疑心暗鬼提督のブラック鎮守府再建   作:ライadgj1248

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 あれですね。シリアスパートを書こうとすると、以前の話との矛盾点に気が付くものです・・・
 以前から考えていた設定をようやく表に出そうとしたのに、あれ?この話あの娘が言及してないのおかしくない?とか思い浮かぶと、慌てて話を修正するという計画性のなさ・・・
 うん、これも作者の個性として割り切ろう。


187話(羽黒面談)

 応接室のソファに腰を下ろして羽黒にも座るように勧める。先程から羽黒の様子を観察しているが、どうにも違和感を感じてしまう。売られていた艦娘達を平川元市長の屋敷から奪還した時に、艦娘達の多くはボロボロの状態だった。もちろん羽黒もそのうちの一人であったので、売られた先で虐げられていた事は容易に想像出来る話だ。であれば自分と応接室で二人きりになるこの状況に対して、なにかしら反応があるのが普通だと思う。しかし羽黒は怖がるでも反発するでもなく、ただ少し俯いて暗く生気の抜けたような目をしている。むしろ少し怯えているほうが士官学校で見た羽黒に近いと感じるくらいだ。

 

「さて、さっそく面談を始めよう。知っているとは思うがこの鎮守府で新しく提督になった葛原だ。」

 

「えっと・・・羽黒です・・・妙高型重巡洋艦姉妹の末っ子です・・・」

 

「ああ、宜しく頼む。確認だが羽黒は前任者の大森提督から民間人に売られていた。間違いないな?」

 

「はい・・・間違いありません・・・」

 

「買い手は誰だ?」

 

「大手配送業者の社長です・・・」

 

「配送業者だと!?つまり今鎮守府に食料やらを配送させているところか!?」

 

 そうなると少し面倒な話になる。もし羽黒が配送業者に怨みを抱いていたとして、羽黒に気力を感じない原因となっていたとしよう。だがその解決の為に配送業者と縁を切るのは難しい。信頼出来る別の会社を探して契約を結ぶのは非常に困難だ。

 

「ご、ごめんなさい・・・違うと思います・・・今鎮守府に来られているのは・・・白馬運輸という会社ですよね?」

 

「ああ、たしかそんな名前だったと思う。」

 

「私が売られていたのは黒蟻運輸です・・・表向きは普通の配送業者ですが、裏では違法な商品の配送をしていました・・・・・・私達艦娘も含めて・・・・・・」

 

「ほぅ・・・艦娘の取引にも手を出していたと?」

 

「はい・・・・・・何人もの艦娘を運んでいたと社長の岩尾さんは自慢してました・・・うちのシステムは完璧だからバレる事は無いって・・・よく自慢されていました・・・」

 

 ふむ、ずいぶんと程度の低い完璧だな。艦娘相手なら情報が漏れないと高を括っていたか?どうせバレても久藤提督あたりがもみ消していただけだろう。それにしても・・・

 

「・・・・・・何人もの艦娘か?」

 

「はい、何人もです・・・」

 

「つまり他にも売られた艦娘達がたくさん居ると?」

 

「はい・・・」

 

 これはまた大問題だな・・・確かに記録上不自然な轟沈をした艦娘達はまだ多く存在する。だが地下の隠し部屋にあった艤装の持ち主は全員帰還しているし、平川元市長も帰って来た艦娘達以外は把握していない様子だったはずだ・・・となると呉鎮守府の傘下の奴等に送られた艦娘達の事か?

 

「その艦娘達の行き先に心当たりはあるか?」

 

「・・・・・・何人かは秘密裏に呉鎮守府傘下の鎮守府へと運んだと聞いています・・・」

 

 やはり呉鎮守府傘下の鎮守府か・・・正規の手続きを経て艦娘が移籍という形で売られていたのは把握している。正直こちらは正規の手続きを経ているので奪還は無理だ。だが正規のルートを通さない艦娘の販売も行われていたのか・・・まあ、鎮守府が相手であれば艤装の管理に困る事は無いし、わざわざ平川市長を通さないのも納得出来る。正規のルートを通さないのであれば、当然後ろ暗い理由があるはずだ。他所の鎮守府を経由して、その地域の有力者に艦娘を売っていたとかなのか?

