球磨からもうすぐ北九州鎮守府へと帰還するとの報告を受けたので、曙と共に出撃港へと足を運ぶ。出撃港には横須賀の艦隊が集まっており、艤装を装着した状態で待機している。後は叢雲達が帰還したらそのまま横須賀へと帰る予定になっている。北九州鎮守府側の艦娘も何人か来ていて、横須賀の艦娘達との別れを惜しんでいる。ついでに青葉が最後のチャンスとばかりに、横須賀の艦娘達に取材と撮影をしている。
「はぁ・・・青葉、あまり迷惑をかける事はするな。」
「えぇ・・・ただ取材してるだけですよぉ・・・ちゃんと相手に許可をとってから取材してますよ?」
「それはそうだろう。もしまた無許可で取材や撮影をしていたら営倉行きだ。横須賀の者達もうちの青葉が迷惑をかけて悪かったな。」
「あ、いえ。横須賀所属の青葉もこんな感じですし、他の鎮守府の青葉さんから取材を受ける事もあります。だから慣れてるので大丈夫ですよ。」
なるほど。そう言われれば横須賀や他の鎮守府にも青葉が居るのだったな。どうやらどこの青葉も取材取材と言っているのだろうな。
「そうか、そう言って貰えると助かる。ん?叢雲達が戻って来たか。」
帰還した叢雲達は慣れた様子で出撃港から陸に上がってくる。叢雲はいつものキリッとした表情だし、秋月型姉妹は満足そうな表情で、球磨も普通の表情のようなので、特に大きな問題は起こらなかったようだな。一応何か手荷物を持っているようなので、何かお土産でも渡されたのだろうか?
「待たせたわね。何事もなく無事に帰還したわ。」
「ああ、それは良かった。球磨も案内ご苦労だった。報告を聞きたいから少し待っていてくれ。」
「分かったクマ。」
「横須賀艦隊!!総員整列しなさい!!」
叢雲の号令で横須賀の艦娘達が自分の前に素早く綺麗に整列する。こういう細かなところでも練度の高さを感じさせるものだ。そして横須賀の艦娘達と話をしていた北九州鎮守府の艦娘達も、自然と自分の後ろに整列したようだ。
「ではこれで私達横須賀艦隊は横須賀鎮守府へと帰還させて貰うわ。前線基地として私達を手厚く支援してくれた事に感謝するわ。」
「こちらこそ北九州鎮守府の危機に駆け付けてくれた事に感謝する。」
「ええ、また何か異変があったらすぐに連絡しなさい。横須賀鎮守府は深海棲艦と戦う全ての鎮守府の味方をするわ。」
「ああ、まだまだ北九州鎮守府の戦力は心許無いから、また頼る事があるかもしれん。我々も出来るだけ早く戦力として使えるようになるつもりだが、それまではまた頼む。」
「そう、心強い言葉だわ。あんた達のところと肩を並べて戦える日を楽しみにしているわ。じゃあ私達はこれで失礼するわ。総員!!敬礼!!」
横須賀の艦娘達の一糸乱れぬ敬礼にこちらもきっちりと敬礼で返す。少しだけ叢雲が微笑むと、すぐに表情を引き締めて他の艦娘達と共に広い海へと出港する。一糸乱れぬ行軍をする横須賀艦隊が見えなくなるまでその姿を目に焼き付けた。いずれは自分の艦娘達もあの練度の高さに追いつけるように励まねばな。
「・・・・・・行ったな。」
「ええ、そうね。」
「横須賀に並び立てるように励まねばな。これから徹底的に鍛え上げるぞ。」
「ええ、望むところよ。」
隣に居た曙も横須賀の雄姿を目に焼き付けたようだ。いつにもまして気力に満ちた目をしている。普段見るような焦っている感じではなく、静かに闘志を燃やすような良い目だと感じる。
「あー、提督?曙?なんか今はちょっとあれクマ?」
今後どうやって艦娘達を鍛え上げるかを思案していると、球磨が少し遠慮気味に声をかけてくる。ああ、そう言えばまだ艦娘新教側での報告を聞いて居なかったな。
