コンコンコン
「叢雲よ。少し良いかしら?」
「入れ。」
大淀が艦娘達への指示を通達して、そろそろ朝食を食べようかと思っていると、叢雲が執務室を訪ねて来たようだ。
「今日の予定について話をしに来たわ。」
「ああ、今日で横須賀の艦隊は引き上げるのだろう?それと軍艦防波堤への訪問だったか?」
「ええ、秋月達の要望に応えて貰って感謝するわ。それで今日は出来るだけ早目に動きたいから、朝食を済ませたらすぐに向かいたいのだけれど構わないかしら?人員は秋月型姉妹の三人と付き添いで私が行くわ。」
「分かった。こちらからは案内役として球磨を出す。とりあえず艦娘新教側に横須賀の艦隊は忙しいから、あまり時間は取れないかもしれないと伝えてある。あと球磨にも案内だけに徹しろと伝えておくから、叢雲達の動き易いようにすれば良い。」
「そう・・・それは助かるけど・・・」
何故か訝しげな表情で叢雲がこちらをじーっと見てくる。何か問題のある事をしてしまったか?
「もしかしてあんた艦娘新教と揉めてるの?」
「・・・・・・なぜそう思う?」
「なんとなくよ。そういえば昨晩も艦娘新教の話が出てきたら少し気乗りしない雰囲気だったわね。あの時は秋月達も居たから深くは聞かなかったのだけど、何か訳ありな感じかしら?」
はぁ・・・良く見ている。とは言えこの問題に関しては自分に落ち度は無い話だ。あの神林という男と前任者が起こした問題だ。
「まあな。艦娘新教側の司祭が北九州鎮守府の前任者と仲良くしていた。後は察してくれ。」
「・・・・・・そう。踏み込んだ事を聞いて悪かったわね。まさか艦娘新教の人達が・・・」
「横須賀鎮守府としては艦娘新教側との関わりは無かったのか?」
「私達は艦娘新教とはかなり密接な関係よ。鎮守府に艦娘新教側からの支援も貰っているし、基地祭や公開演習などの時にはお世話になっているもの。非番の娘が横須賀にある艦娘新教の支部に遊びに行くくらいには友好的な関係よ。司祭も優しいおじいさんだし、私も何度かお世話になってるわ。他の横須賀傘下の鎮守府でも似たような感じだったから・・・」
なるほど。どおりで警戒心の強い叢雲が艦娘新教側を警戒していなかったのか。叢雲の証言から考えると、おそらく横須賀鎮守府の傘下の鎮守府近辺にはまともな司祭達を派遣しているのだろう。艦娘新教側としても日本最強の艦隊を持つ横須賀と揉めるのは絶対に避けたいだろう。
「北九州に着任した司祭がそういうやつだったて話だろう。別に艦娘新教に所属してる奴が全て悪い奴だなんて言うつもりは無い。それと北九州支部の神林という司祭には充分に釘を刺しておいたから、余計な真似はしないと思う。だから叢雲達は気にせず軍艦防波堤に行ってくると良い。あとは私と神林司祭との問題だ。」
「分かったわ・・・想像以上に迷惑をかけてしまったようね・・・ごめんなさい・・・」
ずいぶんとしおらしい態度だな。想像以上に迷惑をかけてしまったと悔やんでいるようだが、そこまで気にする事だろうか?