 

「なるほど。しかし何人かはって事は、他にもまだたくさん居たのだな?その行き先に心当たりは?」

 

「・・・・・・消えました。」

 

「・・・・・・なに?」

 

「・・・・・・皆消えたか解体されたと思います。」

 

「ん?解体はともかく消えたとはどういう事だ?それは足取りを追えないと言う意味か?」

 

「いえ・・・・・・文字通りの意味で消えました・・・少なくとも妙高姉さん達は・・・私の目の前で・・・」

 

 消えただと!?つまり艦娘の消失現象か!?確かに提督を失った艦娘は徐々に力を失って、最終的には力尽きて消えてしまうとは聞いた事がある。実際に自分も売られていた艦娘達に、鎮守府で艦娘として生きるか退職金を貰って自然消滅するまで好きに生きるかを選ばせた。結果は全員鎮守府で艦娘として生きる事を選んだので良かったのだが・・・

 

「それは本当の事なんだな?」

 

「・・・・・・はい。」

 

 羽黒が嘘をついているようにはとても見えない。となると艦娘の消失現象が起こっていた事は確定だ。そうなると次は何故消失現象が起こってしまったかだ。

 

「分かった。羽黒が知る限りの事を教えてくれるか?」

 

―――――――――――――――――――――

 

 羽黒の話をまとめると、艦娘を一般人に販売していた当初から艦娘の消失現象が起こっていたらしい。当然高い金を出して購入した奴等は、閉じ込めていた艦娘が急に跡形もなく消えたので、大森提督や仲介の平川市長に苦情を言う事になる。だが大森提督にも消失の原因は理解出来なかったので、艦娘達を使い捨ての商品として売っていたとの事だ。その方が何人も艦娘を売れるからむしろ都合が良かったのだろう。

 しかし買った方は出来るだけ長く使いたい。そのために艦娘を購入した有力者どうしでの情報交換や、艦娘を使って実験をし始める奴が出てくる。その結果普通に犯した艦娘よりも、激しい暴行を加えた艦娘の方が消失までの期間が短い事が分かった。さらには艦娘新教のようにある程度艦娘を大事に使っている場所では、より長く生存する事が確認された。つまり傷ついた艦娘はより早く力を失って消失する事になる。

 そうなると次に出てくる発想は、入渠で傷を癒やせばより長く使えるのではないかという発想だ。艦娘は艤装を外した状態でも人間より丈夫だが、入渠しなければ傷が治らないという欠点を持つ。だから傷を治す為にこっそり鎮守府へと運び込み入渠させてみたところ、消失現象がおさまったという。なので大森提督は艦娘のメンテナンス料を取って、販売した艦娘の入渠をさせていたらしい。そしてこのシステムで回り始めたのは半年前くらいの話だそうだ。

 

「はぁ・・・想像以上に胸糞悪い話だったな・・・」

 

「ご、ごめんなさい・・・」

 

「何故謝る?羽黒は被害者だろう?悪いのはこんなシステムを作った大森提督達とそれを利用した奴等だ。それにしても一つだけ分からない事がある。」

 

「・・・なんでしょうか?」

 

「他の鎮守府に売られた艦娘達は所属が変わるのだろうが、一般人に売られた艦娘達は羽黒も含めて北九州鎮守府に所属はしていたんだよな?」

 

「そう・・・ですね・・・一応正式には北九州鎮守府の所属でした・・・」

 

 やはりそうだよな・・・売られていた艦娘達の艤装は北九州鎮守府で管理していた。それは当然だ。いくら艦娘が人に危害を加えられないからと言って、軍艦の火力を持つ艤装を一般人に渡す馬鹿はいない。それに相手が提督でなければ艦娘の譲渡は不可能なはずだ。つまり一般人に売られていた艦娘達は、形式的には大森提督の命令で一般人の家に長期滞在していた形になる。つまりは大森提督の指揮下にありながら消失現象を引き起こしたという話になる。

 

「はぁ・・・これは艦娘の消失現象の通説を覆す事態だぞ・・・」

 

「はい・・・大森提督や岩尾さん達もその事で随分と頭を悩ませたと聞いています・・・」

 

「この北九州という街はある意味艦娘研究の最先端をいっていたのだな・・・胸糞悪い話だが・・・」

 

「そう・・・なるのでしょうか・・・」

 

 かと言って艦娘の消失現象について研究を進めるような真似は出来ない。やっと多くの艦娘達が前を向いて艦娘として戦う事を選んでくれたのだ。この研究の為に消失現象を引き起こそうものなら、この鎮守府は一気に崩壊する。

 

「だが情報としてはかなり貴重な情報だ。よく教えてくれた。」

 

「はい・・・」

 

「とはいえ、この情報はかなり扱いが難しい。だから今後この件に関して口外する事を禁じる。良いな?」

 

「わかりました・・・」

 

「ちなみにこの話を既に誰かにしたか?」

 

「いえ・・・していません・・・」

 

