購入者への配送を宜しくお願いします。」
「ええ、お任せ下さい。また何かあれば是非うちを頼って下さい。」
「ええ、今後とも宜しくお願いします。陸奥。」
陸奥の名前を呼ぶと陸奥が一歩前に出て、若者の前に立つ。
「さっきは私達の為に怒ってくれてありがとうございます。とっても嬉しかったわ。」
「いや、その・・・俺はあいつがムカついたから殴っただけっす・・・俺は学がねぇっすけど、艦娘さん達が俺達を守ってくれてる事くらいは知ってるっす。だからそんな艦娘さん達に酷い事言ったあいつに、仁義ってやつを叩き込んだだけっす。」
「そう、ちゃんと私達の事を理解してくれる人が居て良かったわ。」
「そんな大したもんじゃねぇっすよ・・・あとはあれっす、美人の前でカッコつけたかっただけっす・・・」
「あら?あらあら♪あなたはとってもカッコよかったからその目的は成功ね♪」
「そ、そうっすか。」
「はっはっはっ、おめぇ良かったじゃねぇか!!」
照れる若者の背中を代表者がバシバシと叩く。
「艦娘達の為に怒って下さった事、私からも感謝致します。私が殴る前に手を出された事は驚きましたが。」
「はっはっはっ、そこは本当にうちの若いもんがすいませんでした。それにしても葛原提督も案外血の気が多いみたいですなぁ。」
「職業柄舐められるわけにはいきませんからね。ではそろそろ失礼致します。」
「はい、それでは。おい、いつまで呆けてんだ。さっさと仕事に戻るぞ。」
「うっす!!」
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「あんな良い人達もいるのね。」
会場から出て護送車に乗り込んだ後に、陸奥がぽつりと呟く。
「人間にはいろんな性格の奴が居る。艦娘に対する考え方もバラバラだ。さっきの奴は艦娘を好意的な目で見る奴で、直情的な奴だっただけだ。だからと言ってあいつの全てが信用出来るわけではないぞ?状況次第では敵に回るかもしれない。」
「そう・・・提督は疑い深いのね。」
「そうでなければ権力者に良いカモにされるだけだ。鎮守府のトップである私はこのくらいで良い。」
「なら私達はその分人間を信じてみたいわ。私達に好意的な人はだけどね。前提督の息子みたいなのは流石にお断りだわ・・・」
「あれこそ底辺の人間だ。流石にあのレベルの奴ばかりではないさ。」
まあ、そのぶん知性もお粗末なものだったから、敵対しても怖さを感じなかったがな。
むっちゃんのお姉さん感が良き。