「鎮守府を救って貰った恩に比べれば大した手間では無い。気にするな。どうせいつかはぶつかる問題だったしな。とりあえず今日は揉め事を起こさずにいてくれれば問題無い。」
「ええ、分かったわ。だったら秋月達には何も伝え無い方が良いかもしれないわね・・・あの子達は隠し事が出来る程器用じゃないもの・・・」
「そこは任せる。とは言っても向こうも問題を起こしたくは無いだろうから、気負い過ぎなくて良いはずだ。それと案内させる球磨は元々艦娘新教と関わりのあった奴だから、艦娘新教での事を聞くのは止めた方が良い。」
「そう・・・分かったわ・・・球磨さんにも辛い思いをさせてしまうのね・・・」
さっきから叢雲がかなり弱々しい雰囲気で調子が狂うな・・・いつものように毅然とした態度の方が好感が持てるのだが・・・
「そこに関しても気にするな。球磨も既に割り切っているようだ。むしろ私が神林司祭にしっかりと釘を刺したのを見て少し喜んでいたくらいだ。」
「そう・・・そんなに恐ろしい脅しをしたのかしら?」
「ふっ、想像にお任せしよう。ではそろそろ食事にしないか?あまり時間は無いのだろう?」
「そうね。すぐに横須賀鎮守府に戻らないといけないのよ。また別の海域でキナ臭い話があるから、早目に動いておきたいのよね。」
「そうか・・・横須賀の艦隊は大変だな・・・」
「慣れたものよ。じゃあ私は先に行かせて貰うわ。」
「ああ。」
ふむ、ようやく叢雲も調子を取り戻してきたようだ。それにしても叢雲達はまた別の海域に行くのか・・・理解はしていた事だが、横須賀鎮守府にかかる負担は相当大きいな・・・それこそ横須賀鎮守府に何か大きな問題が起きれば、防衛網が崩壊しかねない程に・・・だが嘆いたところでどうにかなる話でもない。少しずつでも戦力の強化をするしか道は無いな。そんな事を考えていると、外から誰かが走ってくる音が聞こえる。
「ごめんなさい!!遅くなったわ!!」
執務室に飛び込むように入って来た曙は、ここまで全力で駆けて来たようだ。現在の時刻は午前6時になったところだ。多くの鎮守府は午前8時から通常業務を始めるところが多いと聞くので、この時間に来た曙はかなり早い方だ。もちろん朝食もまだ食べていないはずだ。大淀にしろ曙にしろどうにも無理をしたがる傾向にある。いや、これは何時から執務を開始すると決めておかなかった自分の落ち度かもしれない。
「はぁ・・・別に遅くは無い。とりあえず今から食事にするつもりだから曙も一緒に来い。」
「え!?でもまだ引き継ぎが!?」
「大淀はどうする?」
「ご一緒させて頂きます。」
「では行くか。」
大淀と曙を引き連れて執務室を出ると、廊下の向こうから漣が歩いて来るのが見えた。
「あ、ご主人様!!おはようございます!!」
「ああ、おはよう。こんな朝早くにどうした?」
「まあその、今日も朝からぼのたんが大慌てで準備して駆け出して行ったもので・・・また連行案件かと思って漣が来たのですが・・・もう連行中ですかな?」
相変わらず無理をする曙を心配して来たわけか。だが先日よりは漣の表情が穏やかなあたり、そこまで不安を感じている訳ではなさそうだ。
「なるほど。まあ、だいたいそんな感じだ。」
「ですよねぇ〜まったくぼのたんは・・・少しは学習して貰いたいですなぁ。」
「は、はぁ!?別にそんなんじゃないでしょ!?」
「そう言えば今日は漣だけなのだな。朧と潮はどうしたんだ?」
「おぼろんと潮ちゃんには先に食堂に行って、食事の準備をして貰ってますよ。どうせぼのたんは連行される運命でしょうし、先に準備しておいたほうがスムーズに食事出来るでしょ?もし良ければご主人様と大淀さんもご一緒しませんか?」
なるほど。曙の行動と自分がどう対応するかを考えての行動か。先を見据えての行動は悪くない。
「ではそうしよう。大淀も構わないか?」
「はい、もちろんです。・・・・・・朧さんと潮さんに私達の食事の手配も依頼しておきました。」
「おお!?流石は秘書艦の大淀さん!!見なさいぼのたん、これが出来る秘書艦というものですぞ?」
「うっさいわね・・・大淀さんが凄いのは嫌ってほど知ってるわよ・・・でも私だって・・・」
「あー、ごめんって。そう落ち込まないでよ。ほら、ぼのたんには私達第七駆逐隊がついてるからさ。一人じゃ勝てないなら頼りなって。数は力ですぞ!!」
「別に落ち込んで無いわよ!!まあそうね・・・手が足りない時は手伝って貰うわ・・・」
ふむ、どうやら曙が無茶する件に関しては、漣達が上手くフォローしてくれそうだな。最初から仲間想いの者達だから、上手く噛み合えば良いのだがな。
ぼのたんはいじられてこそ輝く