「北九州鎮守府の葛原です。」
「おう、鹿児島鎮守府の島津だ。今朝連絡した演習の件か?ずいぶんと遅い返答だな?」
「こちらも事後処理や会見や各地の鎮守府からの連絡などで手が回らないのですよ。」
「つまりわしの話は後回しにするくらいの重要性しか無かったと言いたいのか?」
「重要な話だからこそ、きちんと時間が取れる時に連絡させて頂いたと考えて下さい。」
「ふん、ものは言い様だな。」
チクチクと嫌味を言ってくるが、この程度ならジャブみたいなものだろう。島津提督はそれなりに年配の提督ではあるが、まだまだ血気盛んな人物だ。それがこの程度の小言で済ませているならば、まだまだ余裕はありそうだな。
「それでは本題に入らせて頂きますが、現在うちが佐世保鎮守府傘下の提督の方々から演習の申込みを受けているのはご存知ですよね?」
「ああ、当然知っておる。姫級に止めを刺したという噂の新人の実力を皆確かめたいと思っておる。」
「とは言いましてもこんなに一度に演習の申込みをされては、こちらとしても対応に困ります。」
「なるほど。それでわしに佐世保側を取り纏めて欲しいという事か?」
「話が早くて助かります。本来であれば派閥の長である熊井提督にお願いするべき話だとは思いますが・・・」
「ふん、熊井提督は忙しいからな。そのような雑事はわしが引き受けよう。」
まあ、ここまでは想定通りだな。今回の一件に熊井提督自身は関わっていない。もちろん演習の申込み自体は咎められる事ではないが、自分達の不満をぶつける為の演習で熊井提督の手を煩わせたくは無いのだろう。
「ありがとうございます。それでは対抗演習ですが、一ヶ月後から月一回くらいのペースで順番にお相手するのはどうでしょう?これなら無理なくお相手が出来ると考えていますが?」
「はぁ!?馬鹿な事を言うな!!一ヶ月後だと!?なぜそんなに時間がかかる!?」
「現在私は鎮守府の立て直しをしている最中です。前任者の指揮が杜撰だった事もあり、うちの艦娘達は練度以下の戦力しか発揮出来ていません。ですからまずは基礎から叩き直す必要がありますので、対抗演習をするには時期尚早だと判断します。」
「ふざけるな!!仮にも戦艦棲姫に止めを刺したのだろう!?ならばそれ相応の実力はあるはずだ!!」
「御冗談を・・・いくら姫級とはいえ轟沈寸前で取り巻きも脆弱な状態だったのですよ?しかもこちらは甚大な被害を受けています。これで相応の実力があると言うのは難しいでしょう。」
まあ、そんな事は言われなくても分かっているだろうけどな。だが姫級の討伐という事実は大きい。現状では横須賀と佐世保のみが討伐に成功している。あとは複数の鎮守府での連合艦隊で撃退した記録はあるものの、甚大な被害を出したうえで姫級には逃亡されている。つまり何も知らない一般人からすれば、姫級の討伐を果たした北九州鎮守府は横須賀と佐世保に続く英雄的な快挙を成し遂げたように見える。着任して一週間の新人提督が古参の提督よりも上に見られるのだ。そんな状態で長期間我慢するのは難しいのだろう。
「いや、やはり姫級討伐の功績は大きい。それだけの功績を上げた艦隊がいるならば、是非とも手合わせ願いたいものだ。先延ばしにするなど臆病な真似をするものではないぞ?」
やはりこの程度では引かないな。この程度で引いてしまうようなら交渉が終わってしまうから困るがな。
「ご理解頂けませんか・・・ですがまだ対抗演習を始められない理由が2つ残っています。」
「一応聞いてやろう。」
「まずは資材の問題です。今回の一件でそれなりの資材を入手しましたが、まだ安定して資材の回収を行う目処が立っていません。ただでさえ通常の鎮守府運営もままならないのに、そんな状態で対抗演習の連戦をすればすぐに資材が足りなくなります。」
「ふむ・・・確かに前任者の大森は他の鎮守府から資材を買い集めておったな・・・だがそれは奴が次から次へと建造しておったからだろう?そんな贅沢をしなければ問題無いはずだ。」
やはり大森前提督の資材使いの荒さは有名だったようだな。
「いえ、そもそも通常の資材回収も杜撰なやり方だったので、これもまた艦娘達を1から教育しなおす必要があります。」
本当はそこまで深刻な状況ではない。資材溜まりもいくつか記録しているし、資材の輸送に関してはそこまで訓練が必要なものではない。それにドラム缶は沢山残っていたからそこの心配もない。
「ふむ・・・であればこちら側で主催すれば良い。それならば資材はこちらで用意するので問題無かろう?」
「そこで問題になるのが2つ目の理由です。そちらの鎮守府が主催する演習に参加するとなると、主力部隊と私が鎮守府から離れる事になります。月一回程度であればそれでも上手くやりますが、月に何度も留守にする事は出来ません。うちはまだそんなに安定した運営は出来ていません。」
「ならばこそ姫級を二体も討伐した今が好機だろう?横須賀が周辺海域の掃討もしたと聞く。ならば安全が確保されているうちに演習を済ませてしまえば良いではないか?」
「逆に言わせて貰いますが、立て続けに姫級が二体も現れたのですよ?三体目が現れないと何故言い切れるのですか?私としては三体目が現れる兆候を見落とさないように、警戒を厳重にするべきだと考えています。そんな時期に鎮守府から離れるなど考えられません。」
流石に慎重論が過ぎるかもしれないが、完全に否定出来る内容でも無いはずだ。新たな姫級がいつどこで現れるかなんて誰にも分からないのだから。もちろん滅多に現れるものではないが。
「ええい!!臆病者め!!ならば我々が資材の支援をしてやって、なおかつ北九州鎮守府で対抗演習をすれば問題なかろう!?」
ほほう、思ったよりもあっさりとこの条件を引き出せたか。余程うちと演習をして勝つ事に執着しているようだな。資材の心配も鎮守府を留守にする心配もなく対抗演習が出来るならば最高の条件だ。
「まぁ・・・そうですね。」
「ここまで譲歩してやったのだ。日程や演習のルールに関してはそちらに譲歩してもらうぞ?」
「仕方ありませんね・・・ただ一つだけ言わせて貰いますが、先程お伝えした通りうちの艦娘達の戦闘能力はかなり低いです。まともに動けるとしたら、川内が率いる夜戦部隊くらいなものでしょう。実際に戦艦棲姫に止めを刺したのもこの部隊ですし。」
「つまり夜戦で戦いたいと言うわけか。」
「そうですね。ですがルールに関してはこちらが譲歩致します。ですから弱い部隊を相手に確実に勝ちたいと言うのであれば、昼戦でもお相手は致しましょう。」
「そんな事を言われて昼戦を挑むような腑抜けは佐世保の傘下にはおらんわ!!その代わり演習は明日から連日行うものとする。構わんな?」
やはりプライドを刺激するのは有効のようだ。これだけ御し易い人間だと悪巧みは向かないかもな。軍人としては真面目な人間かもしれないが。
「分かりました。ここまで譲歩して頂いたのであれば、せめて日程くらいは譲歩致します。」
「ふん、ではこれで失礼する。詳細はまた送る。」
「はい、お待ちしております。」
ふぅ・・・とりあえず良い条件を引き出す事に成功した。夜戦限定であれば多少は勝負になるかもしれない。後はなんとか勝つ為の作戦を考えなければな。
やったね川内ちゃん!!毎日夜戦が出来るよ!!