疑心暗鬼提督のブラック鎮守府再建   作:ライadgj1248

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 引っ越しの準備やらなにやらで忙しい日々ですが、更新ペースが落ちても地道に少しずつを心掛けていきたいです。


180話(8日目朝)

 執務室のベッドでふと目が覚める。時間は午前5時だから少し早い時間だが、さっさと身支度を済ませてしまうか。寝ている時に起こされなかったと言うことは、特に問題が起きなかったと言うことだろうが、状況の確認はしておきたい。手早く身支度を済ませてから執務室に入ると、机の上に地図を広げていた大淀が顔をあげる。

 

「提督、おはようございます。良く眠れましたか?」

 

「ああ、状況は?」

 

「あれから川内さん達は無事に五十鈴さん達と合流してから長門鎮守府周辺の警戒をして、深海棲艦との接触はありませんでした。現在龍驤さん達哨戒部隊が出撃の準備をしているところです。あと30分くらいで準備が完了すると思います。」

 

 ふむ、とりあえず昨夜はあれ以上の動きはなかったようだな。はぐれが西から流れ込んで来たのか、それとも何か意図のある行動だったのかは判断出来ないが、一先ず安全が確保出来たならば良い。そうなるとあとは長門鎮守府がどれだけ早く機能するようになるかだな。長門鎮守府の現状は艦娘が霞一人しか居ない。建造で頭数を増やしたとしても全員練度1の脆弱な艦隊だ。しかも戦艦や正規空母を建造するのは、資材の運用を考えるとまだまだ先の話だろう。まずは巡洋艦と駆逐艦で近海の警備と遠征による資材集めを安定させる事になるはずだ。

 

「問題が無いのであればそのまま予定通りに進めろ。それで大淀は地図を眺めて何を考えていたんだ?」

 

「あ、いえ、その・・・今回の一件の流れをもう一度確認しておこうと思いまして。」

 

「なるほどな。」

 

「それで思ったのですが・・・昨晩の深海棲艦についてなのですが、やはり少しだけ不自然な気がします。」

 

 少しだけ不自然か・・・確かに少し気になっていたところだ。深海棲艦の行動に関してはまだまだ把握出来ていない事が多いから、自然な深海棲艦の動きというのも変な話だが、知能の低い下位の個体であれば本能のままに動くはずだ。つまりは戦力差も考えずに鎮守府に襲撃を仕掛けてもおかしくはない。だが奴らはこちらに仕掛けて来ようとはしなかった。となると上位の個体からの指示があったか、鎮守府の襲撃よりも優先されるものがあったかだ。

 

「ふむ・・・理由は?」

 

「昨日横須賀の艦隊が周辺海域の調査として、かなり広範囲の深海棲艦を殲滅しています。ですのではぐれがふらふら彷徨うだけで、あの海域に現れるでしょうか?何か目的があったと考えるのが自然だと思います。」

 

「そこは私も気になっていたところだ。川内の話では最初は同じ場所で留まっていて、別の場所に移動しようとしていたと言っていた。ならば何か目的があったと考えるのが自然だろう。」

 

「そうですね。大きな戦闘があった場所には深海棲艦が寄って来やすいという話もありますし、そう考えれば自然な行動とも言えるのですが・・・」

 

 確かに大規模な討伐作戦の後には掃討戦をするのが通例ではある。だから大きな戦闘後に深海棲艦が集まって来るというのも、それなりの信頼性のある話だ。集積地棲姫に戦艦棲姫、さらには周辺の拠点を片っ端から潰して行ったので戦闘の規模はかなり大きい。だからはぐれが戦場の跡地に惹かれて来たという話なのか?

 

「とりあえずは継続して哨戒部隊を送り込んで、経過観察をするとしよう。鎮守府の防衛が最優先ではあるが、調査の結果次第では深海棲艦の生態について何か得られる物があるかもしれない。」

 

「了解しました。では長門鎮守府近海の哨戒部隊とは別で、哨戒部隊を編成しますか?」

 

「そうだな・・・哨戒と同時に昨日横須賀が潰した拠点の資材の回収もしたい。小規模の拠点だったとは聞いているが、それなりの資材は得られるはずだ。」

 

「ではすぐに哨戒部隊と遠征部隊を編成しますか?」

 

「いや、先に今日やるべき事を確認しておきたい。演習も進めたいからな。」

 

「佐世保傘下の鎮守府との演習の件ですか?」

 

「それもあるが普通の演習も進めたい。特にドロップ艦達は一度演習で実力を確かめておきたい。その他にも実戦を任せるのが不安な者も多い。」

 

 一応艦娘達は生まれた時から本能的に海上で戦う事が可能である。だが可能であると言うことと実戦で頼りになるかはまた別だ。それに同じ艦娘であっても多少の性能差や特別な個性を身に着けている者も存在する。北九州鎮守府で言えば春雨と川内が顕著な例だろう。春雨の深海棲艦化は提督からの虐待による後天的なものだと思われるが、虐待を受けていた数多くの艦娘達の中で春雨だけが深海棲艦化している事を考えると、何かしらの素質があったと考えられる。そして川内の夜戦限定の索敵能力も通常では考えられない。高練度の歴戦の艦娘ならばある程度索敵範囲も広がるとは思うが、川内は改二にすら至っていない。もちろん個体差に関しては能力が低下する場合も考えられるし、体調や精神状態にも大きく影響される。