 ならば情報が漏れる心配はないか?おそらく艦娘を購入していた奴等と艦娘販売に関わっていた奴等は、この件について公表はしないはずだ。自分達の悪事について言及する事になるのでわざわざ公表するメリットが無いし、もし公表しようとしたのが久藤提督にバレたら口封じされるはずだ。なら北九州鎮守府で他に知ってる艦娘はいるのか?候補としては帰還組と大淀だな。それと艦娘の販売に協力させられていた曙か?だがあいつらは艦娘の消失については何も言わなかった・・・少し探ってみる必要があるが、情報が漏れるのも厄介だ・・・慎重に事を進めなくてはな・・・

 

「ではこの話はここまでとしよう。次は今後についての話をしたい。」

 

「今後・・・ですか?」

 

「ああ、羽黒の今後についてだ。何か要望などがあれば聞いておきたい。」

 

「特には・・・・・・ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「もう誰かが居なくなるのが怖いです・・・一人になるのが怖いです・・・」

 

 妙高達の消失を見たのがかなりのトラウマになっているようだな・・・自分の指揮下に加わると宣言したときも、一人きりは辛いからだと言っていた。とは言え艦娘達は戦うのが仕事だ。遠征任務であっても不意の遭遇戦や敵潜水艦による妨害もあるので、誰かが沈む可能性は常にある。そんな場所にこの精神状態の羽黒を送り込むなんて冗談ではない。周囲の足を引っ張って被害が増えるだけだ。

 

「・・・・・・はっきり言おう。我々は戦争をしているのだ。常に誰かが沈むリスクを抱えて行動している。その覚悟が無い者を戦場には送り出せない。」

 

「それは・・・分かっているつもり・・・です・・・」

 

「だからもう一度問おう。羽黒は艦娘として戦うか?それとも前線から身を引いて、消失するその時まで余生を楽しむか?」

 

「・・・・・・それは・・・私のような戦えない艦娘は必要無い・・・・・・ということでしょうか?」

 

「誤解を恐れずに言うならそうだ。」

 

「そう・・・・・・ですか・・・」

 

 羽黒がただでさえ縮こまっていた体を震えさせる。おそらく戦場に出て誰かを失うのは怖いが、一人寂しく消失するのも恐ろしいと言ったところか。

 

「だが羽黒にもう一度立ち上がる気力があるならば、私はその気持ちを尊重しよう。例えば正規空母の瑞鶴も酷い精神状態で、翔鶴が傷付く事を恐れている。だが今は少しずつ前を向いて、翔鶴を守れるだけの強さを手に入れようと努力している。だから私は瑞鶴には優先的に演習をさせようと考えている。」

 

「・・・・・・瑞鶴さんは・・・強いのですね・・・」

 

「そうかもな。だが瑞鶴だけが特別だとは思わない。ここの艦娘達の多くは虐げられ、心に傷を負った者が多くいる。それでもなお気丈に振る舞い戦場へと駆けて行くのだ。」

 

「そう・・・ですよね・・・私だけじゃ・・・ないですよね・・・皆つらい目にあってますよね・・・なのに私だけ・・・」

 

 どうにも羽黒は自分自身を責める傾向にあるようだ。それが曙のように仕事をする原動力になるのであれば、まだやりようがあるのだが・・・

 

「あくまで私見ではあるが、羽黒には心の芯となるものが無いように思える。」

 

「心の・・・芯ですか・・・」

 

「ああ、例えば瑞鶴なら翔鶴を守りたいという想いを持っていたから立ち上がれた。羽黒と同様に売られていた五十鈴は艦娘としての誇りを取り戻したいだったか?いずれにせよ強く生きるには強い想い、強い目的が必要なのだと私は考えている。」

 

 そう、私も兄を殺した奴らに復讐するという強い想いを胸に生きてきた。そして兄が護ろうとしたこの国を護るという想いも同時にだ。この2つがあったからこそ安易な暴力に頼らず、提督としての実力を身につける努力が出来たし、今後も提督として成長する為に努力は惜しまないだろう。

 

「強い想い・・・ですか・・・」

 

「ああ、言い換えれば欲と言っても良い。欲は全ての原動力だ。人間なんて欲を満たす為に生きていると言っても過言では無い。確かに欲に身を任せればいずれ身を滅ぼす事にもなるだろう。だが無欲な奴に強い意志は宿らない。だからこそ私は強い欲とそれをコントロールする理性が必要だと考える。」

 

「そ、そうですか・・・・・・」

 

「だからこそ羽黒も何か目的を持ってみたらどうだ?そうすればきっと強く生きられるはずだ。」

 

「強く・・・生きる・・・」

 

 そう言ってまた羽黒は黙り込んでしまう。だが私の言葉について考えてくれているならば、少し時間を与えたい。自分の欲なんてものは本人にしかわからないし、外部から与えてやるものでは無い。

 

「・・・・・・わ・・・私は・・・」




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