「ん?ああ、すまん。報告を聞こう。」
「分かったクマ。とりあえず軍艦防波堤についたら信者がいっぱい来てたクマ。司祭の奴が信者達に情報を流したに違い無いクマ。まあ、信者達は手や旗を振ったりしてただけクマ。悪い事は何もしてないクマ。」
「心配しなくても信者達をどうこうするつもりは無い。それで?その他は?」
「叢雲も球磨も事を荒げるような事はしなかったクマ。司祭もお土産にお菓子を渡してきた事以外は、特に目立った事はしてねぇクマ。」
「なるほど、それがそのお菓子か?」
「そうクマ。」
球磨が持っていたお菓子を渡して来たので、とりあえず重さを確かめてみるがそんなに重くない。多少箱を振っても金属音はしないな・・・ひとまず問題は無さそうなので、詳しく調べるのは後にしよう。
「提督も叢雲と似たような事をしてるクマね?」
「叢雲が?」
「そうクマ。叢雲もお菓子を貰った時にさり気なく似たような動きをしてたクマ。なにしてるクマ?」
叢雲も貰った菓子箱の中身が本当に菓子なのかを気にしていたか。横須賀と縁を結ぼうと賄賂を贈る奴も多いだろうから、その対策も慣れたものと言うわけか。
「ああ、菓子箱の重さを確かめたのと、少し振って音がしないかを確かめただけだ。」
「お菓子の中身が気になるクマ?」
「ああ。正確には菓子箱の中身が本当に菓子なのかを気にしている。これで貴金属でも入っていて、賄賂扱いになるのも馬鹿らしい。」
「な、なるほどクマァ・・・球磨はそこまで気が回らなかったクマ・・・」
「別に構わない。もし賄賂が入っていたら、その件を公表して神林司祭を追い詰めるだけだ。他に何か気になる事は無かったか?」
「ああ、そう言えば司祭から提督は来てないのかって聞かれたクマ。提督が来てない事を知ったら露骨に安心してたクマ。」
「ほう?それはまた私も嫌われたものだな。」
「あれだけ脅迫したら当たり前クマ。球磨でも提督を敵に回すのは勘弁クマ。」
・・・そこまで怖かったか?ちょっとした牽制程度のつもりだったのだが?
「それともう一つ思い出したクマ。司祭の隣になんか偉そうな奴がもう一人居たクマ。」
「偉そうな奴?名前を聞いてないのか?」
「身なりの良い奴が司祭の隣に居たクマ。でもすぐに軍艦防波堤から離れたから、そいつと話す機会は無かったクマ。」
ふむ、身なりが良いと言うことはそれなりの立場を持つ人間だろう。そして球磨が知らないと言うことは、艦娘新教絡みじゃ無い可能性が高い。だがそれにしては軍艦防波堤に現れた理由が読めない。艦娘新教を通じて北九州鎮守府や横須賀鎮守府との縁を作るつもりなら、積極的に話しかけてくるはずだ。それこそ名乗りもしないのは不自然だ。
「そいつの特徴とか覚えているか?」
「クマァ〜?なんか小柄でキツネ目の胡散臭い笑顔な奴だったクマ。スーツを着てたから艦娘新教の偉いやつじゃ無いと思うクマ。」
「ふむ・・・身なりが良くて小柄でキツネ目でスーツを着ている胡散臭い奴か・・・」
その特徴で思い浮かぶのは綾瀬さんだろうか?市長であれば艦娘新教と関わりがあるのも理解出来る。だが介入するにしては中途半端な関わり方だ。いったい何を企んでいるのだろうか?
「そいつは隣に立ってただけで何も喋らなかったクマ。だからもうこれ以上の情報はもう無いクマ。」
「ああ、分かった。案内と報告ご苦労だった。」
とりあえず今はこのくらいで問題無いだろう。神林さんは大人しくしていたようだし、綾瀬さんと思われる人物の目的を探るには情報が少な過ぎる。
次回あたりから修行パート突入かな?