 

「なるほど。でしたら演習したいメンバーをリストアップして、鹿島さんに任せてみてはどうでしょう?」

 

「鹿島か・・・確かに練習巡洋艦としての性能も見ておきたいところだな。だが鹿島自身がドロップしたての練度1だし、演習の成果はすぐに実感出来るものでも無いからな・・・」

 

「そうですね・・・演習も日々の積み重ねではありますが、練度の低い者であればその効果も見えやすいと思います。しかし提督が懸念される事も理解出来ますので、長門さんと共同で演習の監督をして頂くというのはどうでしょう?長門さんは艦娘の取りまとめとして動いて貰っていますし適任かと。」

 

 確かに前回の艦娘達の能力を確かめる為に行った演習も長門が指揮をしてくれていたな。あの時も艦娘達の課題の洗い出しという仕事をきちんとこなしてくれた。

 

「分かった。それでいこう。では鹿島と長門で指揮をして、ドロップ艦は全て参加させるとして、正規空母も引き続き演習をさせたい。あとは第七駆逐隊と羽黒も気になるところだし、金剛姉妹にも砲撃演習をさせておきたい。」

 

「なるほど。第七駆逐隊も演習に参加するという事は、曙さんが執務が出来ないという事ですね。では引き続き私が秘書艦を務めましょう。」

 

「いや、大淀は昨晩寝ていないだろ?引き継ぎが終わったらちゃんと休め。」

 

「私ならまだやれます!!それに秘書艦業務はどうするおつもりですか!?」

 

 どうにも大淀も曙も秘書艦業務で無理をしようとする傾向があるな。有事の際であれば無理してもらう必要もあるが、平常時に無理をする必要は無い。

 

「午前中は曙に任せれば良い。午後から大淀に秘書艦を任せて曙に演習をさせれば良いだけだ。それと大淀も曙も少し気負い過ぎだ。平常時に無理をすればいざと言う時に動けなくなる。この話は何度かしているはずなのだが?」

 

「も、申し訳ございません・・・」

 

「秘書艦の仕事に熱心なのは良いが、休む時はきちんと休め。」

 

「分かりました・・・」

 

 一応大淀も理解はしているようだが・・・これは曙も含めて一度きちんと話をしておくべきか?

 

「あとは佐世保傘下の鎮守府との演習だが、これは島津提督からの通知があってから決める。だが夜戦であれば川内が必須なのと、火力の確保で重雷装巡洋艦の二人には出て貰う事になるだろう。」

 

「そうですね。川内さんが旗艦ならば優位な場所から先制攻撃を仕掛けられると思います。夜戦火力の高いお二人を採用するのは良い判断かと。」

 

「となると・・・遠征部隊は旗艦を龍田に任せて、吹雪、睦月、如月、春雨、朝潮にしよう。哨戒部隊は旗艦を鳳翔に任せて摩耶、衣笠、白露、時雨、夕立で編成するか。」

 

「遠征部隊は良いと思いますが、哨戒部隊が少し重めの編成ですね。どのような意図が?」

 

「今回は哨戒と同時に発見した敵艦隊を叩けるだけの火力が欲しい。戦艦や正規空母が出てくるなら撤退するべきだが、重巡洋艦くらいならば仕留めておきたい。哨戒部隊は遠征部隊の護衛という意味合いも持たせるつもりだから、ある程度の戦力が必要だと考えた。」

 

 横須賀が拠点を潰して回ったおかげで、強力な個体は現れる可能性が少ないのも強気に出られる理由だ。戦場跡に寄ってくるはぐれがいれば叩いておきたい。

 

「なるほど。ではそのように通達しておきます。」

 

「とりあえず今考えられるのはこのくらいか?」

 

「艦娘新教の方はどうされます?」

 

「そう言えばまだ叢雲と細かい打ち合わせをしていなかったな・・・朝食の席ででも話をしよう。時間に関しては叢雲に任せるし、案内は球磨がいれば問題はない。」

 

「提督は直接出向かれないのですか?」

 

「ああ、忙しいのに私がわざわざ出向く必要も無いだろう。球磨には出発前にもう一度釘を刺しておくし、何か問題が起こればすぐに連絡するように伝える。神林さんも昨日の電話の雰囲気であれば、下手な真似はあまりしないだろう。」

 

 あの横須賀鎮守府の艦娘が来るというのに、何か問題を起こせば艦娘新教側から切られてもおかしく無い。そして球磨が艦娘新教での扱いを暴露してしまったら、確実に問題が起こってしまう。それこそ信者が暴動を起こして、責任を艦娘新教側から全て押し付けられて殺されてもおかしくは無い。ならば細心の注意を払って問題が起きないようにするはずだ。

 

「分かりました。・・・・・・龍驤さんから出撃準備が整ったとの連絡がありました。」

 

「では出撃させてくれ。」

 

 さて、今日も忙しい一日になりそうだ。




 この小説では読者の皆様を疑心暗鬼へと引き摺り込みたいものです。

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